第2章 第3話

「敵の弱点を狙うのは当然だろっ! 魔王の弱点を誰も知らないから、本人に訊いただけじゃないか!」


「その計画に露程も不安を感じなかったのなら、剣だけ振ることをおすすめするわ」


 アッサムは危害を加えるつもりは無かったというのに、一方的に急襲された挙句、お説教までされてしまった。これだから魔物は……と内心で毒づくのだった。


「アンタは、なんでそんなにアタシにこだわるのよ。この森の魔物程度なら、アンタの敵じゃないはずでしょ」


 魔王の言う通り、アッサムは村の周りの魔物など全力の一割も出さずに勝てる位になっていた。魔物退治や、退治した魔物から取れる皮などの素材を持ち帰って生計を立てているのだから。


 相手が魔王だから負け続けているだけで、決して弱いというわけではなかった。


「別に、お前に拘ってるわけじゃない。僕は剣士になりたい。そのためには、お前を倒さないといけない。それだけだ」


「なんで剣士になりたいのよ。そんな称号が無くても、魔物と闘うだけなら支障はないじゃない」


「そんなこと、お前に関係ないだろ!」


「あらそう。それなら、弱点なんて教える義理ないわね」


 ぐっと詰まったが、それはつまり、理由を話せば弱点を教えてくれるという意味で、もっと言えば、弱点があると認めたということ。相手が魔王だろうと、使える相手なら取引に応じよう。


「死んだ父さんに言われたんだ。強く生きろって。だから、僕は剣士になって、強くなったぞ、だから心配するなって、言いたいんだ」


「……そう」


「べ、別に同情させて手加減してもらおうなんて考えてないからな!」


「本当に残念な子だわ、アンタ」


 鼻を摘まんで引っ張ってやると、「んがががが」という変な声を漏らして距離を取った。涙目になりながら、鼻を潰そうとした魔物を睨む。


「痛いな! ちゃんと理由を話したんだから、約束通り弱点を話してもらうぞ!」


「いや、アンタと何の約束もしてないけど。……アンタは魔物との契約なんて絶対にしない方がいいわ。魔物にいいように騙されて終わるわ」


「だ、誰が魔物と契約なんてするか! 魔物に父さんを殺されたんだ!」


「……」


「剣士になって、僕みたいに親を殺される子供が出ないように、魔物を一匹でも多く退治してやる。お前も絶対に倒す!」


「期待してるわ」

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