雑草なあいつと枯れかけのあたし

あぼべば

百合と白詰

 あたし、蜂咲百合は完璧だった

 顔もいい、要領もいい、表面上は性格もいい。そんなあたしはクラスの中ではどんなことでもナンバー1。いつだってあたしの周りにはチヤホヤしてくる人間がいて、蜜を吸うために口を窄めている。別に嫌ではなかった。満足していた。そんなしょうもないあたしのちっぽけな王国はあいつにぶっ壊された。


「みなさん初めまして。私の名前は白詰みずきです。これからよろしくお願いします。」

 あたしのクラスにやってきた転校生はそう言い放った、梅雨のジメッとした教室を吹っ飛ばすかのように。どこにでもいそうな見た目。髪は長く綺麗だが、前髪が如何せん重すぎる。顔がよく見えない。はっきり言って地味だ。しかも苗字が雑草。取るに足らないはずのそいつにあたしはとても嫌などうにも言語化のできない嫌な感じを肌で受け取った。


 転校生あるあるだと思うけど、休み時間に囲まれている。女王として挨拶に向かう。周りは女子に囲まれていたが、あたしが近づくとすぅっと道が開く。

「初めまして、あたしは蜂咲百合!気軽に百合って呼んでよ!」

女王としての威厳。それを見せつけるかのように堂々とあたしは半ば宣言のように言った。

「私は白詰みずきです!これからよろしくね!」

こっちの気なんて知ったこっちゃないとでも言わんばかりの屈託のない笑顔でニカッと白い歯を覗かせて言いやがった。やっぱこいつ、嫌いだ。


 もう直ぐ夏が来る。転校生ももはや一般生徒となった7月は中旬。あいつはあたしの国に無断で改革をしていった。あたしの予想は当たっていた。あたしが女王ならあいつは革命者だろう。具体的にはあたしの取り巻きがあいつに唆され、あたしの元から白詰とともに飛び立ってしまう。とはいえクラスでの立場が悪くなったわけでもない。ただよそ者がいきなり現れて我が物顔でクラスを荒らされるのが気に食わなかっただけだ。空は雲が立ち込める。

 天気は帰りまでは持つと癒着した笑顔の天気キャスターが言っていたが土砂降りだった。家に着く頃には靴は水を吸い込みぐちょぐちょと不快な音をたて、制服は肌に張り付き非常に気持ちが悪い。さっとシャワーを浴び、課題の問題集をしようとしたところで気がついた。学校に手提げカバンを忘れてきたと。その中に問題集が入っており、これでは明日提出ができない。メンツが丸潰れだ。普段のあたしならそれでも諦めていただろうが、あいつの顔が浮かぶ。親は仕事で夜まで帰ってこないので、送ってもらうこともできない。

「クソッタレ」

 暗くなった家で一人呟き学校に向かった。

 

 いつもならまだ少しは陽の光もある時間帯だが、空は曇天に包まれてドス黒いというのが表現的に正しい気がした。学校に着くと部活動で残っているのか教室はちょこちょことまだ電気はついていた。教室の前につく。あたしのクラスがまだ光っている。誰がいるんだ?そんな思いを抱えながら入る。あいつだ。あたしが入ってきたことにも気づかず必死に勉強してやがる。

「なんでまだいんの?」

 こいつはビクッと肩を振るわせた。

「百合こそなんで?」

 質問に質問で返すなよと思ったがグッと飲み込んだ。

「手提げカバン忘れたの」

「それでこんな雨の中取りにたん?てかびちょびちょじゃん。ほら体ふきな。」

 カバンから出してきたタオルを押し付けてくる。そいつの参考書が目に入る。付箋でボーボーとなり角は曲がって白ぽくなっている。どんだけやってんだ。

 あたしは小さい頃から地頭っていうのが良かった。だから勉強は最低限で、課題をやるだけ。今までそれでやってきた。しかし、最近はそのままではついていけなくなると、体感していた。焦りも感じていた。だからだろう、こいつがこんなにもムカつくのは。

 次の日、課題提出と抜き打ちの小テストがあった。いつも通りサクサクっと解いた。やはり地頭の限界を感じると顔が歪む。時間のアラームが鳴る。あいつは出来が良かったのかニコニコしていた。

 返却された点数は93点。ケアレスミスが目立つ。あいつはどうだったかと横をとうりがてら盗み見た。点数は56点。キッパリ言って酷い点数だ。私の目は節穴だったのだろうか。席に戻り先生が成功点数を発表する。95点のだった。あいつのせいだ。あいつのせいだ。あいつのせいだ。首位陥落こんな惨めな気持ちは久々だ。

 放課後になり皆が帰宅やら部活やらの準備を始める中白詰はテストのとき直しをしておた。授業中にやったにも関わらずだ。クソ真面目。あたしは白詰の席に向かった。

「ねえ」

「どしたの?」

「なんでそんなやんのよ。バカみたいじゃない。」

 口から言葉が漏れていく

「えっと、、、ちょっとよくわかんないけど、、、」

「努力努力努力ってそんないつ咲くかもわんないようなものになんで頑張れんのよ。」

「もしかしてテストの点見られちゃった?」

恥ずかしそうにはにかみながらそいつはいう。

「私はバカだけど、親にはこれ以上苦労かけたくないんだ。真面目なのが私の取り柄。それしかないのにそれで戦わなかったらもう何も残らないじゃん。」

みんながこいつについていくのがわかった気がした。底なしの善人。学校の成績なんかでは測れない、私にないものを持ってんだ。そう思わされた。

「あたしさ、あんたのこと実は結構嫌いだった」

こいつはまさにバカ丸出しといった感じで口をがぼーんと開けている。

「あんたが来るまであたしはこのクラスで文字どうりなんでも一番だったって自負してる。」

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雑草なあいつと枯れかけのあたし あぼべば @saiteihen

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