孤灯
maria159357
第1話 会者定離
孤灯
会者定離
内容のない思想は空っぽで、概念のない直観は盲目である。
カント
第一背【会者定離】
「何じゃ」
ぬらりひょんのもとに、3人の男と竜が現れた。
1人は白銀の長髪に着物姿の男、1人は青色の短髪で火消しのような格好をした男、1人は青白い顔に真っ白な髪、そして顔はツギハギだらけの男だ。
竜は・・・竜だろう。
どういう説明をして良いか分からないが、きっと誰もが想像しているような竜の形を成した竜だ。
ぬらりひょんは全員全くの初対面というわけではなかったが、ほぼ存在を知っているだけで実際に会って話したことはない。
「何の用じゃ、酒呑童子」
白銀の男にそう言えば、男はニヤリと微笑んで、ぐびっと酒を飲んだ。
「久しぶりじゃのう、ぬらり。前に会ったのは・・・何百年か前じゃったかのう?」
「世間話をしに来たわけじゃなかろう。仰々しい爪牙で追放されかけた男が、こうして舞い戻ってきたんじゃからのう」
「悪いがぬらり、死んでもらうぞ」
「・・・・・・そういうことなら、話が早いのう」
天狗もおろちも何処かへ行ってしまっているため、1人でのんびりと酒を飲んでいたぬらりひょん。
まだ呑みかけのそれを腰に戻すと、ぬらりひょんはその場に立ち上がった。
丁度その頃、別の場所でも同じようなことが起こっていた。
「貴様、アポなしノックなし土足で入ってくるとは、どういう神経をしている」
「あらー、良い男。でも残念ね。今からあなたを殺さなくちゃならないなんて、本当に残念・・・」
シャルルの前に現れたのは、4人の男女だった。
1人は黒い長髪の綺麗な顔をした女、1人は緑と黒の髪をしている本を持った男、1人は牛のような姿に金棒を持った男、1人は紫のミディアムショートの女。
見覚えがあるのは誰もおらず、シャルルは4人を前にした今現在でも、悠々と椅子に座ったままだ。
「私は霧子。よろしくね、えっと・・・確かシャルル?」
髪の長い女は自分のことをそう言うと、いつの間にかシャルルの隣に来ており、耳元で続ける。
「あの本持った無口そうなのはダンタリオンくん。その隣の強そうな子はミノタウロスくんで、あの可愛い子はトリグラフっていうの。聞いたことくらいはあるでしょ?」
「・・・誰だ」
「えー、酷いー。でもまあ、これから死ぬんだから、そんなことどうでもいいわね」
霧子がシャルルの耳に息を吹きかけようとした時、すでにシャルルはいなくなっていた。
何処にいったのかと探せば、階段の真ん中、大きな肖像画が描かれた場所に立っていた。
「やれやれ。ミシェルもヴェアルも留守の時にくるとは、面倒な奴らだな」
「だからよ。楽しみましょ?」
ミノタウロスが、金棒を持ちあげる。
「大嶽丸、フランケン、それに竜。ぬらりを殺して、私が総大将になる夜明けを迎えるのじゃ」
酒呑童子が酒を飲みながらそう言うと、まずは大嶽丸が下っ端の鬼を呼び出し、空気を操ってぬらりひょんを閉じ込める。
閉じ込めたところで、フランケンが人間離れしたその力でぬらりひょんを攻撃する。
竜はぬらりひょんの周りを動き回り、毒を吐き、怒声で地響きや耳鳴りを起こさせる。
それを眺めながら酒を飲んでいる酒呑童子は、ふと、何かを思い出したように言う。
「そうじゃ。ぬらりの知り合いの男、名を何と言ったか・・・。ああ、そうじゃ、シャルルとかいう男のもとにも、数人、刺客が向かっておるそうじゃ」
「そんな男知らんわ」
「誰に恨まれておるかなど、当人には分からぬものじゃからのう。あの世で後悔することじゃな」
「他所見とは余裕だな」
「・・・!」
竜の奇声に気を取られていると、ぬらりひょんの近くには大嶽丸が来ており、再びぬらりひょんを捕えようと目の前の空気を掴み、ぬらりひょんごと地面に叩きつけようとした。
しかし、ぬらりひょんも黙ってやられるわけにはいかず、大嶽丸が握っている空気を蹴飛ばして攻撃をかわすと、待っていたと言わんばかりにそこにいたフランケンの攻撃も間一髪でかわす。
顔スレスレをフランケンの拳が通り過ぎるが、その拳が直撃した場所には大きな穴が開いており、風圧さえ強くてぬらりひょんは思っていた着地場所とは異なった場所に足を着けた。
「大したものじゃな、人造人間。これほどの力が出るとは」
「大人しく死ぬことだ。酒呑童子様こそ、総大将にふさわしいお方」
「好きにせい。と言いたいところじゃが、ワシも名を受け継いだ以上、このまま黙って引き渡すわけにはいかぬ」
「それならば、奪ってみせよう」
ぬらりひょんがフランケンを狙って一撃を与えようとすると、大嶽丸が空気や土を使って壁を作るため、なかなか直撃しない。
一旦距離をおこうとしても、竜がそれを阻止するため、なかなか思うように身動きが取れない。
フランケンがぬらりひょんの身体に一撃を喰らわせると、そのまま大嶽丸が挟み込むようにして大きな木を加工しどでかいドリルのようなものを作る。
それに刺さる直前に、フランケンがぬらりひょんから離れる。
「逃げ足が速いとはな」
そこにはぬらりひょんの姿はなく、気配を気にしながら攻撃に備えていると、酒呑童子の後頭部に風が走る。
仕留める心算だったのだが、酒呑童子に攻撃が当たる前にフランケンが現われ、代わりにというのもおかしいだろうが、身代わりとして攻撃を受けた。
だが、ツギハギが幸いしたのか、身体の一部がぼろっと取れてしまっただけで、酒呑童子には傷一つつかなかった。
まだ空中にいるぬらりひょんを見つけた竜は、すぐにそちらへと飛んで行きぬらりひょんを取り囲む。
「捕えろ!!」
「幾らぬらりとは言え空中では自由に動けまい・・・」
その酒呑童子の予想とは裏腹に、ぬらりひょんは竜が襲ってくると、それを待っていたと言わんばかりに竜に飛び乗り、身体をぴょんぴょん使って無事に着地する。
いつも身軽に逃げ回る座敷わらしを捕まえるために、ぬらりひょんは他人の力を使って動くことも覚えたらしい。
着地してすぐに、大嶽丸が反応する。
地面を動かしてバランスを崩すと、ぬらりひょんの四肢を木の枝を使って拘束し、フランケンを呼ぶ。
やってきたフランケンはぬらりひょんに対して何度も何度も殴る。
何度殴ったか分からないくらいに大嶽丸が様子を見に行くと、そこにはぬらりひょんはおらず、近くの木の陰から出てきた。
少し口を切っているところをみると、きっと一発くらいは殴られたのだろうが、その後すぐに逃げたようだ。
「そうでなくっちゃな。現総大将」
「何処に逃げやがった」
ミノタウロスは、シャルルを探していた。
窓から外へと逃げ出してしまったシャルルを追い掛けた森の中へ入ったまでは良かったが、シャルルがなかなか見つからない。
森の中は霧が深く、視覚だけで探そうとしても無理なものがある。
「大丈夫ですよー、あたしに任せて」
そう言うと、トリグラフがふう、と濃霧に向かって強く息を吹きかけると、充満していた霧が消えていった。
「あとは、空から探しましょー」
トリグラフは空を見ると、まるで空から地上を見ているかのようにシャルルを探しだした。
「あ、見つけましたー」
「何処だ!」
言われるがままその方向へ向かうと、そこには確かにシャルルがいた。
見つかったことを面倒に思っていることが顔に丸出しだが、そんなこと気にせずにミノタウロスがシャルルがいた木を金棒で壊す。
バキバキと大きな音を立てて木が倒れて行くと、動きだしたシャルルを待っていたかのようにしてトリグラフが森を操ってシャルルの動きを封じようとする。
拘束されそうになる度になんとか逃げているのだが、ミノタウロスの馬鹿力やトリグラフの操る力というものが予測つかず、シャルルも思い通りに動けずにいた。
霧子はその中に混じってシャルルの動きを翻弄しているが、ダンタリオンはなぜか攻撃という攻撃をしてこず、さらには、時々何処にいるか見落としてしまうほどだった。
シャルルが飛んで姿勢を直そうとしても、トリグラフによって風を起こされてしまい、思うように飛べずにいた。
「ちっ。思ったよりも面倒な奴らだな」
シャルルが苦戦しているのを見て楽しくなったのか、霧子が口元を手で押さえながらこんなことを口にする。
「ふふふ、あなたのお友達も無事だといいわね」
「俺にそんなものいない」
「あらさびしい人。ぬらり、って言ったかしら?その人のところにも、強―い人たちが行ってるはずだから、仲良く死ねるんじゃない?」
「ぬらり・・・?」
多分、きっと、いや、確実にぬらりひょんのことを言っているのだろうが、どうしてぬらりひょんなのか。
シャルルとぬらりひょんに共通していることでそれが狙われる理由になるとすれば、ある程度の地位を持っているということだろうか。
シャルルは以前、シャルルの今の地位を奪おうと模索する妖怪たちがおり、なんとか収集したのは懐かしいことだ。
それと同じだとすれば、今目の前にいるこいつらもそういう理由だろう。
「あいつのところには、誰が行ってるんだ?まさか、お前たちより強い奴らじゃないだろうな」
「あら、心配なの?」
「あいつが死のうがどうなろうが、俺の知ったこっちゃない。だが、俺よりも強い連中があいつのところに行ったとなると、屈辱だな」
「ふふ、面白いわね。なら教えてあげる。向こうに行ってるのは、大嶽丸にフランケン、それから竜。そして、この計画を立てた張本人でもある酒呑童子よ」
「大嶽丸に酒呑童子?誰だそれは」
「あら、知らないの?失礼ね」
「知るか。それにしても、なんでフランケンがあっちに行ってるんだ。あいつこそ俺の相手をすべきだろう。東洋の奴らに何の用がある」
メンバーの中で最も西洋妖怪として名が知られているのは、フランケンだろう。
なぜフランケンがぬらりひょんの方へ行っているのかと聞くと、それは霧子にも分からないらしく、首を捻っていた。
その時、シャルルは足の感覚が無くなった。
「・・・!?」
力が抜けてしまったのか、シャルルは跪くようにその場に立ち膝になってしまうと、ミノタウロスが近づいてくる。
次第にそのミノタウロスの姿が歪んで見え始めると、次は脳もぐらぐらと思考が揺れ出した。
「なんだ・・・!?」
意識をはっきり保とうと思っても、身体も脳も思うように動かない。
ただ一つ分かることは、先程までの攻撃から、今シャルルの身に起こっていることの原因が、こちらを見たまま動こうともしない男、ダンタリオンであるということだ。
「嬲り殺してやるよ」
「お手柔らかにお願いしますー」
そんな声が聞こえてくるのに、シャルルには何も出来ない。
こんなこと思ったのは久しぶりだ。
「くそったれ・・・!」
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