第6話 *街 3*
「えっ」
「さっきも言ったでしょ? ここでは配信とお金なの。ここまでは初心者用の基本的な概念とかマナーだったけど、これ以上のアドバイスが欲しかったら相応の見返りがないとね」
アリスの言葉にあずみは目を白黒させていた。
「お金取るんですか!?」
「そうよ。ただより怖いものはないのよ。特に、この世界ではね」
相変わらず手を出しているアリスにあずみは逡巡しているようだった。
そして、もぞもぞとポケットを探ると小さな小石を出してくる。
「なに? これ」
と聞いたがアリスは正体がわかっていた。Lv1のアイテムボックスに入っている通称キラキラ小石だ。ほとんど価値はないが少額のお金と交換できる。
「あの。今、持っているのそれしかなくて。あの、それじゃ足りないのわかっているんですど。でも、本当にそれしか持っていなんです」
あずみは両手にちょこんとキラキラ小石を乗せて恥ずかしそうにアリスに差し出した。
それを見て、アリスは笑い出してしまった。
「あの、やっぱりダメですよね」
と寂しそうなあずみに対して、アリスは「違う違う」と手を振る。
「気持ちはもらっておくわ。それなら、アドバイス料はツケにしてあげるから心配しないで、あはははは」
大通りの真ん中で大笑いしているアリスを通行人たちは遠巻きにしていた。
***
「さぁ、ここがこの街の中心にしてモニュメント『大砂時計の広場』だよ」
アリスが指し示した先には巨大な砂時計が鎮座した広場があった。
砂時計を中心に人々が行き交い、屋台が出ている。待ち合わせらしい人もいれば、なにかパフォーマンスをしていたのだろうか、台座と道具を片付けている人もいる。
クラシカルな装飾が施された砂時計の砂は、現在、その大部分が砂時計の上の部分に溜まっている。
「大砂時計、ですか」
「そう。これがこの異世界の中で唯一、時間を示しているんだ。といっても半年に一回ひっくり返るっていう大雑把なものだけどね」
「へぇ……」
あずみはに近寄って大砂時計を見上げた。
大時計の砂は、わずかに白みがかった砂色をしている。
あずみは「ビーチの砂みたいな色ですね」と感想を言っていた。
「ねー、綺麗だよね。これが……」
とアリスが言いかけた時、少年が一人、大砂時計に近寄ってきた。
少年は大砂時計の正面に立つと自分のマスコットだろう、デフォルメされたコウモリに向かって話しかけていた。
「あ、配信するみたいね。ちょっと場所、開けようか」
アリスが気がついて大砂時計からちょっと離れる。あずみもそれにくっついていた。他にも大砂時計の周囲にいた人々が気を遣ったのだろう、少年の配信のために場所を空けていた。
「配信て、ダンジョンだけじゃないんですね」
「そうよ。ダンジョン内で配信するのが多いけど、この街の中で配信する人も多いよ。生産系の人とか経営系の話をする人とか。自分のお店をリアルタイム配信する人もいるし」
「お店をやっているのも、配信者なんですか?」
「そうそう。この世界にいる人はみんな配信者だよ。そうじゃないと生きていけないしね」
「そうなんですね〜」
「あずみちゃん。他人事みたいに行っているけど、君も配信者なんだからね。わかってる?」
「でも、私は帰りたいですし……」
「もう、まったく」
アリスは、ため息をつく。あずみはこの世界の配信の重要性をわかっていないらしい。まぁ、そのうち、この世界で生きていけば否が応でも知ることにはなるだろうが。
「はい! 今日は『大砂時計』の基本スペックを確認していきたいと思います!」
少年は自分のマスコットらしいデフォルメされたコウモリの向こうにいる視聴者に向かって話し始めた。
「この砂時計は街の皆さんから、『大砂時計』と呼ばれています! 長年この街で暮らしている人によれば、最初はこの砂時計とゲートしかこの街には存在しなかったそうです。そこから今の街の発展を考えると皆さんの努力の凄まじさがわかりますよね」
アリスとあずみがおしゃべりをしている間に少年の配信は始まっていたらしい。
どうやら、街の初心者向けに見所を解説します。といった趣旨らしい。
アリスなどは「これで視聴者稼げるのかな?」とちょっと疑問に思ってしまう。なにしろ、大砂時計はこの街の始まりからここに鎮座している。その分、配信に取り上げられることも多いのだ。
今更感、あるけどな〜。配信テーマに自信があるのかしら?
アリスは、ちょっと興味が出てきたこともあり、そのまま、少年の配信を見学することにした。
「あの、マスコットに向けてしゃべるの恥ずかしくないですか?」
あずみはこそっとアリスに質問をしてきた。
少年の配信に混ざらないように小声でアリスが答える。
「僕は、何もないところで独り言を言うよりもいいかな〜。あとは慣れよ、慣れ」
少年は、身振り手振りで砂時計の大きさを伝えている。
*** ***
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