第3話 あなたはだれですか?
ユキヒョウさんが座った。少し首を傾げてるように見えるんだけど、とりあえずすぐに襲われることはなさそう。
〈なぜこんな所に人間の子どもがいる?ここは森の奥だぞ、死ぬぞ〉
急に声が聞こえた。若い男性の声みたい。
ユキヒョウさんは首を反対に傾げてじーっと見てくる。この子がしゃべったのかな。
「ユキヒョウさん、お話できるの?」
なぜか声をかけてしまった。
〈私はユキヒョウではなく、人にはスノーケーニヒと呼ばれる。話せるのは能力があるからだ。それより、人の子がなぜここにいる?〉
やっぱりユキヒョウさんがしゃべった!スノーケーニヒって名前らしい。ケーニヒは王様だよね、雪の王様なんてカッコいいね。触りたい。もふりたい。
「わたし、リンです。別の世界にいたけど気付いたらここにいたの。……わたしを食べますか?」
襲われる可能性があるなら、確かめたい。そう思って素直に聞くとユキヒョウさんが寄ってきた。
〈食う気があるならもう食っている。お前は迷い人か。〉
そう言ってこちらに近づくと切り株の上に乗り、私の背中を支えるように後ろでスフィンクスの格好になる。
地球ではアレルギーがあって、動物と触れ合う事が出来なかった。こんなに近くにいるのに、痒くもないし苦しくもない。
嬉しくてユキヒョウさんの背中にそっと触れてみる。ふわっと柔らかい毛が手を包み込み、とても温かい。
触っても怒られないので、お腹にそのまま体を預けてみる。ユキヒョウさんのお布団の完成です。
なんて幸せなんだ…。
〈迷い人の魔力は温かいと聞くが、本当なのだな。お前の近くは温かい。〉
そう言うと、私のおでこにプニッと鼻を押し付けてきた。ふわっと何かに包まれた感覚のあと、手の甲に温もりを感じた。
何が起こったのか分からずぼーっと手を見ていると、ユキヒョウさんがちょっと笑った。
〈契約しよう。私はお前を守る。その対価としてリンの魔力が欲しい。魔力をもらうと言っても、リンの負担は無いから安心して良い。〉
そう言うと、ユキヒョウさんは肉球を私の手の甲に乗せる。契約とは何なのか、なにも分からない。でも悪いものでは無いと思う。ユキヒョウさんから伝わるのは温もりと、ちょっとした楽しい雰囲気。
何となく気持ちが伝わってくる感覚がある。これが契約の影響ならすごく楽しい、嬉しい。
人より少し敏感な体質だったせいか、地球にいた頃は人間の感情や気分がドロドロとまとわり付いているように感じていた。
良い感情も悪い感情もダイレクトに受けすぎて疲れていた心に、この温もりは優しく触れる。
嬉しくて契約をしたくて、ユキヒョウさんの目をじーっと見る。
「契約したい。」
ふわふわのお腹を触りながら答える。怒られない。
ユキヒョウさんが目を閉じてしまう。すぐにさっき感じたものより大きな何かに包まれる感覚がして、肉球と触れている手の甲に熱を感じた。
10秒ほどするとユキヒョウさんは目を開けて、ニッと笑った表情になる。
〈契約完了だ。声に出さずとも頭の中で会話出来る。考えを読む事は無いから安心して良いが、契約者の感情は伝わってくる。呼びかけるようにしたら頭の中で会話が出来るぞ。〉
そう言うと肉球をどかし、楽しそうに手をベロッと舐めてきた。猫の舌はザラザラって言うけど、そんなこと無いのね。
ちょっとずれたことを考えながら、ユキヒョウさんとおしゃべりすることにした。
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