第6話:林檎さんの本心。
林檎さんのマンションと会社は、僕んちの店から歩いてすぐの位置にある。
だから林檎さんは会社も僕んちの店も、歩き。
お天気の日は青空を眺めながら、雨の日は傘をさして・・・。
林檎さんが出勤して行く頃、僕も家を出る。
「新ちゃん、悪いね」
「さっきのことがあったばかりだし、またあいつが待ち伏せしてたら
いけませんからね 」
「最近、通り魔とか、ストーカーまがいなやつが多いから」
「新ちゃん私のマンションに来るのはじめてだよね」
「はい、でもマンションの前は何度も通ってましたよ普通に・・・」
「林檎さんが会社休みの時は、何してるのかなって思いながら通ってました」
「そうなんだ・・・その頃から、君に想われてたんだね、私」
「なのに私・・・バカだった・・・」
林檎さんが自分のことバカだったって言った意味がこのあと分かることになる。
てくてく歩いて、角を曲がって100メートルほど歩くと林檎さんのマンション。
そこまで行くまでに林檎さんは僕の手をつないでくれた。
「君の手暖かいね・・・暖かい気持ちが手にも伝わるのかな」
「林檎さんの手が暖かいからですよ」
「私の手は冷たいよ・・・心と一緒で・・・」
「さ、到着」
「今夜はありがとうね・・・助かった」
「いいえ、どうしたしまして・・・」
「僕、林檎さんが部屋に入るを見届けてから帰ります 」
「君がストーカーみたいだよ」
「あはは、そうですね」
「あのさ、ちょっとだけ寄ってく?」
「えっ?・・・」
「あのね、ちょうどいい機会だから新ちゃんに話しておきたいことがあるの」
「外で立ち話もなんだから、部屋に上がって、ね?」
そう言われて断る理由もなし。
林檎さんに誘われるまま、僕は彼女の部屋にはじめて入った。
部屋の中は女の子の部屋って感じより、かなりシンプルな佇まい。
家具や調度類は、ほぼモノトーンで統一されていた。
「ソファに座ってて・・・飲み物持ってくるから」
僕はソファに座っても、宙に浮いたみたいに落ち着かなかった。
台所から戻ってきた林檎さんはテーブルに自分の分と僕の飲み物を置いた。
「さっき言ってた話なんだけど・・・」
「実はね、新ちゃんに告白された時のことなんだ・・・」
「ほんとは、あの時、君の告白断ろうかと思ったの・・・ 」
「君のことは嫌いじゃなかったけど好きという感情もあの時はなかったからね 」
「客とお店のおニイさんって関係って思ってたから・・・」
「じゃ〜なんで、君の申し出におっけ〜したか、ってことなんだけど」
「あの時、私まだ失恋の痛手から立ち直れてなくてね、誰でもいいから
そばにしてほしかったの」
「寂しかったの・・・とくに夜、ひとぼっちなるとね」
「心の隙間を埋めてくれる人なら誰でもいいって思ったんだよね」
「会社の同僚の男子もいたけど私を癒してくれるような人はいなかったしね 」
「そこに私のことを好きって言ってきた、高校生男子」
「で、私はこの子でもいい、一緒にいてくれて私の寂しい時間を埋めてさえ
くれたら・・・そう思っちゃったのね 」
「だから君にはほんとに悪いと思ってるの」
「あの、僕は、あの林檎さんの元カレの代わりだったんですか?」
「違うよ・・・それは違う」
「君のことをそんなふうに一度も思ったことない」
「それは信じてね」
「今、言ったことは、君に告白された時のことだから・・・」
「林檎さんの中に僕に対する愛情はないってことでしょうか?」
「でもさっき僕のこと彼氏だって恋人だって言ってくれましたよね」
「そうだよ・・・今はそう思ってるよ」
「今は君のこと愛してる・・・」
「最初は君のこと友達としてって思ってた、でも君と付き合ってくうちに
君のことが好きになっていったのはほんと」
「だって君って、どこまでも真っ直ぐで、私への想いだって絶対ブレたこと
ないもん」
「そんな子と一緒にいて好きにならないわけないじゃない」
「ただね、最初は君に対してそんな気持ちだったから、いつか君に謝りたい
って思ってたの」
「君を利用したみたいなことしてごめんねって・・・」
「そんないい加減な気持ちで君の気持ちを受け止めたこと許してほしいって・・・」
「ハグしていいですか?」
「いいよ・・・来て・・・」
僕は無性に林檎さんを抱きしめてあげたかった。
「あの、何も言わなくていいです、僕なんとも思ってないですから・・・」
「だから謝らないでください」
「それにお互い愛し合ってるなら、もうそんなことチャラですよ」
「今がすべてでしょ?」
「ありがとう・・・君は優しいね」
「それからね・・・もうひとつ、この話も君に聞いておいて欲しいの」
「私が通り過ぎて来た負の話・・・」
つづく。 」
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