地獄で龍に育てられた少女は、良かれと思って世界を地獄の業火に包み込む

 《人界》から見れば遥か地の底、《地獄界》に住む〈ヘルドラゴン〉の夫婦は、ある日、《人界》に繋がる裂け目から落ちてくる〈ヒト〉の乳児を空中キャッチする。

 受け止めてしまった以上は放り捨てる気にもなれず、生まれたばかりの我が仔の情操教育のため、巣穴に運んで育てることにした。

 乳の代わりに自らの血を与え、事あるごとに【再生魔法】をかけ続け、徐々に大きく育つに連れて、〈ヒト〉の仔にも実の仔と別け隔てない愛情を注ぐようになる。


 15年後、家族から愛され、優しい心を持つ少女に育った〈ヒト〉の仔。

 〈ヘルドラゴン〉の夫婦と、兄にも等しいその息子は、やはり彼女を一度は同族の下へ送ってやるべきだと考えた。

 そして、一通り〈ヒト〉の世界を見て、なお《地獄界》に帰って来たければ、いつでも帰って来いと告げて、彼女を《人界》に送り出す。


 赤と黒だけの殺風景な《地獄界》から《人界》へ訪れた彼女は、初めて同族である〈ヒト〉の姿をも見る。

 世界はあまりに鮮やかで、賑やかで、滑稽。

 されど、飢えや争いの絶えない世界を不憫に思い、彼女は施しを与えることにした。


 彼女にとって施しとは即ち、自らの血だ。

 〈ヘルドラゴン〉の血を飲んで育った彼女の肉体は変異を遂げており、育ての親に近い性質を持っていた。

 天を駆ける少女の通った後から降り注ぐ赤黒い血液は、地表に触れると同時に、決して消えぬ黒い炎を立ち昇らせる。


 これは少女の愛が地表の全てを覆うまでの、あるいは、誰かの愛がそれを阻止するまでの物語。

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