困っている人を助けたら、その娘が学園一の美少女ギャルで、なぜか懐かれた

佳奈星

第1話

「あっちぃ……」


 えんてん、蒸し暑い夏の真昼。

 手で陽射しをさえぎり、寸前に受け取ったうちわで扇ぐ。どうしようもない暑さにひれ伏しそうだった。

 ゆえに、一度そうになった。


「ん……? 何だあれ……?」


 涼し気な河川の音に誘われてつい寄り道をすると、市街ていぼうの近くには何やら手を伸ばしている奇妙な金髪の男性。


 少し気になった俺はそっと横に立ち、男性の目線の先を確認した。


 そこには淡い桃色の真珠が付いたブレスレット。男性に似合わないアクセサリーだが、どうも彼の落とし物に見える。


「あのっ、少しいいですか?」

「は、ハイ」


 おせっかいかもしれないが、声をかけることにした。

 どうやら困っている様子だしな。


「落とし物ですよね? 取りましょうか?」

「本当デスカ!? 頼みマス」


 了承した俺は近場の端へと遠回りし、手すりの内側へと入る。そうして難なく落とし物を回収することに成功した。


「……オウ! ありがとうございマス!」


 振り返った顔を見れば、すごいイケメン。陽光のようにさんぜんと輝く金髪が眩しかった。


 それにしてもカタコトな日本語。若々しさも大人らしさも感じる顔立ちから、日本人じゃないことはすぐにわかった。


(外国人……かな? 日本語が上手だ)


 俺は如何せん英語が苦手なもので、外国人だと気付いた時点で少ししゅくしてしまった。


 しかし、男性はお礼を言いながらも立ち止まって、俺の顔をまじまじと見てくる。


「あのー、まだ何か?」

「恩返ししたいデス。ギブアンドテイクが文化だと聞きマシタ」


 それは文化ではない。だけど、優しさだけは受け取っておこう。


「だ、大丈夫です。それよりも、お急ぎだったのでは?」


 男性のソワソワした雰囲気から、何となく察する。


「そうでした。親切な人、改めてありがとう」


 空気を読んでくれたのかな。まあ急いでそうだったし。俺は密かに意思疎通が成功したことを安堵しながら、男性と別れた。


「……妙なこともあるもんだな」


 遠出してきて慣れない観光客の多い町。こういうこともあるだろう。

 今日は、オタクとして外せない用事がここである。些細なことを気にしている暇はない。


 真っ先に足を運んだのは町の裏路地にある老舗しにせらしい小さな書店。


 今日この日、この場所で、明日発売される新刊のライトノベルがフラゲ……前日から買う事ができるという情報を得ていた俺は、ドキドキ胸を踊らしながら店内へ入る。


 オススメコーナーにちんれつされる表紙をながめると、目的のものはすぐに見つかった。

 残り一冊。ギリギリ余っていたことにあんを覚えながら手を伸ばす。


「結構出回っている情報だったのかな。早く来て正解だった――」

「あった!」


 目的のラノベに伸ばした俺の手。その上に重なる他人の手があった。

 同時に、目が合う。


「あのあの、あたしが先だったよ? そうだよね?」


 横目に確認した人物は、同い年くらいの金髪へき眼の少女。今時珍しいふわふわしたツインテールが特徴的だが、何処かを覚える。


「いやいや。俺の手が先に本を掴んでいるし……」

「あたしが触った後にその手が掴んだだけだよ」


 彼女は作り笑いを見せて誤魔化した。あくまで譲らない姿勢。それに対し、俺も無言の圧力で返す。


「あ、あたしの方が先だった……よ?」


 しょんぼりと悲観的な声色。わかりやすい演技に苦笑してしまう。


 そうまでして、期待の新刊『はちみつレモンちゃんはみかんちゃんに負けたくない!』……通称ハレミカを今すぐにでも入手したい気持ちだけは、同情を覚えた。


 が、ちょうどその時――既視感の正体に気づいた。


「あれ、というか君、小笛さんじゃないか? ぶえ


 いつも降ろしている髪がツインテールだったから全然気付かなかった。

 それに口調も違うけど、彼女はクラスメイトのギャル……あの小笛さんに違いない。


 その瞬間、彼女は「あっ」と間抜けな表情を顔に浮かべた。

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