献策

(これじゃあますます引き離されるな)


 俺はいらだちで煙草の本数が多くなる。


 次の日から俺たちは資金集めに駆けずり回った。しかし三人ともゼロの日が続いた。


 俺は小倉を誘い、昼飯を食いに食堂へ入った。小倉に勝山の動きを伝えると暗い顔をし、押し黙った。


「ネット広告には手を出せない。資金集めも面接したふたりが働いてくれるのか未知数だ。思えば友紀さんは一級品の営業マンだった。彼が勝山に残ったのは大きい。元本が少ないと利益も小さい。行き詰っている」


「社長が弱音をはいちゃだめよ。いつも何がおきても堂々としてなきゃ。そうだ、ジム通いしてみたら」


「ジムってあの運動するやつ?」


 俺は話の飛躍に面食らった。


「そうよ。体を鍛えると快活になるってこの前テレビでやってたわ。だからいまお笑い芸人さんたちの間でジム通いが流行っているんだって。どう?」


「断る」


「前向きじゃないのねー。だから営業で結果がでないのよ」


 俺は小倉の言い分に一理あるとは思った。チャレンジ精神がないのだ。それは自覚している。


「とにかく体験イベントだけでも参加してみましょうよ。私が連れて行ってやるから」




 オフィスに帰ると小倉が早速「ジム 体験」で検索している。するとすぐに見つかった。


「明日にでも行けるわよ。名前は『ヘラクレス』。9時から受け付けているんだって。申し込みするわよ」


「た、体験だけだろうな」


「とりあえずはね。気に入ったら通えばいいわ」


 小倉は申し込んでしまった。憂鬱になる俺。


 これで結果に結びつければいいが、活発になるだけで営業成績が上がるとは全く関係ないと思う俺。問題の本質はそこではないのだ。




 次の日の朝10時から小倉と一緒に歩いて10分のジムに到着。近い所にあった。


 ジムの中に入り小倉が大声をだす。


「すいませーん!体験に来たものですけど」


 すると見るからにたくましそうな、筋肉隆々な男が現われ受付業務をしてくれた。


「こちらの男性だけですね」


「鍛えてやってください」


 俺は無表情で頭を下げる。


 昨日買っておいたタンクトップに着替え、まずはバーベル上げをやらされた。


 重りは10キロ、しかしこれが思ったよりきつい。10回の上げ下げでもうヘロヘロだ。


 次にダンベル。次にランニング、苦難が俺におそいかかる。


 一時間でもうだめ。俺は死んだ。(営業となんの関係があるんだ……)と思いながら。


 体験コースはこれにて終了。小倉が近寄る。。


「がんばったわね、はいこれ」


 飴玉をもらった。


「どうでしたか!」


 インストラクターの男が聞いてくるので、


「はい、いい修行にはなりました」


 と答えると、どうやら会員了承と受け取ったみたいで、入会の書類を手渡された。


 小倉がそれになにやら書き込み、「はい、サイン」


 俺は流されるままにサインをしてしまった。




 筋肉痛のまま営業に出かける俺。(流されちゃいかんな)と思いながらも体を動かすと気分がいい。ま、しばらく通ってみるかと思いながら住宅街をまわっていく。


 今日は成果があった。300万円だが。資料を手渡し、オフィスに戻った。


 ほかの二人は当たりなし。「うーん」と頭を抱え込む。


 そこへ小西が近寄ってきて策を進言しにきた。


「社長、ヨーチューブを宣伝に使ってみたらどうでしょう」


「ヨーチューブ?」


「はい。バズれば申し込みが殺到しますよ。何もしないよりましと思いますが」


 なんだかジムと同じにおいがするが、俺はいちるの望みをかけることにした。


「明日までに原稿を書き上げておいてくだい」


「わかった。長さはどれくらいだ」


「5分ぐらいが適当かと思いますが」


「了解。小西、飯にでもいくか」


「はい。近くの食堂の海鮮丼食べたいですー」


「分かった。おごってやるよ」




「海鮮丼をふたつ。それとビール」


「分かりました。ビールと海鮮丼ですね」


 店員が去ると早速質問だ。


「ヨーチューブで宣伝なんかできるのか」


「原稿しだいですが……社長、資金の運用方法などは開陳できますか」


「うーん……いやそれはできない。真似されたらアウトだ。けっこうシンプルな投資法なんだ」


「それを公開したらバズると思ったんですけどねー。やっぱり無理か」



 海鮮丼がテーブルに置かれた。小西はいかにもうまそうに食べる。俺もビールをひっかけ、海鮮丼に箸をのばす。


「僕にだけちょと教えてくれません?」


「ばかやろう。ダメだって言ってるだろう。じゃあひとつだけ教えてやる。長期投資じゃない。スイングトレードだ」


「す、スイング! ……ってあのスイングトレードのことですか?」


「そうだ。しかし銘柄選びが特殊でな、よくこんな方法考え付いたと思うよ」


「うーん、知りたい!ヒントだけでも……」


「その話はここまで!」


「……はい」


 小西が聞いてくる。


「話は変わりますが社長と小倉さんってつきあっているんですか」


 俺は海鮮丼を吹いた。


「知らなかったか。それで俺はクビになったってこと」


「なんとなくですよ。やっぱりそうか。これでいろいろ納得しました」


「世の中、理不尽なことが多い。しかしそういう体験を経て人間は成長していくもんだよ」


 単なる有能なデジタル人材として雇った小西が、なぜか俺の右腕になっていると感じた。人は成長する。小西はこの数ヶ月で「化けた」。


 店を出た。小西と別れ、ほろ酔いで駅に向かう。その日は原稿のことなど忘れてそのまま寝てしまった。




 次の日、寝たのが早かったためか、朝5時に目が覚めた。原稿をスマホのドキュメントに書いてゆくが遅々として進まない。原稿をきりあげ、卵かけご飯を食べて早々に出社した。


「おはようございます、みなさん。こちらは森投資会社の社長の森久志です。今は政府のいう通り、貯蓄から投資への時代です。みなさんインフレに苦しんではいませんか。庶民はインフレであえいでいるのに……」


 小西を中心とした会議を開いて、宣伝用の原稿をまとめている。みんながアイデアを出し、いい文言が出たら俺が採用する。それを安藤がパソコンにまとめていく。


「これで5分ぐらいじゃないか」


「んー、インパクトに欠けますねー」


「もっと8%を強調したほうがいいんじゃないですかね。業界最高水準とか」


「それを入れよう、他には?」


「長期の展望を見据えた投資を……こりゃだめですね。嘘になります」


 小西がスイングトレードというのを思い出し、否定する。


「そうだな、他には?」


「…………」


 みんな黙り込む。


「よしいいだろう、こんなもんだ。みんなご苦労」


 撮影も会議室で。背後にホワイトボードを置き小西のスマホをスマホホルダーにセットし、撮影がはじまった。俺は原稿が印刷された紙を数枚持ち、緊張しながら撮影に臨む。


「おはようございます、みなさん……」


「カット、カット」


 小西が厳しく迫る。


「ずっとメモ見てしゃべちゃだめですよ。だいたい頭の中に入っているでしょ」


「げろ。これ暗記しろっていうのか」


「無理ですか?」


「無理に決まってるだろ!」


「じゃあ、今日一日かけて暗記してください。説得力が違ってきますので。撮影は明日やりましょう」


 もう言いなりだ。仕方がない。こういう分野には小西のほうが詳しいのだから。




 次の日、完璧に暗記してきた俺は、自信たっぷりでホワイトボードの前に立つ。


「おはようございます!みなさん……」


 出だしは好調、ホワイトボードの出番だ。


「年利はなんと業界最高水準の」


 ボードに大きく8と書き、丸で大きく囲む。


「8%を誇ります。投資した企業の成長速度を見極め、成長から安定期に入ったところで手放します。この手法で莫大な利益を上げることができます!」


 少しだけの嘘と、大方の手法公開。原稿にはなかったフレーズだ。このくらいのほらはいいだろう。


「ではみなさん森投資会社をよろしくお願いいたします」


「OK!」


 小西のOKがでた。げんなりして椅子に座り込む俺。


「あとは住所や電話番号を差し込んでおきますね」


 小西も機嫌がいい。


 次の日、検索ワードで探りを入れるも、さっぱり上位にでてこない。


「出てこないじゃないか!」


 小西に詰め寄ると複雑な顔をしている。


「少しずつ少しずつ上がってくるんですよ。まだまだこれからですってば。あせりは禁物です」


 最も重要な「資産運用」で上位を取れないと致命的だ。俺は神に祈った。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る