第2話 発端~早とちりの神様~
そう、あれは一年前の出来事。
家族で鍋を囲んでいる最中だった。
祖父、祖母、父、母、姉、兄と義理姉、妹、猫に犬……そして僕。全員で。
そしたら鍋に魔法陣が現れ、そこに吸い込まれた、家族全員。
何を言ってるのかわからないと思うけど、僕もよくわからない。
すき焼きの最中に異世界召喚されたのはたぶん僕達が初めてだろう。しかも家族ごと。
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気がつくと僕の目の前には十二才くらいの女の子が立っていた。
辺りは見た事もない景色で……だけど、何かにたとえようのない、言葉で言い表せないほど綺麗な空間。
「わわっ、転移魔法成功したのです! やったのです!」
女の子は無邪気にはしゃぐ。
長い金髪、可愛らしい顔立ち、Tシャツにオーバーオール。
(何……? ここ……? 僕はご飯食べていたはずだったんだけど……それに誰? この子……? 近所にこんな可愛らしい子いたっけ…?)
「あ! あなたが樹山ファミリーの次男『森(シン)』様ですね! 初めましてです! わたしは遊びを担当する神……【プレリリャ】と申しますです! 突然ですがあなた方『樹山ファミリー』は神々に選ばれ、あなた達の言語で言う『異世界転移召喚』される事になりました!」
【プレリリャ】と名乗る変な女の子は怒涛の勢いで僕に捲(まく)し立てた。
(こんな小さな女の子にまで……異世界系の話って流行ってるのか……神様系のおままごとしたいのか? 誰かわからないけど……とりあえず付き合ってあげるか)
僕はまどろむような意識の中、目の前の女の子のおままごとに話を合わせる事にした。
「えーと……どうして僕なんですか? いや、僕ら家族なんですか?」
「何となくです! 異世界転移転生は神々の間で頻繁に行われている遊戯なのです! 選ばれる人は大体ランダムか神に見初められた人、又は潜在能力がズバ抜けている人……って感じなのです! 今回は転移先の世界が世界なだけに……完全ランダムにしてみたのです!」
「……宝くじに当たったみたいなものか……それで? その転移先の世界って?」
「樹山ファミリー様達の転移先は……全てが規格外の世界『インフィニティ・グランデ』!! ありとあらゆる……いわゆる超超能力者達があちこちに蠢(うごめ)き、更に人間以外のモンスターも蔓延(はびこ)るまさに地獄!! そんな生物達が覇権を争う群雄割拠の大乱の世界なのです!!」
いかにも子供が好きそうな設定だ。
かくいう僕も嫌いじゃない、本当にそんな世界があるなら……怖いけどワクワクする。
「この世界……実は神々の誰も転移先として選ばないほど問題視されている世界なのです!!」
「どうしてですか?」
「転移転生しても誰も生き残れないのです! 記録では……今まで13526人この世界に転移転生しましたが……1年ももたず、みな死亡してます!」
「なにそれ……」
「わたしは間違って『インフィニティ・グランデ』を選んでしまったのです! 変更はきかなかったのです! だからせめて運任せでランダム方式でラッキーパンチを狙って抽選したところ、見事樹山ファミリー様が選ばれた所存なのです!」
それは見事っていうの?
僕達にとっては運悪く地獄行きのチケットを押しつけられただけのような気がする。
「頑張ってくださいなのです!! 勿論、転移転生させる際……取り決めとしてあなた方の世界で『チート』や『ギフト』『スキル』と呼ばれる超能力を授ける事ができます!! 所望されるなのですか!?」
「はい、それは勿論……というかそんな世界に能力無しで行ったら即死亡してしまうでしょう……」
「それはわたしにとっても都合が悪いなのです!! かしこまりました! 『チート』能力は抽選方式か……その人が持つ潜在力の限界突破方式か……お望み通りの能力かになりますが……どれになさいますか!?」
抽選か、潜在力の上昇か、望み……か。
まず抽選は嫌だな……神様が与える能力なんだから外れスキルでも実は……みたいなのがあるかもしれないけど……ランダムってのはちょっと不安だ。
潜在力も……僕は何の取り柄もない普通の中学生だし……何か大きな力が眠ってるとも思えない、却下。
「……いや、どう考えてもお望み一択じゃないですか?」
「お望みの能力をご所望で!! かしこまりました! しかし、これはお一人様につきたった一能力しか与えられないなのです!」
「え? 他のだったら何個も能力貰えたってことですか?」
「はい!! しかしもう決定してしまったので変更は不可なのです!」
先に言ってください、と不満を言いかけたけど……まぁ、おままごとなんだから別にいいか、と納得する。
小さい女の子が考えたにしては色々と細かい設定だ。
「では! 樹山ファミリー代表の『樹山森』様!! あなたが所望する能力は何でございますか!? ちなみに考える制限時間は10秒です! よーいスタート!」
ええええええ!?
何もかもが説明不足すぎじゃないじゃないですかね!?
と、僕は混乱しつつ真剣に考える。
(能力…能力……たった一つで無双できる……規格外の世界を生き残れる能力………!!)
「9~8~7~……」
そういえば……転移するのは僕だけじゃなく家族全員って言ってた。
こんな突拍子もない話に……異世界のファンタジーにすぐ適応できそうなのは……中二病の妹を除いて僕しかいない。
もし……ファンタジー世界の事なんかよく知らない父さんや母さん……じいちゃんばあちゃんなんかがそんな世界に放り出されたら……絶対生き残れない。
(そんなの……絶対に嫌だ。僕が……僕が絶対に、守らなきゃいけない。守りたい)
「3……2……」
僕の望み、自然と湧き出る望みはたった一つだった。
カウントダウンされている事もあってか、僕は望みを大げさに叫んだ。
「家族を、絶対に守れる力……それが欲しい!」
「【絶対的な家族に守られたい】、それがシン様のお望みなのですね! かしこまりました! それでは規格外世界『インフィニティ・グランデ』へ、よい異世界ライフを!」
十二才くらいの神様の耳は色々とおかしかった。
耳というか……もうなんか全てが色々と雑だった。
(違う違う違う!! 言葉は似てるけど意味が真逆!)
すると、神様の祝福みたいな効果音と光が僕を照らし……僕の視界には何か文字が出てきた。
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◇『神様からのギフト』
・【絶対的家族の守護】の恩恵を授かりました。
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(何これ!? なんか意識の中に文字が出てきた!? あの女の子色々と説明不足だし、早とちりしすぎ!)
…………まぁ、冷静に考えるとおままごとだし……そもそもこれ夢だろうし慌てる事ないか。
もしこれが本当の話だったら一大事だけど……ははは、ないない。異世界転移かぁ、もしできるなら一度でいいからしてみたいな──って、そんな事考えてる場合じゃないか。僕、受験生だし……現実逃避してる場合じゃない。早く起きて勉強しないと。
と、薄れゆく意識の中で僕は呑気にそんな事を考えていた。
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こうして目覚めた僕達の前に、超広大なファンタジー世界での生活が待ち受けていたのだった。
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