狐、狗あるいは狸のお告げ

シュレディンガーの怪異

 シュレディンガーの猫という思考実験がある。


 内容をかいつまんで説明すると、こうだ。

 まず、特殊な装置を組み込んだ不透明な箱を用意する。そしてその中に生きた猫を一匹入れる。

 箱の中の装置は、半々の確率で有毒ガスを発生させる。中の様子は外からでは観測できない。つまり装置が作動したか否か、そして哀れな猫の生死は、蓋を開けてみるまではわからない。

 この状況は、こう言い換えることができる──実際に覗いてみる瞬間まで、箱の中では生きた状態の猫と死んだ状態の猫とが、重なり合って存在している。我々が実際にその目で観測した瞬間に、未来(この場合は、猫の運命)は、ただ一つの結果に決定されるのだ。


 量子力学を端的に言い表したとされるこの実験、実際はシュレディンガー博士が「こんなバカなことがありえるわけねぇだろ」と量子力学を批判するために用いた皮肉だったらしいが、まぁそのあたりはどうでもいい。コペンハーゲン解釈だの不確定性原理だの、数学Aの基礎クラスでさえついていくのがやっとだった僕、香宮こうみや修之介しゅうのすけのような文系人間には到底手に負えないし、何より現在僕が直面している問題とは無関係だからだ。


 ただ、こう応用することはできるかもしれない。

 こうあってほしいという願望といたずら心が集約され、形成された非存在としてのミドウサマ。そして、実際に霊的な力をもって啓示を与えてくれる、存在としてのミドウサマ。僕らが実際に観測してみるまでは、二つのミドウサマの状態が、五十パーセントずつの確率で重なっているのかもしれない。



 かくの如きいささかペダンティックな僕の戯言に、オカルト研究部所属の須羽すわ優里奈ゆりなさんが刺々しい声で反応した。


「それって要するに、ミドウサマがいるのかいないのか、実際に降臨の儀式を執り行って確かめようってことね?」

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