昔話

「海結は自分のお母さんが再婚することに反対しなかったのか?」


ふと疑問に思ったので聞いてみる。俺は親父が再婚するって聞いた時、どうでもいいとは言ったが不快感は拭いきれなかった。


「反対はしなかったよ。」


「なんで?」


「まぁ、抵抗感が少しも無かったかって言われれば、もちろんあったと思うよ。でもそれ以上に女手一つで私を育ててくれたお母さんに、感謝してるからかな。」


なるほど、よく理解した。言われてみれば簡単な理屈だ。


「そうか。」


「翔太くんはどうなの?」


「俺か?そうだな。俺の母親だった女がどんな奴だったかは聞いた?」


「聞いてない。」


「そうか。なら、ちょっと不愉快な内容になりそうだけど、大丈夫?」


俺もあまり思い出したくはないが、これから家族になるのだから話しておいた方がいいだろう。


「大丈夫。」


海結が大丈夫だと言ったその言葉を信じて話し出す。


「結論から言うと、親父が離婚したのはあいつの不倫が原因だ。理由を問いただしたら、俺たちとの生活に飽きたからだと言われた。」


海結は俺の言葉に耳を傾け頷きながら聞いてくれている。


「この時は何を言われてるか分からなかった。何の変哲もない平凡な日々。俺はそれに幸せを感じていたから。でもあいつはそんな日々に飽きたらしい。それで外に男を作って出て行った。」


今思い出すだけでも泣きそうになる。俺だって、あの頃はあいつの事が好きだったから本当にショックだった。俺の表情の変化に気づいたのか海結が近くに寄ってくる。


「辛いなら無理して話さなくていいよ。」


今日会ったばかりなのに優しくしてくれる。少し元気を貰い再開する。


「それからの親父は、見ていられないくらい元気を無くしていった。でも、最近は凄く楽しそうにしてたんだ。何があったか分からなかったけど、まさか再婚するとは思わなかったよ。」


本当に良かったと思う。親父が幸せそうにしていることが俺は嬉しい。あのとき、何もしてあげることが出来なかったから。


「けど、やっぱり母親というものにどうしても、拒否感を覚えてしまうんだ。」


「え?」


「紗季さんが悪いわけじゃない。むしろ感謝してる。また親父が元気に笑えるようにしてくれて、楽しく日々を送ることができるようにしてくれたから。だから、これは俺の問題。」


話すべきでは無かったかも知れない。もしかすると、今後の家族関係にヒビを入れてしまうかも知れない。そうなると、親父も紗季さんも悲しむと思うから。それを俺は望んでない。


「なんだ。そういうことなら問題ないね。」


正直手を出されることも覚悟していた。大好きなお母さんを悪く言われたら、怒るのは至極当然だ。

しかし、海結の反応はあっけらかんとしていた。


「怒らないのか?」


「怒る理由がないよ。だって、私のお母さんは凄いんだから。きっと翔太くんも直ぐに絆されるよ。」


その言葉に声を出して笑ってしまう。


「そうか。なら問題なさそうだ。」


海結が俺に向かって笑いかけて来たその笑顔が、酷く綺麗に写った。

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