第2-6話

ノアは湿地帯を歩いていた。

どこかの冒険者か、行商人が建て掛けた木の標識はぼろぼろにくたびれていた。

標識には、“この先危険地帯”と書かれているが――ノアはそれでも進み続けた。


ほんの数分歩いただけで瘴気の色が濃くなる。魔法を含んだ薄紫色の霧は、この辺りに生息している魔物や怪物達を強力なものへと変える。


「見つけた」


ノアは巨大な蛇が這いずった痕跡を見つけました。

その痕跡は深く刻まれており、泥濘の地面が圧し潰されたような跡が残っていた。


ノアは痕跡をじっと観察し、進んで行った先を遠目で見た。

そこにはかつてデスクローラーに挑んだであろう冒険者達のなれの果てがあった。

死体は既に魔物の餌となり、残された人間としての部分は既に腐り果てて羽虫の餌場となっている。


「沼地の大蛇……デスクローラー……こんなところにもいるって事は結構野放しなんだね」


デスクローラーは透明化する能力を持っている。

その毒によって多くの冒険者が命を落としてきた恐ろしい存在である。

この場所が大陸随一の危険地帯である証拠を示すかのように、かつてこの場所に立ち入り帰らぬ人となった痕跡が至る所にあるのだ。

朽ち果てた剣や魔法の杖。魔物の糞と同時に排出された衣類や人間の骨。周囲を警戒しながら見渡すと嫌でも視界に入る。


「ゴールドランクの冒険者パーティーか。……丸のみにされたんだろうな……」


朽ちた木の側に糞の山があった。

そこには消化されなかった冒険者のプレートが顔を出していたのだ。

デスクローラー以外にも人間を容易く丸呑みノアは湿地帯を歩いていた。

どこかの冒険者か行商人が建て掛けた木の標識はぼろぼろにくたびれていた。

標識には、“この先危険地帯”と書かれているが――ノアはそれでも進み続けた。


ほんの数分歩いただけで瘴気の色が濃くなる。魔法を含んだ薄紫色の霧はこの辺りに生息している魔物や怪物達を強力なものへと変える。


「見つけた」


ノアは巨大な蛇が這いずった痕跡を見つけました。

その痕跡は深く刻まれており、泥濘の地面が圧し潰されたような跡が残っていた。


ノアは痕跡をじっと観察し、進んで行った先を遠目で見た。

そこにはかつてデスクローラーに挑んだであろう冒険者達のなれの果てがあった。

死体は既に魔物の餌となり、残された人間としての部分は既に腐り果てて羽虫の餌場となっていた。


「沼地の大蛇……デスクローラー……こんなところにもいるって事は結構野放しなんだな」


デスクローラーは透明化する能力を持ち、その毒によって多くの冒険者が命を落としてきた恐ろしい存在である。この場所が随一の危険地帯である証拠を示すかのように、かつてこの場所に立ち入り帰らぬ人となった痕跡が至る所にあるのだ。

朽ち果てた剣や魔法の杖。魔物の糞と同時に排出された衣類。人間の頭骨。

周囲を警戒しながら見渡すと嫌でも視界に入る。


「ゴールドの冒険者パーティー……か。丸のみにされたんだろうな……」


朽ちた木の側に糞の山があった。

そこには消化されなかった冒険者のプレートが顔を出していたのだ。

デスクローラー以外にも人間を容易く丸呑みにする化け物が数多く生息している。それらの怪物達は息を潜め、互いに睨み合っている。

実力の無い人間は彼らにとって格好の餌でしかないのだ。


「デスクローラーだ!」


しばらく歩いていると人の声がしてきた。

ノアは眉間に皺を寄せ、舌打ちをしながら声がした方向へ駆ける。

デスクローラーは昼間に活動する……普通こんな時間にあの化け物と戦うか!?

ノアは愚痴を溢しながら湿地帯を駆け抜けた。――そして見つけた。


戦いやすそうな広場のような場所で5人の冒険者とデスクローラーが睨み合っていた。

ノアはすぐさま茂みに隠れて様子を伺う。


「ファイヤーボール!」


女の魔術師が炎の球を対峙している大蛇に射出する――しかしデスクローラーには全く効いていない。何事も無かったかのように細長い舌をちょろちょろと出し入れしている。


デスクローラーは巨大な蛇のような体躯を持っており、全長は通常数十フィートに及ぶ。

その体は黒くて光沢のある鱗に覆われ、独特の模様が浮き出ている。

鱗は金属のように堅く、しなやかだ。

強靭な硬度を誇る鱗は、外敵からの攻撃に耐えるための防御手段だ。


頭部は三角形をしており、顎には恐ろしいまでの鋭い牙が並んでいる。

牙は毒を含んでおり、咬まれた者は強烈な痛みと痺れにより体の自由を奪われ死に至る。デスクローラーの目は細長く、鋭く、冷酷な光を宿している。


体は柔軟でしなやかであり、頭からしっぽにかけて二本の黄色い線が伸びている。

地面を這うように移動し、少しずつ冒険者達との間合いを縮めていく。

デスクローラーは透明化する能力を持ち、周囲の環境に溶け込むことができる。いま冒険者が見ているデスクローラーの姿は三分の一にも満たない。

巨体の半分は透過させて目視する事はできないが――茂みに隠れて様子を伺っているノアはそれを理解していた。


「馬鹿冒険者……あれはもう無理だ……。どうせ最初に盾役の人が最初にヘイトを集める」


ノアはため息交じりに言った。


「こっちを見ろ蛇野郎! スキル、巨壁! スキル、挑発!」


大盾をもった筋骨隆々の男が叫びながらスキルを発動した。

巨壁により防御力を高め、挑発によりデスクローラーの注目を集める。

残った四人の冒険者が自由に動ける為に、対象を自分に集中させるのだ。

しかし――その判断は間違いである。


「デスクローラーの邪眼は一定時間見た者を硬直させる」


挑発により、デスクローラーの視線を集めた盾役の大男の動きが停止した。指先一本、瞬きすらできない程に全身の筋肉が強張り、動かない。

いや、動けないのだ。デスクローラーの邪眼は呪いの一種。数秒間見つめただけで対象を動けなくする強力な呪いであるが、視線を外せば簡単に解呪される。


「な、なんだ!? 体が動か――」



しかし、冒険者にとってその数秒という時間を奪われること自体が命取りの世界だ。

見えざる攻撃が大盾を持った男を襲う。

数十フィートある巨体から繰り出される尻尾による鞭打ち。その攻撃は盾を構え、鎧を着た男の体をいとも容易く吹き飛ばし、壁に叩きつけた。

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