「学園1の美少女【雪姫】と付き合ってるなんてウソだよね!?」と王子さま系元カノが泣きながら僕に謝ってくるけどもう遅い~僕を溺愛するJKと楽しく暮らしてるので今更ヨリを戻すつもりはありません~

茨木野

第1話 カノジョに浮気された日、学園トップの美少女に傘を貸した



 僕の名前は村井むらい 健太。

 どこにでもいる、高校二年生。



 僕には幸いなことに恋人がいる。

 なぎさ りょう



 幼なじみで、同じ学園に通っている、同級生だ。

 身長170センチ。



 スレンダーな体型に、きれい系の顔立ち。

 宝塚にいてもおかしくないくらい、どちらかと言えばカッコいい見た目をしている。



 その上剣道部の主将で、とても人気がある。

 一部からは【湖の麗人】なんて呼ばれてて、凄い人気が高い。



 男子にも、そして女子にももてるのだ。


 そんなりょうと付き合いだしたのは二年生に進級した春頃のこと。

 正直、どうして僕のような陰キャで、特筆すべき特徴の無いモブキャラと、涼と付き合ってるのかわからなかった。



 でも涼は僕が好きだと言ってくれた。

 僕は……うれしかった。



 でも……僕は見てしまったのだ。

 その日……。



 僕が買い物から帰ってきたとき。

 ……涼が、誰かとキスしていることに。


「涼……?」



 場所は、僕らの住んでいるマンションの目の前。

 涼は誰かと抱き合って……そして、キスしている。



「あれは……確か剣道部の、後輩の子……」



 そう、涼のキスの相手は女子だった。

 部活の後輩の子と抱き合ってキスしてる姿を見て……。



「ああ、やっぱり……」



 そんな、とか、嘘だ……とか、そういう感想は出てこなかった。

 薄々、気づいていたのだ。



 涼は、本当は女の子が好きなんじゃあないかって。

 彼女はモテる。すごいモテる。男子にも女子にももてるのだ。



 でも男子の告白は全部断っていた。

 一方女子からも告白されてることが多かった。



 でも男子のときは、きっぱり断っていたけど、女子のときは「気持ちは嬉しいけど、ごめんね」とやんわり断っていた。

 そのことから、たぶん涼は女の子が好きなんだろうって思っていた。




「そっか……涼は、女の子のがいいんだ……はは……そうだよね」



 僕は来た道を引き返す。

 当てはなかった。



 とぼとぼと歩きながら、今日までのことを振り返る。

 涼から告白されたのが、今年の4月。



 そこから一ヶ月。

 夢のような時間だった。



 僕と涼は幼なじみだ。

 お互いの境遇は凄い似ていた。



 ともに片親で、しかも親は海外で働いており、滅多に家に帰らない。

 そんな僕らは、ずっと一緒にいた。



 親が居ないさみしさを、二人でいることで、紛らわせていた。

 よく涼は僕の家に来て、色々と世話を焼いてくれた。



 掃除洗濯、料理。

 すべて、やってくれた。また勉強も教えてくれた。



 僕にとって涼は、頼れる兄であり姉であり……。

 そんなカノジョのことが、好きだった。だから付き合って欲しいと言われたとき、うれしかったなぁ~……。



「うう……うう……」



 でも高校生になったあたりかな。

 涼が僕のうちに来る頻度が減ってきた。


 ナンデって聞いても返答は無かった。

 でもわかった。たぶん好きな女の子ができたんだろう。



 でも、女の子同士で付き合うのは、今の世の中ムズカシイ。

 風当たりが強い。



 ……だから、僕だったんだ。

 僕と付き合うことで、好きでもない男子からの告白は全部「付き合ってる人が入るから」で断れる。



 また男と付き合うことで、本当に好きな女の子と付き合ってることを、隠せる。

 だから、僕と付き合っていたんだ。



「…………」



 予兆は、あった。

 僕の家に来なくなったこと。電話をかけても繋がらない時が多くなったこと。



 また、デートしたときも、手をつないでくれなかったし、「一緒に歩くときは離れてくれないか」って言ってきたし……



「はぁ……」



 僕は、好きだったんだ。

 涼のこと。



 でも涼は女の子が好きで、付き合ってる女の子もいた。

 僕は単なるフェイクカレシだったんだ。



「ひどいよ……涼……」



 気づけば僕は、傘を差しながら、とぼとぼ歩いていた。

 当てもなく歩いていたら、いきなり雨が降ってきたのだ。



 近くのコンビニでビニール傘を買っていた……みたいだ。

 全部無意識にやったことだ。



 正直気づいたら雨が降っていて、気づいたら傘を買っていたとしか説明ができない。

 それくらい、涼の浮気を知ったのは、僕にとって衝撃的な出来事だったのだ。



 ……さて。

 そんな風にふらふら歩いていると……。


「ん? あれは……」



 駅近くの公園にて、誰かが、傘も差さずにベンチに座っている姿が見えた。



「あの子って……たしかうちのクラスの……【犀川さいかわ 姫子ひめこ】……さん?」


 犀川姫子。

 僕の同級生。高校二年生。



 淡い色の長い髪をした、少し小柄な美少女だ。

 容姿端麗、成績優秀、文武両道。



 まさに完璧超人な少女だ。

 学園の定期テストの成績は常にトップ。



 体育の授業でもいつも好成績を残している。

 でも、どの部活にも所属していない。



 部活に入らないのって聞かれても『あなたには関係ありません』と、冷たく切り返す。

 何を聞かれても『あなたには関係ありません』とズバッと返し、場を凍らせる……。



 ついたあだ名が、【雪姫ゆきひめ】。

 その冷たい雰囲気と、美しい容姿に、ぴったりなあだ名だと思った。



 二年生には【四天女よんてんにょ】と呼ばれる、凄い美少女がいる。


 なぎさ りょう

 セイラ・軽井沢。

 三才山みさやま こう



 そして……犀川 姫子。



 犀川さんは、二年生のなかでトップクラスの美少女なのだ。

 涼以上に、僕にとっては縁遠い人種だったわけだけど……。



「こんな雨降りの中……傘も差さずに……どうしたんだろう……?」



 犀川さんはベンチに座ってうつむいてる。

 そして……僕は見てしまった。



 彼女が、雨に打たれながらも、泣いてることに。



「…………」



 その泣いてる姿を見て、僕はほっとけなかった。

 何か悲しいことがあったのは明らかだ。


 ……僕と、同じだ。

 詳細はわからないけど、僕と(おそらく)同じ、悲しい境遇である彼女が……。



 なんだか、ほっとけなかったのである。同情、と言えばそのとおりだけども。

 でも……無理だった。



 あの状態の彼女をほっとくことなんて。



「あ、あの……犀川、さん?」

「……村井くん?」



 あれ?

 僕の名前知ってるんだ……?



 クラスで一度も絡んだことなかったような気がするけど……。



「こ、こんばんわ。犀川さん」

「……こんばんわ。どうしたの、村井くん?」



 いや、どうしたのって……。



「それ、こっちのセリフ、だけど」

「……そう。ほっといて」



 彼女はうつむいて、会話をシャットダウンしてしまった。

 私に話しかけんなオーラがすごい、体から出ていた。



「……あの」

「…………」

「風邪引いちゃうんじゃ……」

「…………」



 あかん。

 話を聞いてくれない。でも……このままじゃ、風邪引いちゃう。



 しょうがない。



「あ、あの……!」



 僕は持っていたビニール傘を、犀川さんに渡す。



「こ、これ……! 使って……!」

「……?」

「僕んち、この近くだから。その……えと……じゃ、じゃあ!」



 ……なんというコミュ障っぷり。

 これじゃあ涼に愛想つかされてもおかしくないよ。



「……あ」

「じゃあね、犀川さん!」



 僕は彼女に傘を渡したあと、走ってマンションへと向かう。

 


「…………」



 彼女はジッと、僕のことを見つめていた。

 何か言いたげだった。



「……ありがとう」



 その声はあまりに小さくて、何を言ってるのか、僕にはわからなかったのだった。

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