レンタルイノチ

みのるしろいし

レンタルイノチ

アナウンス:二番線、電車が通過します。危険ですので黄色い線の内側までお下がりください。

岸田:良いことなんて無かった。産んでくれたのにごめんなさい。産まれてごめんなさい。

広瀬:あのー、あ!待て!!!


―――数時間後―――

広瀬:で、どうして?

岸田:何がですか?

広瀬:何が?じゃねえよ。あんなところで何しようとしてたんだよ。

岸田:いや・・・ちょっと、落とし物を

広瀬:電車通過してるのに取りに行くバカがどこに居るんだよ。命の落とし物になるところだぞ

岸田:・・・はい

広瀬:あれ?図星か?まあ、若干そういうことかとは思ったけどよ

岸田:ええ、そのつもりでした

広瀬:理由は?

岸田:え?

広瀬:話してみ

岸田:言いたくないです

広瀬:全くの他人でも?

岸田:え?

広瀬:俺は、お前のこと何も知らねえのよ。だから、お前が苦しめられてるのが何かも、それとの繋がりも無いのよ。

広瀬:だから、変に近い人間よりも話しやすいかなって

岸田:確かに・・・

広瀬:で?

岸田:はい、実は高校生なんですが・・・学校でいじめられていて。毎日が本当に嫌になったんです。

広瀬:ふーん。学校には相談したの?

岸田:しました!けど、先生は相手の肩を持って大事にしたくないみたいで何も動いてくれなくて・・・

広瀬:そんなの実際あるんだな

岸田:それで、不登校になって・・・

広瀬:両親は?

岸田:小さい頃に死別してます。祖父母も居ません。遺してくれた家とバイトで生活してます。

広瀬:そっか・・・

岸田:誰も救ってくれなくて、もう・・・両親の元に行くしかないって思ってしまって。

広瀬:なるほど・・・大変だったんだな。ならさ、お前の命一週間ぐらい借りていい?

岸田:へっ!?

広瀬:良いじゃん。捨てようとしたんだろ?一週間だけだから!

広瀬:一週間経ったら俺の前から消えてくれても良いし、どうしても良いからさ。

岸田:あの・・・何言ってるか分かってます?

広瀬:自分で死のうとしてたやつに言われたかねぇよ。

岸田:まあ・・・面白そうだから良いですよ。

広瀬:ヨシっ。交渉成立!

岸田:家に荷物とかあんの?

岸田:残してきてますけど・・・

広瀬:じゃあ、取りにいこっか。

岸田:はっ?

広瀬:俺はお前の命を借りてるんだ。離れてる時に勝手に死なれたら困るだろ?

広瀬:だからとりあえず一緒に住もうぜ。

岸田:いや・・・

広瀬:断る権利は・・・無いよな?

岸田:はい・・・


岸田:(M)こうして、ちょっと強引な男との同居が始まった。


―――車内―――

岸田:(M)あの時、僕の身体は確かに浮いた。

岸田:(M)でも、引き止められたんだ。

岸田:(M)なんてついてない・・・親の元にも行けず、変な男と出会ってしまった。

岸田:(M)家に連れ込んで、しまいには1週間命を貸してくれなんて・・

岸田:(M)でも、僕の境遇をこんなにも親身に聞いてくれたのって今まで誰も居なかったもんな。

岸田:(M)だとしても、何で僕なんかを・・・


広瀬:おい

岸田:はいっ!?

広瀬:なにボーッとしてんの?

岸田:いやぁ、不思議だなって。

広瀬:何が?

岸田:俺、本来だったら今ここにいなかったわけじゃないですか?

広瀬:まあ、そうだな。

岸田:見えてない景色を見ていて、凄い不思議です。

広瀬:ふーん。俺にはわかんねえな(笑)

岸田:そりゃそうでしょうね・・・

広瀬:そういやあさあ、俺達、互いの名前も知らねえ状態だな。

岸田:そうでしたね。僕は岸田です。岸田ユウ。

広瀬:俺は広瀬 マサル。

岸田:よろしくお願いします、広瀬さん。

広瀬:呼び捨てで良いよ。マサルで。

岸田:そうですか・・・では、マサルさん。

広瀬:さん付けもいらねえよ。他人行儀じゃん。

岸田:でも・・・

広瀬:まあ、早めにさん抜きで呼べるようになってくれな、ユウ。

岸田:へ!?

広瀬:名前、呼ばれ慣れてなかった?

岸田:はい・・・

広瀬:顔赤けえ(あけえ)じゃん。可愛い。


―――岸田宅―――

広瀬:さてと。荷物こんだけ?

岸田:はい。これだけですね

広瀬:少ねえな・・・服とか全然ねえじゃん。

岸田:全部捨てちゃいました。

広瀬:どうりで・・・俺のじゃおっきいだろうし、買いに行かんとな。

岸田:そんな!

広瀬:流石に1週間同じ服はキツいだろ?明日にでも買いに行こうぜ。

岸田:何もそこまで・・・

広瀬:ユウは、俺と契約してんだろ?どうしようと俺の自由だろ?

岸田:は・・・はい。

広瀬:んで、この家どうすんの?

岸田:どうするとは?

広瀬:えっ!?売却とか何もしてねえの!?

岸田:はい・・・両親の遺した家なので管理者は僕ですし。

広瀬:そうか・・・でも、そういう時ってこの家どうなるんだろうな。

岸田:どうなるんでしょうね・・・

広瀬:そういえばユウ、学校は?

岸田:休学扱いになってます。

広瀬:そこはしっかりしてんのな。

岸田:広瀬さんこそ、お仕事は?

広瀬:俺?俺は有給消費中なんだ。

岸田:なるほど。

広瀬:んじゃ、戻るか。


―――車内―――

--タバコを吸う広瀬、吸い殻入れに手を伸ばし吸い殻を捨てる--

岸田:ひいっ!?

広瀬:ん?あぁ。すまん。タバコの臭いは苦手か?

岸田:すいません、取り乱してしまって。臭いというかタバコ自体が・・・

広瀬:あー、あの痕はそういうことか。

岸田:見てたんですか?

広瀬:さっき荷物整理してた時に捲ってたろ?

岸田:えぇ・・・昔に

広瀬:言わんでいい。思い出したくもないことだろ?わかった。やめるわ。

岸田:でも!僕なんかのために

広瀬:あくまでユウはキッカケなだけだよ。タバコって正直良いことねえし。

広瀬:健康にも悪い、金もたまらねぇ。ずっとやめようとは思ってたんだよ。一旦やめてみるわ。

岸田:なんか・・・すいません。

広瀬:謝る必要ねえよ(笑)


―――広瀬宅―――

広瀬:ふぅ・・・何やかんや服も買えたし。疲れた?

岸田:はい・・・

広瀬:んじゃ。晩メシどうする?

岸田:冷蔵庫見ても良いですか?

広瀬:おっ!作れんの?俺料理あんまりしないから冷食ばっかよ?

広瀬:何なら買いに行っても良い。

岸田:本当ですね・・・

広瀬:料理出来るのはありがてえなぁ・・・1週間は心配無さそうだ。

岸田:任せてください!

広瀬:ノリノリじゃん。数時間前とは思えねえや。

岸田:もう・・・からかわないでくださいよ。

広瀬:悪りぃ悪りぃ。


―――数時間後―――

広瀬:美味えじゃん!ずっと自炊してた?

岸田:そうですね、人に食べてもらったのなんていつぶりだろう・・・

広瀬:プロになれんじゃね?ってくらい美味ぇ。

岸田:そんな大袈裟な・・・(笑)

広瀬:作ってくれてありがとな。

岸田:いえ、むしろこれくらいさせて下さい。

広瀬:じゃあ、毎日・・・いや、1週間頼むな。

岸田:はいっ!


広瀬:(M)何故だろう・・・何で俺は、あんなことを言ってしまったんだろう。

広瀬:(M)そして今、ユウを家に連れ込んで、飯を食べてるんだろう。

広瀬:(M)でも、救わなきゃって思ったんだ。駅でユウを見かけた時、

広瀬:(M)何故か初めて会ったヤツに思えなかったんだ。

広瀬:(M)救わなきゃって思ったんだ。まだアイツには言えないけどでも、

広瀬:(M)今のところ俺はユウに救われてしかいない。

広瀬:(M)心の隙間を埋めてくれてるんだ。でも、1週間しか時間が無い。

広瀬:(M)1週間したらこの幸せは、終わってしまうかも知れないのだから・・・


岸田:マサルさん?

広瀬:ん?あぁ。何でもない。

広瀬:ユウ、出かけるぞ!

岸田:待って、タグ付いたままだから切ったりしないと

広瀬:遅いぞー?早くしないと置いてくぞ。

岸田:そんなぁ・・・

広瀬:嘘嘘、置いてったらどっか行っちゃいそうだしな。

岸田:お待たせ。

広瀬:おお、似合ってんじゃん。そしたら行こっか。

岸田:はい


岸田:(M)マサルさんに命を預けてから5日が経った。

岸田:(M)部屋の整理を手伝ったり、料理を作ったりが主な仕事。

岸田:(M)マサルさんは割と外に出ていることが多い。

岸田:(M)仕事は有給だって聞いてたけど、なんの仕事してるんだろう・・・


広瀬:まーたボーッとしてるな。

岸田:ああ、ごめんなさい。絵に見惚れてて。

広瀬:興味無いかと思ってた。

岸田:凄い絵は見ちゃいますね。美術というより歴史的な目で

広瀬:おれはどっちも好きだから、その気持ちもわかるぞ。

岸田:へぇー。

広瀬:そう!これだ!ユウに見せたかった絵!

岸田:この絵・・・ですか。

広瀬:この絵画、ギュスターブ・ドレが書いた絵でな。

岸田:あまり聞いたことが無いですね。

広瀬:これな、ダンテが書いた「神曲しんきょく」という本に出てくる情景の1ページなんだよ。

岸田:へぇー、地獄と煉獄れんごく・天国をめぐる作品ですよね。

広瀬:あら?知ってたか?

岸田:まあ、詳しい内容までは知らないですが

広瀬:この絵のタイトルがな「自殺者たちは森を逃れる」

岸田:あぁ・・・

広瀬:不思議なんだよな。この世にツラいこととか、どうしようもなくなって何もかもから逃げたくなったのに、

広瀬:楽になるための行為なのに、神様はその人たちを救ってくれないんだぜ?

広瀬:逃げられない様に木にして、その木から生えた葉を女性の顔した鳥がついばんで苦痛を与えるんだってさ。

岸田:俺、結局救われないんですね

広瀬:ユウ、死んでねえじゃん。

岸田:仮にの話ですよ

広瀬:まあ、あくまで説の一つだからな。そうとは限らんけど

広瀬:ユウさ、今どう思ってる?

岸田:何がですか?

広瀬:あと二日なわけだ。

岸田:正直、まだ自分でもどうすればいいかわかってないです。

広瀬:そっか・・・最後に決めるのは自分だからな。ゆっくり決めればいいよ。

岸田:・・・はい・・・

広瀬:んじゃ、買い物して帰ろうか。


―――スーパーマーケットにて―――

店内放送:ご来店のお客様に、お呼び出しを申し上げます。神奈川県横須賀市からお越しの-

広瀬:今日の晩飯も楽しみだわ。

岸田:頑張りますよ。

広瀬:あ、スマン。トイレ行ってくるわ。

岸田:はい。いってらっしゃい。


岸田:(M)あの絵を見せた理由はわかる。僕のことをそこまでしてでも止めたいんだろう。でも、理由がわからない、なんで僕なんだろう。


高橋:おい、あれ岸田じゃね?

岸田:はっ!?

中井:学校から逃げ出した卑怯な岸田君じゃないかぁ〜、どこ行ってたんだよ。

中井:俺らから楽しみ奪って何やってたんだー?さっさと来い

岸田:やめてください!!

高橋:ハハハッwやめてくださいだってw岸田のクセに?

中井:お前にやめてって言う権利ないのわかってるよねぇ?w

広瀬:何やってる!お前ら!!

高橋:あぁん?

中井:うっせえなよそもんはひっこめ・・・いっ!?

広瀬:嫌がってるだろ、離せよ。

高橋:お前、何もんだ?

広瀬:ユウのツレだ。

高橋:あぁ?ユウさぁwお前ホモにでもなったのか?w

中井:お前・・・それ以上は。

広瀬:お前らが何もんかは知らん。

広瀬:だが、ユウをいじめるのは許さない!ユウをいじめていいのは俺だけなんだよ!!

中井:高橋!この人はダメだ。

高橋:なんだよ中井、ビビってんのか?

中井:違う、コイツ・・・昔、この辺の不良グループ取りまとめてた奴だよ!

高橋:えっ?・・・あっ!!

広瀬:そんな昔の話を・・・まあ気づいたなら、わかるよな?

高橋:(舌打ち)・・・逃げるぞ!

広瀬:お前ら、覚悟しとけよ。

―――いじめっ子、離脱―――

広瀬:ごめんね、帰ろっか。

岸田:は・・・はい。


―――広瀬宅―――

広瀬:ユウ、強いな。

岸田:どこが?僕何もできなかった

広瀬:何もしなくていいんだよ、昔の俺だったら直ぐにぶっ飛ばしてたな。

広瀬:それこそ警察沙汰だ。

岸田:ごめんなさい・・・広瀬さん

広瀬:名前で呼んでくれよ・・・ちょっと、フラバしたか?

岸田:うん・・・

広瀬:しゃーないわな。

岸田:僕、アイツらにずっといじめられてたんです。

岸田:弱いから何もできなくて。

広瀬:違う、ちゃんと通ってたんだろ?

広瀬:それって強いよ。偉いよ。

岸田:・・・うぐっ・・・

広瀬:で、限界になってちゃんと休学手続きもして行動出来たんだろ?

岸田:何でそこまで・・・

広瀬:理由は後だ、まあ・・・ユウが間違えたのは生きることから逃げようとしたところだけだな。

岸田:・・・ごめんなさい・・・グスッ・・・

広瀬:でも、ある意味その選択をしようとしてなかったら、

広瀬:こうして俺たちが会うことも無かったわけだ。

―――岸田、呼吸を整える。―――

岸田:・・・マサルさん。

広瀬:どうした?

岸田:マサルさん、何者なの?

広瀬:あぁ、アイツらの話が気になる?

岸田:うん・・・

広瀬:俺さ、学生時代ちょっとグレてた時期があってな。

広瀬:両親がかけてくる期待が重荷になっちゃって、不良グループと連んでた時期があったんだ。

岸田:そんなことが・・・

広瀬:ただ、誤解してほしくないことがある。

広瀬:俺は両親への反抗心があっただけで、バイクで暴走したりカツアゲとか、

広瀬:ましてや人をいじめるようなことはしてない。

岸田:でも・・・何でトップなんかに

広瀬:それも実は・・・親がな。

―――メロディが流れる―――

湯沸かし器:お風呂が沸きました

広瀬:おっ、風呂沸いたな。入ってきたら?

岸田:えっ?・・・はい。

広瀬:あぁ、最後に一つ。俺のこと、幻滅した?

岸田:何で?

広瀬:いやあ、ユウの前でアイツらと同じような様を見せちゃったなってね。

岸田:そこは安心してください。

広瀬:良かった。


広瀬:(M)正直、このまま居なくなるかもと思った。

広瀬:(M)でも、ユウは一緒に帰ってくれた。

広瀬:(M)ユウが今日、怯えてた顔を見た時、全部思い出したんだ。

広瀬:(M)俺、コイツを守ってやらないと。

広瀬:(M)いや、守るだけじゃない。側に居てほしい・・・


岸田:・・・ん?

岸田:あれ?マサルさん?

岸田:居ない・・・ん?手紙?

岸田:か・・・解雇通知書?

岸田:手紙もある・・・僕宛!?

0:手紙を開封する

岸田:ユウへ。この(手紙を読んでいる)

広瀬:(前セリフに被せ)(M)手紙を読んでいるということは、1週間が過ぎたところだな。

広瀬:(M)突拍子もないこと言って・・・ごめんな?

広瀬:(M)言葉ではうまく言えないから、手紙に残すことにする。

広瀬:(M)あの日、実は俺も俺を終わらせるために駅に向かってたんだ。

広瀬:(M)そしたら、先客のユウが居たってわけ。

広瀬:(M)バカだよな、同じ志を持ってたのに止まらせるなんて。

広瀬:(M)でも、最期くらい誰かの助けになりたくてさ。

広瀬:(M)学校なんか狭い世界で一生なんて決めるなよ。

広瀬:(M)俺みたいに社会を生きてみてから判断してくれ。

広瀬:(M)いや、ユウには生きてほしい。

広瀬:(M)借りた命は返す。ただ、その命を使って俺が見れなかった分も生きてほしい。

広瀬:(M)ユウの通ってる学校には全部説明した、ユウを苦しめる存在はもう居ないよ。

広瀬:(M)だから、今日からユウは自由だ。

広瀬:(M)上で見守ってるからな。

―――手紙終わり―――

岸田:広瀬さん・・・広瀬さん(泣く)

岸田:(M)違う!!!広瀬さんの居ない世界なんて生きる意味がない!!!

岸田:止めなきゃ!!!


―――駅―――

駅員:お客様にお知らせします、現在人身事故発生につき駅構内の立ち入りを制限しております。

岸田:嘘だ・・・間に合わなかった。

岸田:マサルさん・・・マサルさん!!!

―――広瀬宅―――

岸田:ハッ・・・!

岸田:夢・・・?

岸田:でも!マサルさんが居ない!?


―――駅―――

岸田:(M)マサルさん・・・

アナウンス:間もなく、2番線を電車が通過します。

岸田:(M)僕を置いていかないで・・・

アナウンス:危ないですので、黄色い線の内側までお下がりください。

岸田:(M)今度は僕が助けなきゃ・・・

アナウンス:2番線を、電車が通過します。ご注意ください。

岸田:(M)正夢にさせないっ!

0:階段を駆け上り、逆側のホームに礼服姿の広瀬

岸田:マサルさん!!!!!!


岸田:(M)通り過ぎる電車、数秒後急ブレーキとけたたましい警笛

岸田:(M)その時、マサルさんの姿は無かった。

岸田:(M)間に合わなかった・・・

岸田:(M)僕の手で、止めることも出来なかった。

岸田:(M)なんてついてないんだろう。

岸田:(M)僕は、僕の大切な人を守れなかった

岸田:(M)ごめん・・・なさい。


広瀬:ユウ?

岸田:ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・

広瀬:ユウ!?

岸田:・・・え・・・?

広瀬:どしたの?

岸田:マサル・・・さんっ!

広瀬:どうしたどうした?

岸田:良かったぁ・・・良かったあ!!

広瀬:おおう・・・何かあったんだな。

岸田:(広瀬に抱かれながらひたすら泣く)


―――ベンチにて―――

広瀬:落ち着いたか?

岸田:うん。

広瀬:何があった?

岸田:ごめんなさい・・・

広瀬:別に悪いことしてないよ。

岸田:夢を見てね。

広瀬:夢?

岸田:マサルさんが居なくなる夢

広瀬:へぇー、どんな感じで?

岸田:起きたら、手紙と解雇通知書が置いてあって

岸田:それが・・・別れの手紙で

広瀬:なるほどね。

広瀬:それで、夢から覚めたら枕元に解雇通知書と手紙が置いてあって、焦って追いかけてきたと。

岸田:えっ!?

広瀬:あぁ、まだ読んでないのか。

岸田:うん・・・

広瀬:とりあえず、俺は今日、友達の結婚式だから。

岸田:そうだったんだ、ごめんね・・・

広瀬:まあ、先の駅で人身事故があったらしくてさ。しばらく動かなさそうだから一旦帰ろうか。


―――広瀬宅―――

広瀬:で?

岸田:何か初めて家来た時もそれ言われた気が。

広瀬:そうね(笑)

広瀬:折角だし俺が読むか。

岸田:解雇通知書?

広瀬:そう。

―――紙を開く―――

広瀬:岸田ユウ殿、誠に不本意ではありますが、あなたを今日を持って解雇いたしますので、その旨予告します。

岸田:解雇通知って1ヶ月前じゃないといけないんじゃない?

岸田:・・・というか僕、雇用じゃなくてレンタルだったよね?

広瀬:細かいことは気にしない。

広瀬:で、次にだけど復学の対応しといたから。

岸田:復学・・・?

広瀬:あぁ、大丈夫だ。ユウを苦しめてるものはすべて取り払ったから。

岸田:退学になった・・・ってことですか?

広瀬:そうだな、実はさ、俺の母親が教育委員会の委員なんだわ。

広瀬:流石に度を越えたいじめが起こってるとなると、動かざるを得ないみたいでな。

岸田:そうだったんだ・・・

広瀬:まあ、その影響で勉強しろ勉強しろってずっと言われ続けた結果

広瀬:グレてしまったわけで・・・

岸田:だからこの間のことにつながったわけなんですね。

広瀬:でも、俺は特に誰かをいじめたり、犯罪行為してたわけじゃないから安心しろな。

広瀬:グレてたとは言え、勉強は嫌いじゃなかったし。

広瀬:だから、また復学してユウにはしっかり勉強してほしい。

岸田:うん。僕も勉強してマサルさんみたいに賢くて優しい大人になりたい。

広瀬:それから、これ。

岸田:なにこれ?

広瀬:パートナーシップ証明発行に必要な書類。

岸田:なにそれ?

広瀬:同性同士の事実婚を認めてもらうための申請書かな。

岸田:それって・・・

広瀬:ユウ、俺と一緒に生きてみないか?

広瀬:ユウの過去は消しきれないかも知れないけど、未来を明るくすることは出来ると思ってる。

岸田:マサルさん・・・


岸田:・・・はい!よろしくお願いします。

広瀬:ユウ・・・!

―――抱き合おうとすると、インターフォンが鳴る―――

広瀬:あっ、友達迎えに来たわ。

岸田:えー!

広瀬:ごめんって、とりあえず行ってくるわ。


―――車内―――

渡辺:人身事故ってついてないよねぇ。

岸田:そうだな。

渡辺:でも、キッシーのとこからなら人身事故前でも間に合ったんじゃない?

岸田:いや、俺の彼・・・いや、恋人がさ?

渡辺:何!?アンタ彼女出来たの!?

岸田:恋人がな。

渡辺:何それ(笑)まあ、おめでとう。

岸田:ありがとな。

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