お出かけ①
「翔太くん朝だよ〜!起きて!」
海結と家族になって二日目、昼まで寝るのが日課だった夏休みは、今日で終わりを迎えた。
「まだ朝じゃん。昼まで寝てたいんだけど。」
「ダメだよ。夏休みだからって怠けてたら、学校始まってしんどくなるよ。」
そんなことは知ったことじゃない。そのときは、そのとき対処すればいい。
「それに、お母さんが朝ご飯作ってく待ってるよ。」
「直ぐに行きます。」
既にどこか抗えないチカラ関係を感じてしまう。とはいえ朝ご飯を準備してもらってるのに食べないのは、さすがに申し訳ない。仕方なく体を起こす。
「おはよう。翔太くん。」
「おはようございます。紗季さん。」
「遅いぞ翔太。」
親父のことは無視して席に座る。紗季さんのこととなると親父が、面倒臭くなることは昨日の時点で分かった。
「いただきます。」
全員揃ってあいさつをしてから食べ始める。ご飯はトーストとスクランブルエッグだ。手料理を食べるのはいつ以来か。俺も親父も料理はからっきしで、いつも出前かコンビニ弁当だった。
ご飯を食べて思い思いの時間を過ごしていたとき、海結がおもむろに口を開いた。
「翔太くん。今日遊びに行かない?」
「バイトがあるから無理。」
「バイトは夕方からだろ。」
本当に余計なことを言ってくれる。こうなったら紗季さんも参戦してくるのが目に見えてるので、俺に勝ち目は無い。抵抗するだけ無駄というものだ。
「どこに行くんだ?」
「そうだな〜。ショッピングなんてどう?」
「嫌だ。それだけは嫌だ。」
あんなに服屋がいっぱいあって、子供が多くて騒がしい場所になんて行きたくない。ショッピングに行きたいなら紗季さんと行けばいいのに。
「えー、なんでよ〜。」
あからさまに不満な顔をする。海結がそんな顔を見見せたなら、黙ってない男がいる。
「行ってあげればいいじゃないか。それと昼ごはん代。」
そう、親父だ。海結と紗季さんにはとてつもなく甘い。それはもう、お願いされれば直ぐに陥落してしまいそうなほどに甘い。
しかも、お金まで渡されてしまったので、逃げ場が無くなった。
「行けばいいんだろ。支度してくるからちょっと待ってろ。」
服はいつも通りのTシャツにスウェットパンツ。ファッションに興味の欠片も無いから許して欲しい。
「もう行けるの?」
「どう見ても行ける格好じゃない?」
「あ〜。そうだね。」
やっぱり服がダメだったらしい。別に普通だとは思わないけど、ダサすぎるわけでもないだろ。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
親父と紗季さんに見送られて家を出る。海結は心做し浮き足立っているように思える。
「ここからどれだけ時間がかかるんだ。」
「えーっと、三十分くらいかな。」
近いのか遠いのか微妙な距離だが苦なわけではない。結局、なんだかんだ言っても少しだけ楽しみにしてる自分がいるのを感じる。あとは、学校の奴らに見られてなければいいなと祈るばかりだ。
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