新人JK配信者が配信を頑張るよ
第4話 *街 1*
「お、アリスちゃん。久しぶり。元気かい」
「元気だよ〜。おじちゃんも元気そう。商売どう?」
「ぼちぼちだね。今日はまだ残っているよ。豚の串焼き、食べていくかい?」
「食べる! 二本ちょうだい。あずみちゃんも串焼きでいいでしょう?」
「はい……」
「お、その姿は新人だね。おじさんもここにきたばかりの頃は苦労したよ。頑張りな」
「は、はい。ありがとうございます」
アリスは2本分のお金を払うと屋台の店主に手を振って歩き出した。
あずみに串を一本渡す。アリスは肉にかぶりついた。大きな串に刺さった大きな肉はジューシーで美味しかった。
「おいしいです……」
「でしょ、あそこの屋台は当たりだよ」
「豚の串焼きって、ここにも豚がいるんですね」
「うーん」
あずみの感想にアリスは口ごもった。
「豚っていうか、豚っぽい生き物というか、豚っぽいモンスターかな」
「えっ」
アリスの発言を聞いてあずみの顔はゆがんだ。ゲテモノを口にした時の表情だ。
「ここではね、似た生き物で作った似た料理をそれっぽい名前で呼んでいるの。豚っぽい生き物の肉の串焼きだから豚の串焼き。鳥に似た生き物を揚げてあれば唐揚げ。そういうことだから」
「で、でも……」
「いい? 食材については深く考えないの。食べられなくなるよ」
アリスが声を低くしてあずみに忠告した。
アリスの態度の真剣さに気をされたのだろう、あずみは「はい」と素直に頷いた。
あずみは串焼きをじーっと見つめている。食べようか食べまいか。そんな葛藤をしているのだろう。
「いらないならもらうけど」
アリスが手を差し出しながらいうと、アリスは首を大きく振った。そして、意を決したように串焼きに再びかぶりつく。
「美味しいでしょう?」
「……。美味しいです」
「で、あずみちゃんは何が知りたいの?」
歩きながらアリスがあずみに問いかける。今歩いているのは、ゲート前から街の中心に向かっていく大通りだ。といっても都市計画があるわけではないので道幅はまちまちだし、お店や屋台も乱立している。
「ぜ、全部。です」
「へぁ」
あずみの返答に思わず変な声が出たアリスだった。
「全部とは大きく出たわね」
「だって、なにもわからないんですもん」
ちょっとだけ拗ねたような声音のあずみだった。きっとあずみちゃんはアバターの外見どおり若い子なんだろうな。と思う。
お金さえあればアバターで外見はいくらでも変更できる。実年齢が外見通りとは限らないのがこの世界だ。
「つまり、なにも知らないってことでいい?」
「はい……」
あずみは恥ずかしそうに俯いた。
「う〜ん。そっか〜」
アリスは腕を組んで考え込んだ。この世界について改めて教えるとなると、何を教えればいいのだろう。難しい。
「じゃ、まずはこの世界の仕組みについて教えようか」
「よろしくお願いします」
「じゃ、マーチちゃん全世界マップを出してくれる?」
アリスは自身の周りを浮遊しているマーチにお願いをした。マーチの胴体部分の時計が光ってホログラムを映し出す。
ちなみに、マーチは「時計白うさぎ」という。このマスコットもアバターで変更できるが、値段が高いのだ。
マーチのアバターももちろん高かった。
マーチが映し出したのは、この世界を簡易図に落とし込んだマップだ。
「街」が球形に簡略化され「ダンジョン」が円柱に簡略化されている。実際はもっと複雑な構造らしいのだが。まぁ、ここでは関係のない話だ。
そして「街」と「ダンジョン」の間に何本もチューブが走っている。
「いい? この丸いのが今いる「街」で円柱が「ダンジョン」そして間にあるチューブが各レベル階層を結ぶゲートってわけ。これがこの世界の一番簡単な形。まぁ、他にもエリアはあるけどね。今回は省略してるわ」
「街って、名前はなんていうんですか?」
「街は街よ。他に街がないもん。区別するための名前なんてないわ」
「はぁ」
「で、配信者はこの街とダンジョンを行き来しながら生活をしているわけ」
「ダンジョンて、必ず行かないといけないんですか?」
「そんなこともないよ。街の中で、生産系配信している人もいるし、パフォーマーしている人もいる。さっきの屋台のおっちゃんみたいに、屋台を運営していたり宿屋とかお店とかの経営系の配信している人もいるしね」
「すごいですね。みんな配信者なんだ」
「そうだよ。この世界にいるのはみーんな配信者。ま、中には別のことがメインの人もいるけどね。それでも、みんな多かれ少なかれ配信しているんだよ」
「すごいですね」
あずみの発言を聞いてアリスは足を止めた。手を振って、マーチにマップを消してもらう。
「なんか他人事みたいだけど、あずみちゃんも配信者なんだよ? わかってる?」
「うぅ……。でも、私は元の場所に帰りたいだけなんです。配信で人気になりたいわけでも、お金を稼ぎたいわけでもなくて」
「甘いわね」
といってアリスはあずみに指を突きつけた。
「ここでは、まず、配信することなの。配信してお金を稼いで、やっと、やりたいことがやれるってわけ。ただ、帰りたいです。なんて言ってちゃなにもできずに消えちゃうよ」
「でも、私、帰りたいんです。おばあちゃんとの約束があるし。こんな場所で配信者とかしている場合じゃないんです」
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