第13話 幸福、そして。
「じゃ、
そう言った
「くれぐれも俺の相方とは
「そんなことを言っても、無駄だと分かっているでしょ。覚えてても、
「ある程度のブレーキは、心がけてほしいという事だ」
彼女は、笑みを浮かべて言った。
「
俺は、内心思った。
――
ここが、そんな世界戦ではない。なんて、およそ確信めいたものがあるから、朝を迎えるのに
俺は、押していた自転車に乗って、自宅を目指す。
振り返れば、今週は非常に
ただの高校生作家が、有名イラストレーターと色々あって、部活を設立して、ラノベ制作を行う。過去の俺がこんなことになるなんて聞いて、まず信じないだろう。そんな週になっている。
――人生。何が起こるか、分からないものだな。
と、
水色のセミロングヘア。顔つきの整った
――これはまた、すごい
と感じながら、俺は彼女に声をかける。
「辻さん、何をしているんだ?」
彼女は、俺の方を向く。
「
「俺がいるからな」
「これは偶然か、それとも
「……? つまり?」
「これは、偶然とも言えるし、必然とも言える。または、偶然でも必然でもないってこと」
「なるほど、意味が分からないな」
「ちなみに、板橋くんが最初にした質問に答えるなら、私は今、自然に答えを聞いていた。お
「…………ほう」
やっぱり、意味は分からないのだった。
「板橋くんは、もう自宅に向かっている感じ?」
「そうだな」
「せっかくだから、近くのコンビニで飲み物でも
「別に奢らなくてもいいが。俺も、辻さんの提案に魅力を感じて、行動に移しているだけだしな」
「そう言わず。私も少し話したいことがあるから、その
「話したいこと?」
「そ。ほんの数分くらい。まあ、別に話さなくても良いことではあるんだけど、この
「わざわざ飲み物までは、奢らなくても良いけど……」
「まあまあ。ほんの百何円くらいかは、課金させて」
別に断る必要も無いかと考え、俺は
「分かった」
「うん、決まりだね」
そうして、俺は辻さんと夜のコンビニに向かう事となった。
「ずっと、夜空を眺めていたのか?」
「うん。意味があるかは分からないけど、ついでに願いごとくらいはしていたよ」
「願いごと……」
「星には幸福を願うものだから。文字通り、これからの幸福を願っていたの」
「確かに。それは、昔から変わらない
「そう。世界は変化を続けるけど、変化しないものもある。それは文化。私は、そんな素敵な文化に
俺は、聞いた。
「例えばだが、
星に対してポジティブな会話をしていたのに、ネガティブな話になりうる話題を持ち込む。我ながら空気が読めないのだった。
だが、それを聞いて、彼女が何を答えるのか気になって、質問をしてしまった。
彼女は、答えた。
「いっぱいあるよ」
「それは、流れ星の力で叶ったものなのか?」
「分からないけど。単純に私は、物事のほとんどを成功の角度でしか捉えないから。結論的に、ほぼ全ての願いが叶ったって形で受け取ってしまうの」
「……それはまた、非常にポジティブシンキングだな」
「実際に、幸福な人生を歩んでいるのは間違いないからね。あと、不幸はつまらないものだから。あまり感じたくはない」
「でも……」と彼女は続ける。
「板橋くんの小説が
「それは……立派なこだわりだ」
そんなこんな会話をしていたら、コンビニに到着して、飲み物を奢ってもらった。
俺は、
緑茶の色が好きらしい。
色で緑茶を選ぶ人……初めて聞いたかもしれない。
辻さんは言った。
「私が板橋くんに話したい内容だけど」
「ああ」
「実は、行き道で話した内容とほとんど
「…………」
「私の人生は今、全てがうまく行ってて面白いって、気持ちを伝えたかっただけなの」
「それは、またなんで俺に伝えたいと思ったんだ?」
「板橋くんが、私と手を組むことに、感じる必要もない
「それは……気を使わせてしまったな」
「小説で返してもらえれば、全然許す」
「……頑張るしかないな」
「うん、頑張るしかない」
辻さんは、口を開ける。
「よく、何もかもがうまく行く人生はつまらない、なんてカッコつけた意見が
「まあ……そうかもな。思い通りにことが運ぶ人生に、つまらなさなんて感じなさそうだよな」
「そうだよ」
「じゃあ」と辻さんは言う。
「板橋くん。また明日ね」
「ああ」
そう言って離れる彼女の背中は、徐々に小さくなっていく。
俺は、思った。
彼女は今、ことが良い方向に向かっていると言っていたが、その路線には、計算の
なぜなら、
少し罪悪感は生まれたが、これはきっと、最強のラノベの完成のためには、必要なことだと、俺は信じている。
そう――俺は自信を抱くのだった。
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