女子高生が、戦国武将の朝倉義景をバッドエンドから救う話。
錦織一也
天文17年
第1話 女子高生、戦国の世へ
私の好きな場所は、女子高生が集うファストフード店、洋服店でも無い、全国、世界に誇れる観光名所だ。
その場所の名は、福井県にある『一乗谷朝倉氏遺跡』。
一乗谷は、かつて京の都の人口を上回るぐらいの人が集まり、歌人や俳人などの文化人を呼び込み、応仁の乱で荒廃する京の都以上に栄えたと言う
三方向に山に囲まれ、動乱の戦国時代で生き抜くために、守りと各地の交通の便も注視して、整備された城下町を作り上げたのは、応仁の乱で功績を挙げ、下剋上で国主となった、朝倉家だ。
国内を平定した後、朝倉家は一乗谷を発展させ、他国が戦で荒廃する中、逆行して発展していき、京のような、優美な都を作り上げていった。
しかし朝倉家は、戦国時代に突如現れ、一気に勢力を拡大していた織田信長と。後に対立する。そして武田信玄、石山本願寺などと手を組み、信長包囲網を築いた。
朝倉家は一度、信長の不意を突いて織田軍を敗走させた、金ヶ崎の戦いで勝利するが、それ以降は敗戦が続き、最終的には重臣、家臣、身内にも裏切られ、朝倉家最後の当主、朝倉義景は自害し、滅亡した。
100年近く続いた朝倉家。そして優美で京の公家や歌人も羨む、古の都、一乗谷は織田軍によって放たれた炎に包まれた。栄華を極めた都は三日三晩燃え、灰燼に帰した。そして、年月と共に人々の記憶から消え、一乗谷は土の中に埋もれていった。
そんな歴史のある一乗谷に、私は毎年訪れている。
毎年夏、お盆の時期になると、両親の故郷である、福井に帰省する。そして小さい頃から、両親と共に一乗谷に訪れている。私のお父さんは、出身が一乗谷。東京の大学に進学するまで、一乗谷に住んでいて、昔から一乗谷が好きで、毎年必ず帰省している。
なぜ一乗谷が好きなのか、以前にお父さんに聞くと、お父さんは山間にある一乗谷には、たくさんの魅力が詰まっているからだと答えた。
昭和に発掘調査され、そして整備された一乗谷には、見どころがたくさんある。
一つは、国に認められた名勝の庭園がある事。館跡庭園、
二つ目は、当時の建物を
三つ目は、一乗谷のシンボルと言える、立派な唐門がある。朝倉家が住んでいた館跡に立つ、春は桜、夏は青い葉が輝き、秋は紅葉で色づき、冬は雪化粧をする、季節ごとに違った顔を見せる唐門は、特に私のお気に入りの場所。毎年必ず写真に収め、今年も写真を撮った。
「……ちゃんと撮れてる……よね?」
今年は、自宅がある東京に、自分のカメラを忘れてしまったので、両親の実家に眠っていた、古いカメラで写真を撮った。古いフィルムなので、ちゃんと撮れているのかも心配だし、写真が現像出来るかも心配だ。帰ったら、お父さんに写真の現像の仕方を聞かないといけない。
「……やっぱり、毎年見ても飽きない」
この景色は、今日のこの時間だけしか見れない。しっかりと目に焼き付けてから、私は館跡の中に佇む、朝倉義景の墓所に向かった。
「……朝倉家は、滅ぶしか道がなかったのかな?」
今年も来たことを報告するため、館跡の道を歩いている時、ふと疑問に思った。
高校の日本史だと、朝倉家は信長と敵対した地方の武将として、さらっと紹介された程度で、特に印象の残らない歴史上の人物になっているし、ドラマなどの創作物では、朝倉義景は完全に信長の敵役として、描かれている。私はそれが不満だった。
信長に敗北しても、生き延びて、名前を変えてひっそりと暮らす事も出来たかもしれないし、信長が嫌だったら、信長と敵対する他の武将に頼る事も出来たかもしれない。どうして朝倉家は滅亡する道しかなかったのだろうか。
「……義景さん。……きっと無念だったのでしょう」
そう呟いて、お供え物の果物を置いてから、義景の墓所の前で手を合わせる。
「一乗谷は、素敵な場所です。もっと一乗谷の魅力を知ってほしい、朝倉家は織田信長や武田信玄みたいに、すごい武将なんだって、全国、いや、世界中の人に知ってもらうため、私もコツコツと魅力を発信していきたいと思います」
今はインターネット、SNSと言う、多くの人が知ってもらうための宣伝活動が出来る。写真をSNSにアップして、一乗谷の魅力を発信する事も出来るし、私なりの考えを、インターネットに掲載する事だってできる。
「主は、この地が好きと言うか」
そう義景に報告して、墓所を後にしようとした時、赤褐色の袈裟を着た、見覚えのある男性が立っていた。
この人は、肖像画で見た、朝倉義景だ。
朝倉義景は、400年ほど前の人物だから、すでにこの世にはいない人。間違いなく、義景の霊体なのだろうが、私は義景と話せることが嬉しくて、特に動揺する素振りを見せず、冷静に対応した。
「は、はい。私、小さい時から、この地に遊びに来ていて、一乗谷は、第2の故郷みたいな感じです」
「私は、この地が嫌いだ」
男性は忌々しそうな目で、朝倉義景の墓所を見つめていた。
「今、主が立っている場所は、家臣たちが蹴鞠を行っていた庭。京の飛鳥井家を招き、指南を受けていた。後ろは、弓術を鍛錬する、
義景は、悔しそうに唇を噛みしめながら、怒りで体を震わせていた。
「主よ。私の気持ちを汲むことが出来るなら、一仕事を頼まれてほしい。このような廃れた農村の風景にならぬよう、私がいた時代に赴くことを命ずる」
戦国時代に行けるなら、それはそれで喜ばしい事だが、義景の言う通りに動いてしまっては、歴史が大きく変わってしまい、私の好きな一乗谷の風景が無くなってしまうだろう。
「この場所から離れる事って出来ますか?」
「可能だ」
「それなら、私の一番好きな光景を見てください」
私は義景を連れて、さっき義景が言っていた、唐門の前に広がる、犬の馬場と呼ばれる芝生の広場から、一乗谷のシンボル、唐門の風景を見せた。
「この風景は、日本中を探しても、ここにしかありません。この風景を失くしてしまうのは、すごく惜しいです」
大きな桜の木の下に、ポツンと立つ立派な唐門。日本中、世界中を探しても、この私の好きな風景は、ここにしかない。
「悪趣味だな。私には、女子の感性が理解出来ぬ」
義景には分かってもらえなかった。
「朝倉家の最期は、姉川の戦いで大敗した後、織田軍の猛追に耐え切れず、そして家臣に見放されて、身内にも裏切られ、義景さんは自刃する、最悪な結末だと思っています。もし、それらを防げれるなら、義景さんの無念は晴らせるのではないでしょうか」
私の提案に、義景は黙って聞いていた。
「織田信長に最後まで抵抗し、大六天魔王と言われた信長を窮地に追い詰め、歴史的大敗させた武将だと、義景さんは密かに言われているんです。それなら、最後の最後まで抵抗して、もっと織田家を苦しめた戦国武将として、新たに後世に名前を残したいと思いませんか?」
そう問いかけると、義景はかすかに笑った。
「女子の話に乗ろうではないか。あの織田に一泡吹かせられるなら、私も四百年以上抱き続けた、この思いを晴らせるかもしれぬ」
そして義景の姿は、すっと消えた後、私の脳内に、義景の声が聞こえてきた。
『私は、口を出さぬ。思い通りに動くと良い』
こんな漫画みたいな事は、現実にあるんだ。けど私は、義景の霊体が体内に入っていようが、動揺することなかった。
「私が、朝倉義景をバッドエンドから救います」
そう言うと、私に急に睡魔が遅い、抗えずその場で横になってしまい、意識が飛んだ。
意識が戻ったのか、鳥の
「……ここが……戦国時代の一乗谷」
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