第2話

空洞のように響く研究室。埃を舞い上げる空気の微粒子。寂静が広がり、壁には様々な計算式とスケッチが書き込まれている。ここは美咲の世界だ。彼女は人間の営みから離れ、深淵のように広がる自身の研究に没頭していた。


美咲は孤独を愛した。人々の騒音から遠く、彼女の心と同じように静寂な空間で、唯一、自分の研究と向き合える場所だ。そして美咲は、自分の研究にだけは誠実だった。それが他人に理解されなくても、誤解されても、それが美咲の選んだ道だ。


彼女の研究の対象は、一見、奇妙に思えるかもしれない。それは「おへそ」だ。しかし、美咲にとっては「おへそ」はただの体の一部ではなかった。それは人間が胎内で母親と繋がっていた証、成長の証、そして未来へ繋がる鍵だと彼女は信じていた。


年月は過ぎ、美咲の努力はついに実を結んだ。「タツノオトシゴのおへそ」だ。それは人間のおへそを通じて、人体が持つ無限の可能性を解き放つ装置だった。しかし、美咲はこれを秘密にしていた。彼女が求めるのは名誉や富ではなく、純粋な知識の追求だったからだ。


美咲は「タツノオトシゴのおへそ」の完成を喜んだ。しかし、その喜びは一人だけのものだった。彼女はその秘密を守り続け、研究の世界にただ一人で潜り続けた。それが彼女の選んだ道だ。しかし、それは彼女が孤独を愛しているからだけではない。その中には、誤解と偏見から自分の「子供」を守る母親のような、深い愛情も含まれていた。

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