第2話 青銅

僕は、母がPTAのつながりで仲良くさせてもらっている同級生の女の子の家に(夜中にも関わらず申し訳ない。)と思いながら、ピンポンをした。


その同級生、副島由美子ちゃんは大変な事情であることを僕の拙い説明から察してくれて、僕を家にかくまってくれることになった。


玄関にて「ごめんね。こんな夜遅くに、もう、何が何だかわからなくって。」と僕が慌てた様子で話すと、「大丈夫だよ。よくわからないけど、大変だよね。とりあえず、寝るところ、用意するね。」と落ち着いた様子で彼女は言った。僕は、小学校の時から身長が変わらないので、その時から同じパジャマを着ていて、まだ仮面ライダーとかの絵が描いてあり、恥ずかしかったが、彼女は中学で身長が伸びたので、新しい大人びたパジャマをしていた。なんていうんだろう?これ。テロンテロンした材質でベージュの色をしている。


しばらくして、彼女が戻ってきた。「ごめんね?待たせちゃって。ちょっと、両親も寝ているし、朝一番に父が起きて、リビングで君が寝てたらビックリすると思うから、とりあえず、私の部屋でもいい?」と彼女は言った。


「ええ?いや、むしろ。いいの?僕、君と同じ部屋だよ?」と僕はたじろぎながら言った。昔は、お互いの家にお邪魔しあった中で、それぞれの個室を見せ合った仲だが、しかし、僕たちは今高校生と言う思春期真っただ中だ。部屋に入られては困る部分もあるだろう。


「ちょっと、ほかに部屋が無くって…。」と彼女は申し訳なさそうに言った。僕は、その彼女の悲しそうな表情にいたたまれなくなって、「ああ。ごめん。いいよ。そうしよう。お邪魔します。」と言った。彼女が、「ごめんね。」と言う。


僕は、高校生になって初めて女の子の部屋に来た。なんだか、いい匂いがした。「私が小さなときに使っていたマットレスがあるから、それを出してきたの。ごめんね。これしかなくって。」と彼女は言った。僕は、「いいよ。寝るところがあるだけ、ありがたい。」と言って、横にならせてもらった。押し入れに入って居たであろうこの捨てられずに残された小さなマットレスが、カビのにおい一つしないことに彼女と彼女の家族の手入れの行き届いた気遣いを感じた。僕は、ここに来るべくして来たのだ。と思い込まずには眠れる気がしなかった。


僕が眠れずに薄目を開けたとき、雷が鳴った。そして、青く鮮烈な光が何度か散ったかと思うと、近くで「バリン!」と何か大きな物が壊れたような音がした。


由美子ちゃんが声をかけてきた。「大丈夫?怖くなかった?」と彼女は言い、真横に有るベッドから降りてきて、僕の横に座って横になっている僕の肩を撫でてきた。


「雷は、大丈夫だよ。でも、ちょっと、いろいろあって目が冴えているのか。眠れないね。」と僕が困ったように言うと、彼女の目が少し青い光を放った気がした。それは、窓の外の光が目に入ったせいかもしれないし、彼女の目から発された光かもしれなかったが、次の瞬間に彼女は言った。「え、眠れない?じゃあ、眠りにつけるように、おまじない、かけてあげようか。」と僕に言った。


僕は、(なんだろう?おまじないって?)と思っていると、彼女は部屋から出て行った。そして僕は、(もしかして、カモミールティーか、はちみつミルクでも持ってきてくれるんだろうか。)と配慮に感謝して頬をほころばせていた。そうしている間に、彼女は部屋に戻ってきた。


「どんなおまじないだと思う?」彼女はこちらを見ながら、手を自身の背中に回しながら、言った。ひどくゆっくりとこちらに歩いてきている。雷がまだ鳴りやまず、遠くでゴロゴロと言っている空が、ときどき彼女の姿を照らす。青いパジャマに着替えたのか、さきほどのテロンテロンしたベージュのそれではなく、のパジャマは、幾重にも彼女に折り重なり、肌を包んでいるように見えた。


目を丸くして彼女を見つめていると、彼女の姿が消えた。その場に煙のような残像を残したかと思うと、僕のお腹に重みを感じた。僕は腹部を見ると、青い目をした彼女が僕に寄りかかっていた。

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