学年一可愛いと噂される女の子が姉になった。
浅木 唯
再婚
皆が大好きな夏休み真っ只中、俺は忌々しき課題と格闘している。何故か偏差値の高めな学校に合格してしまったが為に、一年生にして勉強についていけなくなってしまった。
「翔太ー。ちょっと来い。」
課題も一段落ついたので休憩に入ったところで、ドア越しから親父に呼ばれた。大人しくリビングに行くと、見慣れない姿が二つある。一人は親父と同い歳くらいの女性で、もう一人は俺と同い歳くらいの女子。
「おお、来たか。」
「ああ、来てやったよ。で、そちらの二人はどちら様で?」
「紹介しよう。再婚相手の紗季さきさんと、その娘の海結みゆちゃんだ。」
「は?再婚相手?どういうこと?」
あまりの衝撃に驚きを隠せない。それもそのはずだが、俺はなにも聞かされていない。そういえば最近よく出掛けるなとは思ってたが、デートしてるとは思わないだろ。
「そのままの意味だ。今日から紗季さんはお前の母親で、海結ちゃんはお前の義姉になる。」
結局何も理解できないまま俺が戸惑っていると、紗季さんと呼ばれた女性が話し出す。
「あなたが翔太くんね。私は桜良 紗季。いえ、今日から上水流 紗季になったわ。あなたのお義母さんよ。よろしくね。」
「私はお母さんの娘の海結だよ。よろしくね。翔太くん。」
「あ、えっと、俺はこの何も話やがらなかった親父の息子の、上水流かみづる翔太です。よろしくお願いします。」
かなり冷静になってきた。要は親父が勝手に再婚して、母親と姉ができたって訳か。少しくらいは相談してくれよな。
「すみませんが、少し親父と話をしてきてもいいですか?」
「ええ。全然大丈夫よ。」
「ありがとうございます。」
紗季さんから許可を貰って、ひとつ隣の部屋に移動する。
「話ってなんだ?」
能天気に聞いてくるので少しいや、かなり腹が立つ。
「なんでなんの相談もしてくれなかったんだ?」
「なんだよ。父さんの再婚が嬉しくないのか?」
この言葉に我慢の限界が来た。思わず声を荒らげてしまう。
「違ぇよ!別に親父が再婚しようがどうだっていいけど、一度も俺に相談してくれなければ、紗季さんのことだって話してくれなかっただろ?それが分からないって言ってんだよ!」
「それは...お前が今でも母さんがトラウマなんじゃないかと思ってな。反対されると思ったんだよ。」
「俺はあの女のことは嫌いだけど、紗季さん関係ないだろ。それに...」
「それになんだよ。」
あいつが居なくなってから、家事を全部一から覚えてこなしてくれてるんだ。しかも、高校に行けるだけのお金だって稼いでくれてる。だから親父には感謝してるなんて言えるわけがない。
「いや、なんでもねえよ。」
恥ずかしくなってそそくさと紗季さんの待つ部屋に戻る。
「お待たせしました。声聞こえませんでした?」
「声は聞こえてきたけど、何を話してるかは分からなかったわ。」
あの会話が聞かれてたら、今後の関係を築きずらくなる。主に俺が恥ずかしすぎて。
「翔太、海結ちゃんと仲良くするんだぞ。俺たちはデートに行ってくる。」
「親父、ちょっとまて。」
「待って、お母さん。」
俺と海結さんがほぼ同じタイミングで制止するが、親父と紗季さんはいい笑顔で出かけて行った。
「・・・」
「・・・」
かなり気まずい。それに、再婚の衝撃が凄くて気づかなかったけど、海結さんも紗季さんもめちゃくちゃ顔が整っている。紗季さんは、黒髪ロングの清楚な美人って感じだが、海結さんは、黒髪でボブ?と思われる髪型で可愛い感じだ。
そんな彼女と俺がまともに話せると親父は思ってたのか?だとしたら見当違いも甚だしい。今まで友達はおろか彼女だっていたことがないのに。
「翔太くんは、高校生なんだよね。」
気まずい沈黙を破ったのは海結さんだった。
「え、あ、はい。そうですけど。」
「そっか。良かったー。私は滝ノ上高校の一年生だよ。翔太くんは?」
滝ノ上高校?一年生?
「俺も、滝ノ上高校の一年生なんだけど...なんでお前が姉なんだ?」
「そりゃ私の方が誕生日早いからでしょ。」
「なんでだよ。てか、もっと驚けよ。俺とお前が同じ高校だってことに。」
「だって知ってたもん。全部お母さんから聞いたよ。」
「じゃあ、なんだ。俺だけ何も知らなかったってことかよ。」
クソっ!ふざけんなよクソ親父!手の上で転がられたみたいで恥ずかしいじゃねえかよ。
「それと、私はお前じゃない。お義姉ちゃんと呼びなさい。リピートアフターミーお義姉ちゃん」
「嫌だね。お前がお義兄ちゃんと呼べ。」
「だからお前って呼ばないで。それに、お義兄ちゃんなんて呼ぶわけないよ。意味わかんないもん」
「分かるだろ。俺の方が背が高い。」
あまりにも苦しい言い訳だと自分でも思う。だがどうしても義姉とは呼びたくない。
「分からないよ。女子と男子を較べたら出しの方がでかいに決まってるし。」
「分かったよ。海結って呼ぶから許してくれ。」
これが最大限の妥協案だ。これを断られたらもうどうしようもない。
「仕方ないね。それで許して上げる。」
上から目線なのは腹立つが、許して貰えたので良しとしよう。正直女子を名前呼びしたことがない俺にとっては、とてつもなくハードルが高い。
しかも、同じ学校だってことは、直ぐに海結の苗字が変わってバレるだろう。俺は、これからの学校生活に思いを馳せため息をついた。
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