狐、狗あるいは狸の警告
それはまず、ピシッという破裂音として顕れた。
間髪を入れず、あたりが真っ暗になった──電気が切れた!
「うわっ」
「え、えっ? 何これ? えっ?」
「どういうこと?」
「痛っ、ちょっとやめてよ」
灯りと呼びうるものは、結界の頼りない灯を除けば、あとは薄汚れた窓から微かに差し込む、弱々しい残光くらいのものだった。突如訪れた暗闇は、覿面に僕らを動揺させた。誰もがいっせいに動き出し、あるものは友人と衝突し、またあるものは足元のキャンドルを蹴倒した。
誰かがスマホの懐中電灯をつけた。なるほどその手があったかと、僕も誰かに撲たれた顎をさすりながら自分のスマホを取り出そうとして、そして舌打ちした。部長に奪われたことを失念していたのだ。
そうこうしている間にも、白く小さなライトは次々に灯り、参加者たちの怯えた顔を闇の中に浮かび上がらせた。
まず声を上げたのは、田中先輩だった。
「みんな、大丈夫?」
後輩たちは怯えた顔を見合わせた。
「まぁ、大丈夫といえば大丈夫です」
「……こっちも、大丈夫です」
「うえっ、なんだこれ」これは吉川君の声だ。「何か踏んだ」
ジャリッという金平糖でも噛むような音が、闇の中に響いた。
僕はとっさに鋭い声を上げた。「うかつに触るなよ。電球の破片かもしれない」
「あっ」
不意に三神さんが、小さく叫んだ。何かを拾い上げ、ライトで照らし出す。
彼女が拾い上げたものを、僕たちは一斉に覗き込んだ。
そして、一様に身をのけ反らせた。
それはA4サイズの、ごくありふれたコピー用紙だった。教材プリントなんかでおなじみの、そしてこの儀式の場には先刻までなかったはずの一枚。
そこには血を連想させる赤い字で、こう記されていた。
これは警告である。ただちに去れ。これ以上、私に関わるな。
命令を真っ先に実行に移したのは吉川君だった。会の仲間たちなど一顧だにせず、奇妙に掠れた声を漏らしながら、彼は一目散に出口に駆けた。一拍遅れて三神さんが、メッセージを床に投げ捨てて後に続いた。
残されたメンバーも、皆一様に混乱を露わにしていた。須羽さんは茫然自失の体だったし、田中先輩は無駄と知りながら、電灯のスイッチのオン・オフを繰り返していた。
そして、我らが部長はと言うと──。
呆れたことに、事ここに至ってもなお居眠りを続けていた。
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