第30話 私の状況を確認しておきましょう



「こんにちは!陛下、来てくれて嬉しいよ!」

診察室に入ると笑顔を見せてくれる。ああ、ヘイムは癒しだわ。

「ごめんなさいね。忙しいところ」

「大丈夫です。陛下に会えるのを楽しみにしてたから」

(本心で言ってるからこの子はほんとにもう恐ろしい!)


ここはヘイムダルの医院。先ほどの話で私の回復状況が知りたいということになったため、特別に診てもらうことになった。こちらは前世でいう総合病院で、ディンの魔道具はこちらでもなくてはならないもので大活躍しているのだ、

ヘイムは世界有数の名医。前世にあったような病気やケガ、そしてこの世界の魔法による疾患なども診れる彼はとても忙しい。そんな彼に時間を作ってもらうったのは申し訳ない。でもこのかわいいヘイムが見られるのは嬉しいなあ。


「それじゃあ、診ていきますね」

ヘイムが目を閉じて触れない程度に手を伸ばす。ぼうっと青緑の光がヘイムの手の先から現れ、私の中に入っていった。これがヘイム独特の診察。感知型の小さな魔法の球を送り異常を調べる。


「陛下の中にあった穴はふさがってきているね。いい兆候だよ。これだったら、薬湯療法とこっちで薬を出しておくから併せて飲むと完全にふさがるね」

「本当!?」

「調子が良ければ一週間。遅くて1か月かな」

「魔力の保有量は倒れた時よりも回復はしているけど、だいぶ減っている。今は穴をふさぐということを優先して治療していくから、魔力を戻すのは薬では難しいんです」

「ああ…そうよねえ」

「ですので、これを一気に伸ばすのであれば鍛えるしか方法がない…かな」

予想はしてたけど、やっぱりか。まあ彼のは経験済みだから、あきらめにも似た覚悟はできてる。



「陛下、また経過を診せに来てくれるかな」

「わかったわ、一週間後に来れば良いかしら?」

「うん、陛下が忙しかったら王城に行くこともできるから、連絡くださいね」

「ええ。ありがとう」

「僕も陛下に会えるのがうれしい」

「…ヘイム。あの、そういうことは軽々しく言ってはダメよ」

嬉しいけど、とっても嬉しいんだけどね。そういうことされると課金してしまいそうだから!


「…別に軽々しくではないですよ、レア陛下だからですよ」


(恐ろしい子!ヘイム推しの子はこうしてハマっていくのね)

かわいらしい子ってゲームではあまり得意ではなかったけど、こうして実物を眺めていると(とわきらではかわいい系の子が少ないからか)悪くはないなと思ってしまう。


(まあもちろん比べ物にならないくらい高いところにいるのはリュカだけどね)


ヘイムの医院から出ると、馬車が待っていた。そこには本を読んで待つ彼がいた。

「待っててくれたの?」

「ええ。私は付き添いですから」


いつもの制服とは違い、白いシャツに柔らかいジャケットを羽織り、丸眼鏡。

待っている姿は「スナップ写真」撮られそうなとてつもない素敵な雰囲気を醸し出し、思わずにやけてしまう。


「なんですか」

「かっこいいなあって思って」

「…そうですか」

「照れたの?」

「いいえ。べつに?」

「え~ほんとかな~」

「レア、手を」


(うわあああああああ!)

(いや、馬車に乗せるためなんだけど、何その優雅な仕草は!私の置きやすい位置に手を向けている。そして何気に名前呼びしてるし!半個室になるからと言って早すぎませんか心臓に悪いんです、何個あっても足りないです)

内心そんなことを思っているけど一切表情には出さないわ。何年もこの世界にいるのだから、テンションが高いのは心の中だけにしている。


そして馬車の扉が閉まる。王立御用達のものなので、オープンカースタイルではなく、扉や窓もあるものだ。車ほど早くはないが私は馬の歩みで進んでいくこれがとても好きなのだ。


「ヘイムの話ではやっぱり修練が必要だと」

「そっか」

「でも回復の兆しは見えてるから、薬と薬湯で治していこうってことになったの」

「…じゃあ女王として戻るのも近いってことなんだね」

「そうねえ。長くはかからないわ」


リュカは安心したような、残念でもあるような表情を見せた。

「どうしたの」

「今回のこと、申し訳なく思って。確かに働きづめだったのに声もかけれなくて」

「そんな私が勝手にやっていることで」

「倒れて、静養ってなった時、もう会えなくなるのかなって…思ったんだ」

リュカの顔が近くなる。いつの間にか私は窓際まで追い詰められており、リュカの器用な手はカーテンをさっと閉めた。


「リュカ」

次の瞬間、私の視界はリュカでいっぱいになる。

と同時に唇が触れた。

「……!」


「久しぶりに二人で過ごせて、嬉しい」

ゆっくりと離れていった彼は優しい笑みを浮かべながら言った。


(私だって、そう思ったよ)

自分が倒れた時、とわきら2が始まったと思った。

眠りについてしまうのではないかと。起きたときには私の大切なあなたはもういないのではないかと思った。離れていくのではと。



言葉にできなかった私は、今度は自分からリュカの唇を狙った。

お互いを必要と思える行動が、安心させるのだと思ったから。リュカは少し驚いた様子だったが先ほどと表情は変えずに応えてくれた。



「レア」

「…」

「修練頑張って☆」

「…忘れようとしてたのに」

「愛してる」

「…修練頑張る」


ぎゅうと抱きしめてくれた腕にしがみついた。再びその幸せな時を過ごすため私は彼を充電した。






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