第16話 リヒャルトとルートヴィッヒの二度目の手合わせ1

 翌朝、リヒャルトは王都竜騎士団の兵舎を訪れた。

「おはようございます」

「おはようございます」


 ルートヴィッヒは既に鍛錬場にいた。他の竜騎士達と一緒に、軽く体を動かしていたらしい。


 昨日、決勝戦までの試合をこなし、祝勝会に参加し、そのあとの警備まで担っていたためか、少し疲れているようにも見えた。リヒャルトは、昨日、手合わせを申し込んだとき、周囲の竜騎士達が好意的でなかったことを思い出した。昨日のうちにゲオルグに許可をもらっていたが、悪いことをしてしまったかもしれない。


 そのゲオルグは見習い二人を相手に、基本の型を教えていた。リヒャルトの挨拶にも普通に応じてくれた。ゲオルグが許可するのであれば、ルートヴィッヒとの手合わせも問題ないだろう。


「あの、お忙しいのに、お時間をいただき申し訳ありません」

「いえ、お詫びいただくようなことではありません。お気になさらず。竜騎士同士、互いに切磋琢磨するのは必要なことです」

周囲の竜騎士達のあまり好意的でない視線を浴びながら、リヒャルトは稽古用の剣を手に取った。


 鍛錬場の中心で、互いに剣を構えて向き合う。ルートヴィッヒの鋭い視線に、怯みそうになる己を奮い立たせた。リヒャルトが打ち込もうとした瞬間だった。


「待て」

ゲオルグの声に止められた。

「少し確認したいことがある。ルートヴィッヒ、お前その顔色は何だ。昨日はどうした」


 ルートヴィッヒが構えをとき、ゲオルグを前に姿勢を正した。リヒャルトも、それに倣った。

「祝勝会に参加したあと、会場の警備にあたっておりました」

「兵舎に戻ったのはいつだ」


 ルートヴィッヒは答えなかった。

「お前、仮眠はとったのか」

気まずそうにルートヴィッヒが、目を逸らせた。


「お前、また、仮眠無しで、警備の統括したな。途中で代われと言っただろう。ハインリッヒ!」

「私は交代しました。あの後、仮眠をとると言っていたのを私は聞いたが」


 そのハインリッヒも、ルートヴィッヒに詰め寄ろうとしていた。


「ルートヴィッヒ、ハインリッヒと交代後、どこで何をしていた」

あらぬ方向を向いたまま、ルートヴィッヒは答えた。


「気になる箇所がありましたので、見回っておりました」

「お前一人でか」

ゲオルグの声が低くなった。

「いえ、おそらく、私と見回っていた時です。気になるからと」

ヨハンが手を挙げた。


「ただ、ルートヴィッヒが仮眠をとるはずの時間帯とは、聞いておりませんが。というより、お前、仮眠はこの後とるって言ってたよな」

「いや、とろうと思ったのだが、明け方で寝過したらと思うと」

「起きていたのか」

「副団長、またですか」

「寝ていないな」

「やっぱり明け方から鍛錬場にいたのか」

あちこちから聞こえてきた声に、リヒャルトはあっけにとられていた。

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