荒くれウィザード!〜妹想いの喧嘩最強の不良がウィザードと言う魔法バトルで仲間と共に世界一になる。なんせ俺のスキルツリーは♾️だからよ!〜
またたび299
第1章 ウィザード1年生〜エリートに復讐の鉄槌を〜
episode Ⅰ 生まれて初めての土下座
「うがぁ……!? 卑怯な……事……しやが……って……」
ちくしょお……立ち上がれねぇ。
「喧嘩で一度も負けた事がない、だって? 君みたいに学校にも行かずに、少数の不良達だけで流行ってる野蛮な遊びで勝った負けたって言ってるんだ?」
{今回のウィザードの勝者アンソニー・ハイデン}
{アンソニー←6Ct 獲得}
なんだ? 空中に光の窓が出て来て文字が表示されやがった。
勝者? ただ一方的にボコボコにされてまともに勝負もしてねぇのに俺は負けたってのか。
「アンソニーさん、リザルト見ました? こいつ6キャルトだって。経験値稼ぎにもならないっすねぇ! ぷぷぷ……」
「くくく、ゲイル笑ってやるなよ。学校にも行けない貧乏人なんだからさ」
俺の名はゼン。俺は17年生きて来て喧嘩で負けた事はなかった。
売られた喧嘩は全部買ってそいつらに勝ってきた。
けど今俺は地面に倒れている。このアンソニーとか言う奴にボコボコにされちまったからだ。
だが、奴は卑怯な手を使った。いきなり俺をウィザードに引きずり込んだんだ。
〝ウィザード〟
それは何百年も前の昔から世界で定められた法律であり、
魔力だとか、スペルだとかを使って相手と対戦するスポーツでもある。
国同士の争いも全てこのウィザードで勝敗をつける。
これを守らねぇ奴は、万死に値する程の重い罪として裁かれる。
簡単に言えば、戦いたかったらウィザードをやれって事だ。
戦争も、喧嘩もな。
俺はこんなゲームみてぇなもんが気に入らなかった。
だがこいつは、俺がウィザードのルールも、なんもかんも知らねぇ事をいい事に、引きずり込みやがって。
「ゼンくん、君今いくつだっけ? 17にもなってウィザードもまともに出来ないってやばいよねぇ。魔力の使い方も知らないなんて、今時5歳の子でも使えるよ?」
「あぁ? ちゃんと喧嘩しろっつってんだろうが!」
「ふふ、だから喧嘩してやったじゃないか。世界法に背いてウィザード以外で喧嘩しようなんてカッコいいと思ってんの? 君ダサいよ」
「あははは! ほんと、どこまで時代遅れなんすかねー! あ、こいつセキュリティーに突き出します?」
「いや、流石にそれはやめておいてあげよう。ゼンくんの家って超がつく貧乏な上に、妹の治療費を稼ぐ為に毎日仕事してるみたいだし」
こいつ……何で知ってんだよ。
「何年も前に両親2人共死んで、今妹と2人で暮らしてるそうだよ。妹、レリスちゃんだったかな? 重〜い病気なんだよね?」
「…………」
「何で知ってるんだ? って顔してますよこいつ……アンソニーさんの事知らないなんて、世間知らず過ぎる。ぷぷぷ」
「僕はね、リンベル地区のクラン〝フェニックス〟のリーダーなんだよ」
確か、リーダーはメンバーを集める為のスカウトに必要な情報にアクセス出来るって話だったな。
そうか、こいつはそれで俺の情報を見たんだな。
「うん? 今ので理解出来たようだね。でも勘違いしないでくれよ? 君みたいな落ちこぼれをスカウトする為に、君の事を調べた訳じゃないんだ。単純な興味だよ。貧困で学校も通わない落ちこぼれ君がどんな人生を歩んでいくのか。僕の下僕になればお金を支援してあげようって言ってるのに、僕の厚意を踏み躙ったんだから」
実はアンソニーと会ったのはこれで2回目だ。
初めて俺の前に現れた時、しもべになったら金をやるとかぬかしやがったんだ。
俺は断った。しもべって隣にいるゲイルって野郎みたいにヘコヘコとついて回ってやんなきゃなんねぇんだろ?
それは俺のプライドが許さなかったんだ。
「あ、アンソニーさん! そろそろトレーニングの時間ですよ!」
「もうそんな時間なんだ。今日はパパのクランのみんなと僕らのクランの練習試合だから、パパ達に僕らのクランの強さを見せつけてあげようか」
「そうっすね! あのぅ……俺もそろそろ、その……スタメンにぃ……えへへ」
アンソニーとゲイルがそのまま俺の横を素通りして行こうとしやがったんだ。
「おい……ちょっと待てよ」
俺はこいつらを引き止めた。
さっきの喧嘩にどうこう言うつもりはねぇ。卑怯な手を使いやがったが引き止めたのには〝別の理由〟があるんだ。
「まだ何か文句が言いたいようだね。落ちこぼれ君」
「返せよ」
「うん?」
「てめぇが、汚ねぇ足で踏み潰してる花を返せっつってんだよ」
そう、そもそもの事の発端は俺が花屋で買ったミシュの花を踏み潰した事から始まったんだ。
いきなり後ろからぶつかってきて、道を開けろだのイチャモンつけやがってウィザードに引きずり込まれた時に、買った花を落としちまったんだが、拾おうとしたらこいつは……このクソ野郎はわざと踏み潰しやがったんだ。
「あぁ〜これの事? 雑草でしょ?」
「て、てん……めぇ〜!!」
このクソ野郎のニヤけた顔を見てると、ドバドバ憎しみが沸いて出てきやがる。
ぶっ殺してぇ。だがそれやっちまうと、隣のゲイルがセキュリティーに通報すんだろう。俺は牢獄行きだ。俺が捕まっちまったらあいつは誰が守る? あいつの治療費は誰が稼ぐ? 今捕まる訳にはいかねぇんだ。
「返して欲しかったら、ウィザードで僕に勝ちなよゼン。ほら、エンゲージしようよ」
「くっ……こんのぉ〜! ……クソ野郎が!!」
「人に物を頼む態度がそれ?」
「……………………頼む。そいつは……その花は、もうどこにも売ってねぇんだ」
「お願いします、だろう?」
「お願い……します……。 しもべでも何でもやってやる!! だから!! 花を返してくれ!!」
地面に膝と頭をつけて、人生で初めて土下座をした。こんなクソ野郎の為に頭を下げたくはなかった。こいつに……縋ってるみてぇで。けど、今回ばかりは俺の感情なんざどうでもいんだ。
その花はな、あいつが好きな花なんだよ。この辺の花屋じゃ売ってねぇから、街ん中探しまくってやっと見つけたやつなのによ。
「ふ〜ん」
地面にデコを擦り付けて血が出ても気にせずに俺は土下座の姿勢を崩す事はなかった。
それでもこいつの表情は分かる。ニヤニヤと俺の事を見てんだろ。
これはな、てめぇの為にやってんじゃねぇんだ。あいつの……レリスの為なんだよ。
「どうしよっかなぁ。前に君に提案してあげた時に僕断られてるからね。傷ついたんだよなーあれ。じゃあ、あの時の分もここで謝ってもらおっかな?」
「す…………すいません、でした……」
「くっくっく。あっそう? 君って意外とプライドないんだね。そんなに妹が大事なんだ? じゃあ妹の為にも僕に縋らないとね」
アンソニーは足の裏でズリズリと花弁を地面に擦り付けて、土下座をしてる俺の横を通り過ぎて行く。
「う〜ん、やっぱり君いらないや。考えたらウィザードもまともに出来ないし、第一反抗的な目をしてるからね」
「はっはっは! お前も馬鹿だなゼン! そんな小さな花なんかに拘らず、さっさと道を開ければよかったのにさ! 何が喧嘩だよ、犯罪者め! ぷぷぷぷっ」
茎がヘナヘナに折れ、花弁が1枚だけついた花を手に取る。こんなにめちゃめちゃにしやがって……。
俺の背中に、奴らの馬鹿笑いがいつまでも染み付いていた。
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