第8話

 いつまで続くのだろうか、この雨は。

 イコは雨が好きらしい。

 なぜだろうか。


「マグさんからのお便りです」


「え、また?」


 そう、『また』である。

 竜籠でついでに持ってきたらしい。


「噂話とか聞けるから俺としては都合いいんだが」


「竜使いの人からでしょ。手紙が完全についでって感じだね」


 否定はできない。

 自慢話しか書かれていない手紙に意味は無いからだ。

 

 「内容もあまり変化なし。個人とギルドのランクが順調に上がっていることとか女性の嫉妬に板挟みとかの話しかない」


「ホントに順調なんだね。竜籠を呼べるって凄いよ」


 そういえば凄いのかもしれない。

 俺には関係ないのだが。


「俺になんらかの利益があるんなら諸手を挙げて応援するけどな」


「期待の探索者の直筆の手紙として売るとか」


 売れるのだろうか。

 ちなみに探索者とは冒険者の中でも迷宮の探索に重きを置いている人のことだ。


「また無料の紙が届いたわけだ」


「毎度のことだけど嬉しいね。いい紙だし」


 輝くような白さとはこのことだろう。

 凄くいい紙ではあるのだがラクガキがあるのが欠点だ。

 

「ラクガキはやめてほしいだろ、常識的に考えて」

 

「贅沢なラクガキだよね」


 洗濯するときに使う薬草を溶いた水で洗うと紙が綺麗になることに気付いた。

 紙がふやけてしまうので改良の余地があるけれど。


「隣の家が移住したのを見て危機感を募らせたのか、ここの村人も総出で引っ越してしまった」


「仕方ないよ。止まない雨と竜籠なんて見たら世界の終わりっぽいもん」


 確かにどことなく世紀末っぽさを感じる。

 恐怖に駆られて逃げるのも頷けるというものだ。


「みんなどこへ行くんだろうな」


「どこにも行けないと思うよ。外周から抜けられるはずないもの」


 やはり魔物は脅威なのだろう。

 ここら辺の魔物はあまり強くないのだが数が多いとかそんな感じだろうか。


「村としては終わりだな。廃村決定に違いない」


「余裕で大丈夫だよ。村長の君がいて、村人のボクがいる。どこからどう見ても村でしょ?」


 どう見てもごっこ遊びです。

 家や畑が無かったら可哀相な人たちに分別されてしまう。


「まあ、いいか。祖父が拓いて、父と母が整え、俺が潰すとか避けたいからな」


「うん、いいと思うよ。というか中央に行くって発想はないのかな?」


 イコが村を続けられるって言ったから乗ったのだが。中央に行く気は無い。


「今のところは全くないな。それとも村は嫌か?」


「ボクは大歓迎だよ。煩わしいモノが無いって素晴らしい」


 イコは人間に合わせるのが苦手なのだ。

 このほうが楽なのかもしれない。


「機会があったらそのうち中央へ行くのもいいかもな」


「そうだね。いつになるかはわからないけど、それも楽しいかもね」


 俺は村長である。

 セカンドジョブ・村長とか着実に昇進している。

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