底辺配信者の俺、炎上商法目的でモンスター愛護運動を始めたところ、アンチに「だったらお前が保護してみろ」と人食いドラゴンの巣へ投げ込まれる

 地球にダンジョンが現れて10年。

 収益化を目指すダンジョン配信者(チャンネル登録者数2桁)の円城 翔輔は、遂に真っ向勝負を諦めた。


 そもそも彼はダンジョンが好きなわけでも、配信が好きなわけでもない。

 何の才能もなくとも、簡単に有名人になれそうだったから、それを始めたのだ。

 承認欲求を満たし、自尊心を高めるために。


 「モンスター愛護運動」、翔輔はその信奉者を演じることにした。

 ダンジョンを知る者は、その住民を「魔物」と呼ぶ。

 「モンスター」と呼ぶのは、ダンジョンを知らないド素人の特徴である。

 間引きを怠り、一度ダンジョンから溢れれば付近の都市を襲い、人間を食い尽くす怪物。

 そんな魔物との共存を標榜し、ダンジョン関係者に破壊活動を伴う抗議を行う狂気の思想だ。


 そもそも視聴者は冒険が好きなわけでも、未知が好きなわけでもない。

 自ら死地に飛び込む狂人を、安全圏から見物するため、それを観るのだ。

 自分より愚かな者を見て、自尊心を高めるために。


 劣等感を抱えた大衆は、自分より愚かに見える道化を煽るために時間と金を費やす。

 本物のモンスター愛護活動家は、ダンジョン産業と競合する他業種の企業は、他国の工作員は、彼の配信を支援する。

 瞬く間に名を挙げた翔輔は、しかし、純真で直情的な視聴者を敵に回した。


 高難度ダンジョンから溢れ、近くの山林に住み着き、数多の人を食らった〈ヒグマドラゴン〉。

 配信中に暴徒の集団に襲われ、車で攫われた翔輔は、その人食いドラゴンの巣に投げ込まれた。

 魔物を殺すなと言うなら、こいつを保護してみせろ。

 そう吐き捨て、誘拐犯らは走り去る。


 拘束を解き、自由を取り戻した翔輔は――徐ろに生配信を開始した。

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