本気になれる程度には、好きだ

ぐらにゅー島

どうして部活に入ったの?

「なあ、なんでお前野球部入ったの?」

 蝉がミンミンと騒がしく鳴く中、暑い日差しの下で僕はボールを投げながら航にそう尋ねた。明日の部活の予定を聞くような、そんな気軽さで。

「え、なんでだろ?太陽になりたかったからかも!」

 アハハ、と笑いながら航はボールを投げ返してくる。そのボールはいつもより力が弱い気がして、僕は不思議に思った。

「野球って辛いじゃん? 運動したいなら他にも選択肢あっただろうなって。」

 そう言ってから、航の顔を見た僕は思わず口をつぐんだ。どうしてって、航は笑っていたから。なんとも形容し難い笑顔で、笑っていた。僕は何か触れてはいけないパンドラの箱を触ってしまったことに気がついて、「まあ、ほかの運動部でも辛いしな。」なんてありきたりな結論を出す。

 蝉が鳴く。僕の額から、汗が流れる。その汗が単に暑いからなのか、冷や汗なのか、それは僕にもわからなかった。

「俺さ、中学の頃も野球やってたんだよね。やめたけど。」

「え、なんで。」

 航がなんでもないようにそう言うから、僕も呼吸をするような自然さでそう答えてしまった。なんで。それはとても自然で、残酷な問いかけだ。それに気がついたのは、航の話が終わった後のことだった。それくらい、航は自然体だったから。

「えー、それ聞く? よくある話だよ?」

 ケラケラと笑いながら、航は僕にボールを投げてきた。正確で、受け取りやすいボール。彼には才能があって、辞めてしまう理由なんて僕には考えられなかった。

「まあ、ただキャットボールしてるだけなんてつまらないし聞いてやるよ。」

 僕は航のことが気になった。そして、これはかなりシリアスな話になる。それでも僕は上から目線で、そして悪戯っぽく笑ってそう答えた。どうしてって、航はそんな暗い過去を話すやつじゃないから。それを航は望んでいない。

「えっとねー。そもそも俺、野球やるつもりなんて無かったんだよ。」

 そして、航はそのストーリーを語る。

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