第7話 新月の夜

 ルートヴィッヒは竜丁達に交じり、トールの世話をすることを申し出た。ルートヴィッヒは、トールが尾を振り回しても、動じることなく、檻に入り、世話をした。トールの頭や尾で何度か吹っ飛ばされたが、ルートヴィッヒは気に留めなかった。

「刺客と違って、トールには、私に対しての殺意はありません。ちょっと邪魔だというだけでしょう」


 その答えに、竜丁達は呆れた。報告をうけたゲオルグは言った。

「命を狙われることに慣れすぎているな」


 夜、ルートヴィッヒはトールの檻で寝た。

「ここのほうが、落ち着いて休めます」

最初、ルートヴィッヒはそう言うだけだった。眠るルートヴィッヒが真剣を抱いていることに気づいたアルノルトが問い詰めると、ようやく真実を言った。


「ここにいたら、刺客が来た時に、トールが教えてくれます」

その報告を聞いたゲオルグは、ルートヴィッヒをさらに問い詰め、アルノルトに言わなかった本音を聞き出した。


「お前は、一人で、刺客の相手をするつもりか」

「数年前から、そうしてまいりました」

迷わず答えたルートヴィッヒに、ゲオルグは戸惑った。仮にも相手は第二王位継承者、王子だ。


「護衛は」

「ここ数年、おりません」

後ろ盾となっている貴族の勢力に差がありすぎる。ルートヴィッヒが刺客に襲われる回数は、ベルンハルトとは、桁違いなのだ。ルートヴィッヒの護衛につくことを願うものなどいなかった。毒殺されかかったことも、一度や二度ではない。


「言ったはずだ。実戦訓練だ。我々竜騎士を見くびるな」

「彼らは、正攻法では戦いません。宿舎で休んでいては、真上から降りてきたときに、気づけない可能性があります」

ゲオルグ自身、ルートヴィッヒの侵入に気づかなかった。だから、ルートヴィッヒを竜騎士見習いとして受け入れざるを得なくなった。


 ゲオルグは竜騎士達に、順に竜舎で竜と休むように命じた。


 その日、ルートヴィッヒは、竜騎士達に告げた。

「今晩は新月です。暗闇に乗じてくる可能性があります。夜は、刺客は刃を煤で光らないようにしています。同じようにしないとこちらが不利です」

ルートヴィッヒの言葉のとおり、新月の夜、暗闇の中、刺客達が襲って来た。


「明かりはつけるな、目が眩む、やつらは影に身を隠す。闇に紛れてください。夜目になれたら、星明りで見えます。音も聞いてください」

夜襲になれたルートヴィッヒの言葉に、竜騎士達は従い、星明りを頼りに、刺客達を倒した。


 刺客達を倒した後、明かりをともし、竜騎士達は周囲の確認を始めた。刺客の人数と、自分たちが倒した人数を考えると、明らかにルートヴィッヒが有能だったことはわかった。


「差し出がましいことを申し上げてすみませんでした」

返り血を浴びたまま、ルートヴィッヒは頭を下げた。

「いや、見習い、夜襲になれているお前が必要なことを言っただけだろう。謝られてもこちらがこまる」

「では、差し出がましいことをもう一つ、申し上げてよろしいですか」

「なんだ」

「彼ら刺客の刃には、多くの場合、毒が塗ってあります。かすり傷であっても手当てされることをお勧めします。彼らが、毒か、解毒剤を持っています。死体の持ち物を調べて下さい。毒の塗ってある刃と、彼らが持っている毒か解毒剤を見せたら、薬師がわかるでしょう」

「薬師がわからなかったらどうする」

「一か八かで、解毒剤と思った方を使うだけです」


 部下の報告をうけたゲオルグは、何とも言えない表情をした。

「あの見習い、どれだけ実戦慣れしてやがる」


 ルートヴィッヒが、刺客達の持ち物を見て、「これは便利ですよ」と、刺客のもつ道具の使い方を説明したという報告に、さらに幹部たちはあきれた。


<第一章 完>

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