第15話 意気揚々

 アルノルト達若手が、意気揚々と、縛り上げた男を引きずって入ってきた。


 数日前に生け捕りされた男は、南から押しかけて来た竜に見張らせていた。竜の世話が、若手に押し付けられていたことが幸いし、人を一人隠すことは容易だった。事態は急転した。南方からの密偵が現れたのだ。しらを切るには限界だった。


 南方竜騎士団団長の部屋から発見された、隣国とのつながりを示す書類の燃え残りを見せられては、もはや彼にはどうしようもなかった。自害しようと己の愛剣に手をかけたが、ルートヴィッヒが素早く取り押さえた。

「この時期に暖炉を使うなど、軽率なあなたに、企みごとは無理です」

ルートヴィッヒは自分を弾劾しようとした者に対しても、丁寧な言葉遣いのままだった。それだけに逆に凄みがあった。


 南方竜騎士団団長が解任、反逆罪で処刑されることが決まった。彼と通じていた幹部たちも軒並み処刑とされることになった。王都竜騎士団団長は国王の剣と盾であり、国王への反逆と同罪だ。特に南の隣国と通じていたなど、国家の転覆を計画していたと判断され、極刑が適応されるに十分だった。


 南方竜騎士団の不正を暴いた功労者として若手のアルノルトは、副団長に任命された。先代の南方竜騎士団団長が、団長に再任され、アルノルトを指導する予定だ。数年以内にアルノルトが団長になる。ルートヴィッヒも王都に戻った後、王都竜騎士団副団長に任命されることが決まった。


「アルノルトが副団長になったということは、王都に来る機会も増えますか」

ルートヴィッヒの何気ない一言だった。

「なんだ、お前、俺に会いたいのか」

口調はからかっていたが、アルノルトは嬉しそうだった。

「そう、かもしれません」

相変わらず自分の感情にも人の感情にも、ルートヴィッヒは鈍感で、表現する方法もわかっていなかった。


「ルートヴィッヒ、そういうときは、素直に同意したらいいだろう。そもそも今回、南方に同行させてくれって、ゲオルグ団長に自分で頼んだのを忘れたのか」

隣でハインリッヒが呆れていた。

「私が王都を離れると、要らぬ憶測を招きかねませんので、あまり離れられません。お会いできればと思いますが、いらしていただくのも申し訳ありません」

遠まわしだが、会いたいと、ルートヴィッヒなりに言っているということくらい、二人にはわかる。

「つまり、会いたいけど、俺に来てもらうのは申し訳ないってことか」

「はい」

「なんか、お前らしすぎて、変わってなくて安心するというか、心配になるというか、呆れるというか」

「全くです」

意気投合しているアルノルトとハインリッヒを、ルートヴィッヒは不思議そうに見ていた。

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