美咲と生首

ソコニ

第1話

ある晴れた日、女子中学生の美咲は美術展に足を運んだ。会場には美しい昔の人形や可愛らしい手作りの人形が飾られ、彼女は興奮して会場を巡り始めた。


その中で、ひときわ目を引く不気味な人形があった。それは生首人形。顔はリアルな造形で作られている。昔の武将の感じだった。


美咲は恐怖心と興味が入り混じった気持ちでその人形を見つめていた。


すると、突然、生首人形の口が動き出したかのように見えた。美咲は目を疑いながらも、人形の口から聞こえてきた声に耳を傾けた。


「ねえ、君。そこの中学生。」


美咲は驚きの声を抑えながら、生首人形に向かって言葉を返した。


「あ、はい。私ですか?」


「そう、そう。君にお願いがあるんだ。」


「えっ、生首人形が話してる…?」


「驚かないでくれ。私はただの不思議な仕掛けさ。だが、それはどうでもいい。君に何か教えたいことがあるんだ。」


美咲は不思議な出来事に戸惑いつつも、興味津々で尋ねた。


「何を教えてくれるの?」


「君は美術展で何を求めている?楽しい時間を過ごすだけ?それとも何かを学びたいと思っている?」


美咲は考え込んだ。彼女は絵を描くことが好きで、将来は芸術家になるのが夢だった。しかし、まだ自分の作品に自信が持てず、何かが足りないと感じていた。


「私、絵を描くのが好きなんです。でも、もっと上手になりたいし、自分らしいスタイルを見つけたいんです。」


生首人形は微笑みながら続けた。


「それならば、私が君のコーチになろう。絵の上達法やアーティストとしての心構え、クリエイティブなアイデアをたくさん教えてあげるよ。」


美咲は少し躊躇したが、生首人形の提案に心を動かされていた。それから彼女は人形と共に、会場の一角にあるワークショップルームへと足を運んだ。


すると、生首人形は次々と絵の描き方のアドバイスや、有名な画家の作品を教えてくれた。時折、不気味な笑い声も交えられるが、美咲はそれを少しずつ受け入れ始めていった。


その日から、美咲は生首人形とのコーチングセッションを毎日行うようになった。彼女の絵は次第に上達し、友人たちや家族からも褒められるようになった。しかし、人形の存在を誰にも話すことはなかった。


やがて、美咲は学校の美術コンテストに出品することに決めた。彼女は生首人形から学んだことを思い出しながら、一生懸命に絵を描き上げた。そして、コンテスト当日、彼女の作品はたくさんの人々に見られることとなった。




結果発表の瞬間、生首人形は微笑みながら美咲に語りかけた。


「君は素晴らしい絵を描いたよ。これからも夢を追いかけ続けて。」


美咲は人形にお辞儀をして微笑み返し、心の中で感謝の気持ちを伝えた。


そうして、不思議なコーチングの日々は続いたのであった。


数ヶ月が経ち、美咲は生首人形とのコーチングを通じて着実に絵のスキルを向上させていた。彼女の作品は地域のアートコミュニティでも評価され、美術展に招待されるようになっていた。




美咲は再び美術展を訪れた。会場に足を踏み入れると、そこには彼女の作品が展示されているのを見つけた。自分の作品が他の人々に見られることに喜びと緊張が入り混じる気持ちでいっぱいだった。


美咲は自分の枠品が展示されていることを生首に報告しに行った。人形は不気味な笑い声を出すこともなく、優しい微笑みを浮かべていた。


「おめでとう、美咲。君の成長が素晴らしいよ。」


美咲は感謝の気持ちを込めて人形に向かって言った。


「ありがとう。あなたのおかげで私はたくさんのことを学びました。」




美咲は美術展が終了すると知り、再びワークショップルームに足を運んだ。彼女は生首人形との別れを寂しく感じつつも、心の中で感謝の気持ちを伝えたいと思っていた。


部屋に入ると、生首人形はいつもの優しい微笑みを浮かべていたが、美咲は微かに悲しげな表情を見つけたように感じた。


「美咲、君がここに来るとは思っていなかったよ。」


生首人形の声はいつも通り暖かかったが、美咲はそれに少し寂しさを感じた。


「私、あなたとのコーチングが終わるのが寂しいんです。」


美咲の声にも寂しさが込められていた。


「私も寂しいよ。君と一緒に過ごした日々は楽しかったし、君の成長を見るのが嬉しかった。」


生首人形の言葉に美咲の涙腺が緩み、目元が潤んできた。


「でも、私はもう君に必要なくなったんだ。君は立派なアーティストになった。」


彼女は微笑みながら続けた。


「私はずっと君を応援しているから。これからは一人で進んでいって、たくさんの人々に君の才能を見せてあげて。」


美咲は感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、生首人形に近づいた。


「ありがとう、あなたのおかげで私は大きく成長できました。」


「君はいい時代に生きている。私は軍師だがアートが大好きだ。平和な時代なら私もアーティストになれたのだが。」


その時、近くから声が聞こえた。周囲には誰もいないはずだった。声は時空を超えて届くかのようだった。


「いよいよ打ち首の時でございます。何か言い残すことはございますか?」

緊張した空気が流れた。


「私はアーティストになりたかった。しかし、戦乱の世を生きることになった。戦争は悲しい。しかし、一人だけ、弟子を作ることができた。私の心を受け継いでくれるだろう。なあ、美咲。二度と会うことはできないがアートを楽しんでほしい。アートを楽しめる時代はいい時代だ。」


「みっつ、ふたーつ、ひとーつ。お覚悟を。」


「さよなら、美咲。」


その瞬間、生首は静かに目を閉じた。

生首人形は後ろにある壁に寄りかかった。


美咲は少し声を震わせながらも、受け入れるように言葉を紡いだ。


「さよなら、生首さん。これからもずっと私の心の中にいてください。」


生首人形は深くうなずき、部屋の影に消えていった。


美咲はワークショップルームを後にし、会場を離れた。彼女の心には懐かしさと寂しさが交差していたが、同時に新たな成長への喜びも感じていた。


美咲は一人で進んでいく決意を胸に抱きながら、未来のアーティストとしての道を歩み始めたのだった。

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