第6話 ルートヴィッヒと暴れ竜
檻の外にいる竜騎士達には、ルートヴィッヒの声は聞こえなかった。一人と一頭の親密な関係はわかった。
「その暴れ竜にそこまで近づけるのは、君だけだ」
「そうですか」
檻の中にいるルートヴィッヒは、トールの頭を撫でた。
「でも、多分、この竜は小さい人間が逃げてきたから、庇ってやるかという程度にしか、私のことは考えていないでしょう。食べ物をわけてもらったこともありました。人の子が犬猫の子をかまうようなものだと思います」
同意するかのように、トールがルートヴィッヒを小突いた。
「乗ってみるか。その竜が乗せるならばな」
ゲオルグの言葉に、鞍と手綱が用意された。
人に捕らえられて、初めてトールは鞍と手綱をつけさせた。ルートヴィッヒは自分でつけた鞍に跨り、手綱をとった。ルートヴィッヒを乗せ、トールは飛んだ。悠々と空を旋回し、降りてきた。
「トール、ありがとう」
ルートヴィッヒは、鞍と手綱を外すと、トールの頭を抱いた。
「お別れだけど、最期に飛べてよかったよ」
トールの耳にささやくと、ルートヴィッヒは、晴れ晴れとした顔で、ゲオルグに頭を下げた。
「ありがとうございました」
「今まで、あの暴れ竜は、檻に人を入れたことはない。ましてや、手綱や鞍をつけさせたこともなく、人を乗せたこともない」
「はい」
「お前は名前を付けたのか」
「申し訳ありません。勝手につけました。竜には竜の名前があるでしょうが、人間の私にはわかりませんでした。周囲の都合で、適当な二つ名で呼ばれるのは、嫌だろうと思ったのです。勝手なことをしました」
アルノルトは、貴族出身の同僚達が、彼を厄介者、身の程知らずと罵っていたことを思い出した。彼が来るというだけで、舌打ちをして、顔を顰める者もいた。初めて会ったルートヴィッヒは、最初は愛想のない見習いだった。知ってみると従順で物静かなだけだった。陰口から想像していた図々しさもなく、貴族に多い傲慢さもなく、大人しく素直で真面目な見習いだった。
「その竜が、呼ばせているなら別に問題ないのだろう。君がトールと呼ぶ竜は、騎竜として優秀であろうことが期待されている。問題は、人に慣れないことだ。君に、竜騎士見習いとしての訓練の継続を許可する。ただし、君のいうトールが君を竜騎士として乗せることが条件だ」
信じられないというように、ルートヴィッヒが目を見開いた。
「しかし、刺客がまた」
「実戦練習だ。構わん。我々は国王の剣と盾。刺客くらい防げないようでは、そう名乗ることはできない。全員に真剣の携帯を許可する。不審者は切り捨てるよう命じよう」
「ありがとうございます」
ルートヴィッヒが頭を下げた。
「先ほどは同情して乗せてくれただけだと思うので、トールに認めてもらえるように、努力します」
トールが尾で床を打った。
「しばらくかかりそうですね」
ルートヴィッヒの言葉に、竜騎士達が笑った。
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