第4話 幹部たち
刺客の襲撃の後の数日、教育係は全員、自室での謹慎を命じられた。刺客の襲撃をすぐに報告せず、手合わせに興じたことに、アルノルト含めた教育係の竜騎士は、幹部からさんざんに説教された。
数日後、謹慎を解かれた教育係達は、ルートヴィッヒとともに、王都竜騎士団団長ゲオルグと、副団長達、指導役の竜騎士達に囲まれていた。
「ご迷惑をおかけしました」
ルートヴィッヒが深く頭を下げた。相変わらず表情がない。
「竜騎士見習いとして、訓練に参加させていただき、ありがとうございました。私がいることで、刺客の侵入を招いてしまい、申し訳ありませんでした」
竜騎士になることを諦めるのか。アルノルトは、過去形で語るルートヴィッヒの言葉を残念に思い、そんな自分に戸惑った。
「お前は、なぜ竜騎士になろうと思った」
王都竜騎士団団長ゲオルグは、静かに問いかけた。
「一番は、トール、いえ、この国一の暴れ竜に乗って、飛んでみたかったのです。他は、竜騎士になれば、刺客に襲われることも減るかもしれない、臣下に下ることが出来るかもしれないと思いました」
この国一番の、だれも乗せない暴れ竜に乗って飛んでみたいといったとき、ルートヴィッヒの頬が微かに緩んだ。その笑顔は一瞬で消え、諦めきった無表情に戻っていた。
「あの暴れ竜にか」
「はい」
「なぜ、あの暴れ竜に」
「刺客に追われて、逃げ込んだ時、庇ってもらいました」
「あの暴れ竜の檻に入ったのか」
「はい」
ルートヴィッヒの言葉に、幹部たちは顔を見合わせた。
「そんなはずはない。そもそもこの一帯は高い塀に囲まれている。竜舎に入れるはずがない」
「いえ、塀を乗り越えればいいだけです」
人の背丈の数倍もある塀を乗り越えるといったルートヴィッヒの言葉に、団長も含め、竜騎士たちは、再度顔を見合わせた。
「やってみせろ」
壁にある突起やくぼみと、蔦を伝って、ルートヴィッヒはやすやすと壁を乗り越え、降りてきた。
「落ちたら死ぬと思わなかったのか」
「最初に登ったとき、追われていましたので、それを考える間もありませんでした。夜で暗く高さもわかりませんでした。一度登ってしまえばあとは同じです」
ルートヴィッヒは竜舎の方を見た。
「暴れ竜に会いたいのですが、いいですか」
ゲオルグ団長が頷いたことを確認し、竜舎に向かってルートヴィッヒは歩いた。
「昼間、こちら側から行くのは初めてです」
ルートヴィッヒは物珍しそうに、彼方此方を見ていた。
「夜、来ていたのか」
「はい。明るさにもよりますが」
「なぜ、壁を登れることを、我々に言った」
「もうすぐ新月です」
ルートヴィッヒはそれ以上、答えなかった。
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