第46話 女子高生、手取川の戦い
一向宗を一ヶ所に固めるために、私は朝倉軍が撤退と思わせて、一向宗を一網打尽にする作戦を思いついた。
今は戦国時代。ましてや、電話もSNSもない時代なので、いち早く情報を共有するのはすごく難しい。事前に打ち合わせしていたわけでもない。朝倉軍が苦戦している状況を見て、私が思いついた作戦なので、山崎家も景鏡も知らない。勝手に先陣に立ち、急に撤退するなんて行動をしたら、本当に朝倉家が壊滅してしまうだろう。
こういった状況には、狼煙を上げるのが一番手っ取り早い。今は空気も澄んでいて、雲が点々とある晴れ空なので、狼煙を上げるのは最適なのだが、戦場のど真ん中で狼煙を上げることは出来ない。朝倉家が昨日開城させた大聖寺の城に伝令を送るのは良いのだが、1kmも満たない距離で狼煙を上げても、気づかない可能性がある。
「最初に、私が法螺貝を吹いて合図して、そして陣太鼓を持った兵の人々が、撤退の合図を送ってください……けど、それだとーー」
果たして、この方法は正解なのだろうか。こうして考えている間にも、朝倉家はじりじりと押され、こちら側に一向宗が押し寄せような状況だ。
「ここで迷っていたら、バッドエンド確定だ」
吉清に預けていた法螺貝を受け取って、景近に教えてもらった法螺貝を、力み過ぎず、肩の力を抜いて、朝倉家で決められた撤退の音色を、戦場に響かせた。
「突撃っ!!」
陣太鼓で撤退の指示を伝えながら、私たちの軍は戦場を駆け抜けて、朝倉軍と一向宗が激突している、最前線に立った。
最前線では、景鏡の軍が一向宗に押され気味であって、山崎家の軍も総崩れに近い状況になっていた。
「朝倉凛延景っ!!!
急に割って入った私の軍の様子を見た、返り血で体中が真っ赤に染まっていた山崎家当主、新左衛門尉は、宗滴とあまり年齢が変わらないはずなのに、私が吹いた法螺貝よりも大きな声で、私に問いかけた。
「貴様の勝手な判断かっ!? 宗滴様から何を学んだっ!? 武士の心があるなら、そう易々と撤退はしていけないものだっ!! 一向宗如きに背を向けて退散するとは、朝倉の名に、泥を塗るつもりかっ!?」
やはり私の独断の行動に、山崎家は反対した。
「つべこべ言わずに、さっさと動かんかいっ!!!」
朝倉義景のバッドエンドを回避するには、たとえ身分が上の人でも怖気つかない。前の景鏡に言い寄られ、過呼吸になってしまい、それが私の最大の弱点だった。だけどそれでは後の最大の障壁となる、織田信長に一泡吹かせることなんて、夢のまた夢。宗滴が衰弱してから、私は景近、吉清と共に修行し、富田五郎左衛門、そして宗滴にも再び稽古をつけてもらった。
「山崎家が一向宗如きで討ち取られるほうが、朝倉家にとって不名誉なことっ!! 一度体制を直すことでも、朝倉家の名を汚す事になるんでしょうかっ!!?」
どの時代にも頑固ジジイって人はいる。朝倉家に忠義を尽くすなら、この今にも打ち負かされそうな状況を見て、退却という方法は思いつかないのだろうか。
「殿に報告しても良いです。殿の判断で、私の判断が正しかったのか、分かると思います」
私のことを面倒な人だと思ったのか、それとも私を嫌う派閥に入ってしまったのかは分からないが、山崎家はようやく退却の準備を始めた。
「加賀国の一向宗共っ!! かかってこいやっ!!!」
「かっかっかっ!! 久々の大規模な戦になりそうじゃっ!!!」
毛屋猪助も士気が高く、宗滴の家臣たちも、一向宗に立ち向かうため、一斉に槍を構え、私の軍は、一向宗と衝突した。
一向宗の士気も高く、昨日は犠牲者が出ることがなかったが、この激戦では、私の軍にも死者が出始めた。
これ以上、私の軍に犠牲者を出してしまうと、まだ続くであろう一向宗との戦いが辛くなる。ひたすら槍や刀を振るうのは、たとえ日々鍛錬を続けている戦国武将でも大変なことだ。体力が消耗し、まだまだたくさん押し寄せてくる一向宗を相手するのは、私たちの軍だけでは難しくなってきた。
「一向宗。無意味に他国の領土を荒らすとどうなるのか。教えてあげようじゃないですか」
そう思っていた時、遠くから撤退の合図をする法螺貝の音色が聞こえた。どうやら準備ができたようだ。法螺貝の音色が聞こえた途端、私は一気に肩の荷が下りた気がして、敵を太刀で斬り捨てた後、思わずニヤッとしてしまった。
法螺貝の音色が聞こえたら、左右に避ける。殿をする前に、私の軍の皆に伝えていた。
「どんな手でも使ってでも勝て。こういうやり方でもいいんですよね」
急に朝倉軍が左右に散ったことによって、一向宗の目の前は開かれ、何百人の兵が火縄銃を構えている光景があった。そして一向宗は戸惑っていたが、それは一瞬だった。
パパパパパパパパパァンっ!!!!!!!!
一斉に、一向宗に向けて火縄銃が発射され、弾丸の雨が一向宗に降り注ぐ。
飛び散る肉片、内臓、そして大量に流れる一向宗の血。戦場となった手取川は、一向宗の血で真っ赤に染まるほど、援軍できた一向宗が、凄惨な光景を見て一目散に逃げ出していたが、もちろんその人たちを逃がすほど、私は甘くない。一気に朝倉家は進軍し、一向宗を殲滅させ、一向宗の本拠地になっている、尾山御坊を目指した。
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