10 王女たちの婚活事情②
ところが打って出てみたところ返ってきたのが憤怒の形相であり、それが意味するところはいよいよ公然とセクハラに臨んだアリシアと積もり積もった生理的嫌悪を思い起こしたアルダーとの間に今度こそ修復不能な遺恨が生じたことに他ならない。
自業自得とは言え自らのルート消滅をよりにもよって王家の上役とディアノベルク家の面前で演出してしまった失態に、気持ちとしては死んだも同然の状態である。
なお、アルダー本人は人前だから殊更に照れと勃起を隠すのに必死で踏ん張っていただけであり、この件でアリシアへの嫌悪感を再確認したというようなことは全くない。
そもそも積もり積もるほどの嫌悪感を抱いていないどころか、何なら未だ独り慰みに明け暮れるアルダーは成人祝いのオカズ提供としては有難いくらいに考えていた。
後日何事もなかったかのようにアルダーから届いた文通の続きに戸惑い、再会して誤解が解けるまでしばらくの間、アリシアは胃の痛い日々を過ごすことになる。
「アルダーに感謝すべきだな。 本来なら乱暴に振りほどかれて唾でも吐きかけられても文句は言えない所業をあの場は穏便に済ませようと我慢してくれたんだ。 しかしアリシアのような性悪にも配慮を欠かさないあの紳士さ……ますます欲しいな」
「貴女冷静ね。 アリシアがあのような……いえ、あれよりも数段下劣な行為に及んでいたとする噂が事実なら羨ま――王家として遺憾極まりない話だわ。 それを棚に上げて未だアルダーと友好的であったなど……アルダーに免じて此度は不問とするけれど本来なら牢獄にぶちこんでやりたいところよ」
歯軋りするカタリナを横目に、ロゼリアも内心では同じ気持ちであった。
それこそ王女の品格など実質お飾り的な立ち振舞いに囚われず、まだ男女の区別もつかないような小さい頃に頭を撫でるなどの当たり障りない接触で留まらず、幼い無邪気さに任せた
二の腕にしなだれかかるようにして乳房を絡ませつつ抱き着くなど、夫婦であっても
それこそ戯曲や物語で描かれる両想いで結ばれた二人の相愛によって許されるようなイチャラブであり、現代の男女事情を
もし現実にそんな機会があったとすれば、後生大事に擦り倒せる一生モノのオカズになることは間違いなく、された男とて末永く一人慰みの供にされることが判らないはずがない。
アルダーはさらに数段非道で卑猥なセクハラを受け続けた後で、アリシアがそれをオカズにしていることを承知の上でなお友好関係を維持し、先の場面では両家の面子を保つべく耐えてみせた。
あの場において事を荒立てないためと言えど、そもそも夫婦どころか付き合ってもいない他人に抱き着かれて強引に振りほどかないだけでもまさしく聖人君子と言える。
「しかし、聖人の如き人格者とまで呼ばれるアルダーにも人並みに女体への嫌悪感があるのだと思うと一層ハードルが……」
「彼、どんな女性が好みなのかしら」
「そもそも女性を受け入れてくれるのか?」
「かと言って男色の気もないでしょう」
「確かに……結婚や子作りに消極的な風にも見えないし……う~む……」
晩餐会を控えた短い間に国政と国軍の中枢を担う頭脳がフル回転で考えたところで特段の打開策は浮かばなかった。 まぁそもそも見当外れの考察をしているのだから仕方がない。
アルダーは普通に女好きではあるし、この世界の女性と比べれば可愛いものだが前世の年頃の男子としても妥当な程度には旺盛な性欲を持っている。
今のところは独り慰みに甘んじており、今日のアリシアのおっぱいの感触などは今晩温かいうちに早速オカズにされる。
アルダー本人的には、立場や関係性などを度外視すれば正直誰でもいいくらいにはこの世界のあらゆる女性が魅力的に見えている。
何なら開き直って一人一人に土下座で対戦を申し込みたいくらいだが、今や彼の立場と意地がそれを許さないだけであり、多分童貞を捨てた後には一皮剥けてその辺奔放になるだろうと本人は思っている。
より好みを突き詰めるのであればアルダーは健康的な肉付きの女性が好みであり、王女たちの栄養状態良好な肢体、特に例外なく豊満なおっぱいはいい意味で目に毒である。王女たちのグラビア写真集があれば徹夜で並んででも手に入れたいくらいだと考えている。
実のところ、よく頭を撫でて可愛がってくれた歳上のクール系美人であるカタリナ、幼い頃から
すれ違い際にふと漂ったシャンプーの香りが気になってからその娘をどこか目で追ってしまうような気持ちだとアルダーは自己分析している。
淡い初恋の思い出のようなものであり、今頃になってそのような可愛らしい恋慕を引っ提げて王女のいずれかと安易に結ばれるようなことは立場的に許されないので、完全に思い出として片付けている。
なお、王家の面々はアルダーを手籠めにしようとあの手この手を模索するが、考えれば考えるほど「半ば強引にでも童貞を奪ってしまう」という短絡的で実は最も効果的な手段から遠ざかっていくことになるのだが、真相に気付く者は当面現れないのであった。
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