Age of U ~超人気ゲーの前人未到要素クリアしまくり攻略譚~
桐生秋生
プロローグ『その世界』
拝啓、始めたばかりの俺へ
駆ける。
まばらに光が差し込む山の大地に足を食い込ませ、時折地表に飛び出した細い木の根を踏みつけて。地面を蹴るたびに苔と粘菌が混ざった土が舞う。
跳ぶ。
この山の森に生息する獣、決してレベルは低くない
蹴る。
脚に目いっぱいの力を込めて、足場にさせてもらった枝を蹴り飛ばす。森の湿った空気を切り裂きながら、ドレッドボアを置き去り一気に推進する。
――――じ
「――ゃあなー!!!」
森に木霊した声すらも置き去りにしよう。着地の瞬間、スキル<イラプションスターター>を発動。本来の
足元の障害物に躓かないように、そこだけは細心の注意を払いつつ駆け続けていると、再び前方に
「だから構ってる暇はないんだ、よ、って……」
またもや戦闘を回避するためにと跳躍をしようとした脚にちょっとタンマ。木々に紛れてこちらを威嚇するその姿は、
「レアエネミー!」
全身にバラを咲かせたような2メートル程のカマキリの姿。咄嗟に、腰に備えた黒い刀身のナイフを手に取った。
避けるためではなく、戦闘のために右前方へ向けて跳躍をする。花束のようなカマキリとの距離が縮むと、頭上に戦闘開始の表示。
【マンティス・ブーケ 戦闘開始】
マンティス・ブーケは棘だらけの鎌という殺意むき出しの両椀を振り上げる。それを躱すためには、やはりその程度ではスキルはいらない。
跳躍した先に堂々と立ち構える樹木の幹を強く蹴ると再び跳躍。進路はもちろんマンティス・ブーケ。お花にまみれただけでは隠しきれない危険な二対の鎌をかいくぐり、
「あれ落とせッ!」
右手で逆手に持った
細心の注意を払いそのまま首を掻き切ると、果たしてそのレアエネミーは敢え無く一発でポリゴンとなって霧散した。いくら後半の高レベル帯ダンジョンに生息するレアエネミーとはいえ、その程度今さら敵ではない。
「おっ、落ちた落ちた」
マンティス・ブーケの
「良い手土産ができたな。お祝いつって渡してドッキリ大成功だ」
あの鉄面皮が驚愕と麻痺でだらしない顔になるのを想像し、そしてふと焦りを思い出す。
「ってやばいやばい、遅刻する! さすがに二大クランの合同お祝い大イベントに遅れるわけにはいかんて!」
ちょうどリキャストが終わった<イラプションスターター>を再度発動。地面が軽く爆ぜる音をその場に残して、ユーザー名『#rindou』は山を抜けるべく全力疾走を再開した。
―――拝啓、始めたばかりの俺へ。なんでもっと早く始めなかったんだ。今俺はAoUを超楽しんでんぞ! とにかく走り回れ。山で木から木に飛び移ってた頃のことを思い出せ! そんでもって全力でゲームしろ! そんだけ。じゃあ楽しめ!
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