第6話 砦での出来事1
ゲオルグの怪我は軽いものではなかった。
「誰か怪我人の看病をしたことがあるものは」
薬師の言葉に名乗りをあげたのは、ルートヴィッヒだけだった。
「毒を盛られた者の看病の経験はあります」
その言葉に全員がルートヴィッヒを見た。毒を盛られた物が誰かは、誰も尋ねようとはしなかった。
「怪我人は」
「負傷して看病された経験はありますが、看病した経験はありません」
ルートヴィッヒの返事に薬師は一瞬絶句した。
「まぁ、いい。君が来なさい」
ゲオルグを看病し、竜の世話をし、自らの寝食を忘れていたルートヴィッヒは、早朝の竜舎で倒れた。その場に居合わせた者は慌てた。仲間に知らされ、駆け付けたアルノルトは、倒れたルートヴィッヒを引き起こし、怒鳴りつけた。
「お前は自分の面倒もみれんのか」
「申し訳ありません」
顔色の悪いルートヴィッヒを、アルノルトは容赦なく叱った。
「申し訳ない、とか、そういう問題とは違う。勝手について来た竜の面倒をなんで、お前が全部見るんだ」
ルートヴィッヒを叱りながら、アルノルトも気づいていなかった自分に反省していた。
「私についてきてしまった竜です。私以外の人を威嚇しますし」
「あいつらが勝手について来ただけだろう。竜の面倒を見るのがお前である必要はない。竜が威嚇するというが、お前ばかりに甘えさせるのはだめだろう。ここの竜丁達がやらないって、なんで俺たちに相談しないんだ。南の竜丁の職務怠慢を、お前がかぶる必要はないだろう」
「彼らも、手伝わないようにと、命じられたのです」
「どうせ、そういうことを言うお偉方は、ここにはこない。それを知りながら、竜の世話しないってのは、職務怠慢だ」
「しかし、彼らの立場では」
「なんでお前が庇うんだ」
「手伝ってくれようとした者もいたのです。ただ、竜が他の者を威嚇して、近づけようとしないので」
「おしかけてきたのに、我儘な竜だ」
「でも、彼には彼らの理由があるでしょう。私たち人が、彼らの理由をわからないだけで」
アルノルトは溜息を吐いた。ルートヴィッヒを相手にしていると、時に不毛な会話になる。
「いや、いい。もういい。お前の性格を忘れていた。俺も悪かった。南の竜丁の怠慢だ。俺が気づくべきだった。そもそもお前、いつから食ってない、寝ていない。おい、なんでそこで真顔で考える。立てるか、立てるな、あぁ、こら、倒れるなって」
アルノルトは、立ち上がろうとして蒼白になったルートヴィッヒを背負った。
「アルノルト、歩けます。降ろしてください」
「お前なら、自力で降りられるだろ。出来ないってことは、そういうことだ。おとなしく背負われとけ」
アルノルトはルートヴィッヒを背負ったまま竜舎から出て行った。
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