脱出
人造人間が治める世界を築いて以来、ブルーパは頻繁に各国の発射基地からロケットを打ち上げた。
ロケットには宇宙の暮らしに適合するように作られた
しかし宇宙空間での暮らしに適応するのは難しく数多くのユニバンが十日程で死亡した。
それでもブルーパは改造を重ねたユニバンをロケットに乗せて打ち上げて宇宙で適応できるか実験を繰り返した。
ユニバンが宇宙で暮らせる体になるのに二十年かかった。
爬虫類に似た緑色のざらついた肌は宇宙線に耐え、黒と赤と緑色が混ざった六つの目は暗闇でも十分に見えた。そして小さな鼻と口と四本の腕──
完成したユニバンは更に人間と程遠い姿になった。
ユニバンの改造と宇宙ステーションの開発が一段落すると月へ有人飛行実験が始まった。
地球から物資を輸送して月の地下に太陽光をエネルギー源とした酸素と水を発生する装置を作り月に住める環境を整えていった。
一方、地球では温暖化による気温上昇が深刻になり各国の政府は二酸化炭素を希薄する装置を大都市に設置した。
人工降雨装置、爆弾低気圧を消失する装置、海水の飲料水化……ブルーパは人智を超えた技術を開発しては投入したが焼け石に水で思ったより成果は上がらなかった。
人々は毎日うだるような暑さに悩まされながら暮らしていた。
地球で投入された数々の新技術は月の開拓技術に流用されて月の暮らしはより快適になった。
やがて月で自給自足の暮らしが可能になりユニバンは遠距離を航行可能な宇宙船を建造して火星や木星から採取した資源で更に暮らしが快適になるような技術を開発・投入していった。
人造人間が世界を治めて二百年後──ブルーパは向こう一年間で主権を人類へ戻す事を宣言し各国で選ばれた政治家に業務を引き継いだ。
そして翌年、地球上の人造人間は意識の共有をやめて自殺した。
地球上の人造人間は全滅した。
人造人間の死を惜しむ声が多かったが、これまでと変わらない安定した社会を約束した政治家達の声に人々は安心して新しい体制による社会を受け入れた。
しかしその約束は簡単に破られた。
各国の政治家は自国に有利な政策を行った。
その為、国家間で貧富の格差が広がり遥か昔の戦いに明け暮れた時代に戻った。
その上、温暖化による気候変動と伝染病の流行で死者が激増した。
人々の流血と死に溢れた地球を横目に月ではユニバンが淡々と技術開発を進めた。
生きる実感などなく与えられた仕事を毎日こなしてそこで得られた経験を仲間と共有して何度か卵を産んで死ぬだけの人生を繰り返した。
更に長い歳月が経ったある日、地球に大型宇宙船がゆっくりと着陸した。
人類が死滅した静寂の大地に熱い風が吹き抜ける。
青空の下に墓標の様に立つ高層ビルとボロボロになった家屋に干からびた車の列、そして広がる砂漠──
寂しい景色の中でひときわ目立つ銀色の宇宙船のエンジン音が止まった。
また静寂が訪れた。
船からユニバンが一人降りた。
薄緑色の軟らかい肌と赤と黒が混ざった瞳以外は人間の姿に近かった。
「アホやな。始めようか」
ユニバンが呟いて船に向かって手招きをした。
船から人間と全く同じ姿をした人造人間がぞろぞろと降りて来た。
崩れたビルの間を熱い風が吹いた。 (了)
人造人間が治める世界 久徒をん @kutowon
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