29 ゼツリンカズラ
………なんてほんわかしたのも束の間。
翌日、何やら庭園が騒がしかった。
曰く「まだ咲かないはずの花が一輪だけ咲いて、しかも様子がいつもと違う」という。
曰く「気候も生育環境も安定している現状では余りに不可解な開花」らしく。
バレるのは早かった。
土台
こっそり部屋を出たつもりで、その動きを逐一監視されていても何ら不思議ではない。
夜更け、一人の花壇で何やら怪しい動きをしていた姿はバッチリ監視、報告されており、僕は珍しく母上の方から呼び出された。
呼び出され、まぁバレたのなら仕方ないかと、一輪を除いて綺麗に並ぶ蕾を前に、正直に昨日あった出来事を再現した。
僕を取り囲む誰しもが固唾を飲んで花開くのを見守ると、言葉少なに僕は自室に返された。
たかだか花一輪と思って後に詳細を聞いて頭を抱えた。
件の花は「ゼツリンカズラ」と呼ばれる、高位の回復薬や強力な精力剤の素材となる希少な植物だった。
一粒の種が広く根を張りゆくゆくは百もの花を咲かせるという、ある意味では侵略的とも形容できるほど並外れた生命力を持つそれは、その生命力に肖り回復薬としても精力剤としても並外れた効能を発揮する。
地下・地上部分の全てが薬効を持つ一方で、特に薬効が強く高位回復薬の素材ともなる花弁は年に一度、決まった短期間にのみ咲く。
故に、強すぎる生命力ゆえ人工栽培は可能だが収穫量には限度がある。
なお、収穫された花弁の内、実に九割ほどは精力剤に持っていかれるそうだ。 まぁそうだろうね。 みんな飢えているもんね。
ちなみに収穫後は一年寝かせればまた同じ場所で花を咲かせるらしい。
精力剤としての効能は、女性が服用した場合は排卵促進効果が得られ、男性が服用した場合は文字通り絶倫となる。
無尽蔵に精液を捻出し、しかも男性が女性に襲い掛からんとするほどに性欲まで増強されるという。 男性から女性を求めることが極めて稀なこの世界において、男性をヤる気にさせる魅惑のセックスドラッグである。 この世の女性がこぞって欲しないわけがない。
それが何らかの要因で時期外れに咲いた。
後に検証されるが、僕が魔法で咲かせた気持ち大きめの花弁は精力剤としての効果が従来よりも有意に高かったそうだ。 貴重な検証材料を迷いなく精力剤に持って行くのがまた何とも……。
ともかく、開花期に囚われず花を咲かせそれを収穫できるのであればどうなるか。
回復薬……は、その強力な効能故使用機会が限られどうもストック分で足りているらしいのでさておくとする。
精力剤産業の方は革命的革新である。
精力剤は当然限られた流通分が漏れなく売り捌かれ、惜しまず消費されるので万年枯渇状態にある。
それが年中製造でき流通できるとなれば、しかも従来のものより強力な精力剤とあれば、世の女性という女性が垂涎留まらぬ、ついでに愛液も留まらぬほどに望むこと間違いなし。
僕のファンシーな魔法デビューは、図らずもセックスドラッグ革命の端緒となってしまっていたのだ。
※※※
日頃のご愛顧ありがとうございます。
カクヨムコン向けとしてコンスタントな更新を予定していたのですが、この度の被災により執筆と調整に割く余力がなさそうです。
一先ずは書き溜めの今回分をもちまして、目処がたつまでは次回更新未定とさせていただきます。
ご迷惑をおかけし申し訳ありません。
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