ショートショート

@adgjmptw1111

そのイケメンは突然現れた

「これ」

「……え…何」

 いきなり目の前に現れ、何かの紙切れを差し出してきたのは、正直目を見張ってしまうようなイケメンだった。

 おーおー、まじか。

 たぶん、世の女性だったら、もとい男性ですら浮き足立ってしまうような状況に違いない。しかし残念ながら、今僕の脳は疲労に支配されている。あまりに唐突なその光景に、呆けたような言葉を返すのがやっとだった。

 金曜日、午後9時のオフィス。僕は先輩から押し付けられた納品書の仕分けをようやく終えて、帰ろうとしたところだった。日中は100人弱が騒々しいこのフロアも、すっかりガランとしている。

 その景色を横目に見てしまい、ただでさえ重かった気持ちがますます膨れ上がるのを感じた。眉間に皺がよる。

 週の疲労に、心労が超絶ピークなこのタイミングで話しかける方が悪い。と思わず睨んでしまいそうになるのだけは踏みとどまって、改めて目の前の男を見る。

 いわゆる、シュッとしてる感じの……、そのくせ四捨五入で170センチある僕より頭一つ分くらいでかい。

 そんなイケメンが口に出したのは、

「友だちになって下さい」

 今どき小学生でも言わなさそうなセリフだった。


 差し出された、これ、はつまり彼の連絡先が記された紙切れだった。

 ほんと意味わからん。が、何故か受け取ってしまった僕も大概なわけで。

 いや、いいや。受け取っとこ。震える彼の手指が、悪くない気分を作ってくれた。

 そして、彼は高らかに叫んだ。僕は、僕に対しての、決死の告白を目撃した。告白。実に数年ぶりの出来事である。

 しかし、しかし。そんな彼が発したのは。

「田中さん!」

「中田だけど」

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