第68話その2

【9月26日、午後6時30分】


 シーンは秋葉原駅。この時間にでもなると、通勤帰りのサラリーマンも散見される状態だろう。


 その中で、デンドロビウムは他の炎上勢力と戦っていた。


 テロップを見ると、時間としてはフェア・リアルのゲリラ配信も終わって少しが経過した位か。


「貴様もデンドロビウムとは……何という偶然」


 とある炎上勢力のインフルエンサーの男性が、ふとデンドロビウムに尋ねる。


 彼もまた、炎上勢力としてガーディアンと戦っているのだが……。


「何が言いたい? 池袋支部が炎上勢力に乗っ取られかけた件に関して、文句でもいうためか?」


 デンドロビウムは炎上勢力を、文字通りに片手でも圧倒している。


 彼女はあまりにも強すぎた。もしかすると、そこからはじき出される結論は、一つしかないだろう。


 それを踏まえ、あえてこの質問を投げかけたのかもしれない。


「別に、そうした意図があってのものではない。気に障ったのであれば謝ろう。あの炎上勢力とまとめサイトのやり方は、吐き気がするほどに最悪だったからな」


 インフルエンサーの男性は、今回のガーディアン襲撃を行っている勢力には協力しているが、池袋支部をはじめとしたガーディアンに潜入して炎上させようとした迷惑系配信者のやり方には、賛同していなかった。


 彼らのやり方は、一歩間違えれば別の犯罪にも該当するし、テレビで堂々と報道されて逮捕という流れになっても当然とは思っている。


「これだけは、言っておこう。今回の秋葉原での大規模行動は、今までの迷惑系配信者などには賛同しない炎上勢力によるもの。容易に説得可能とは思わない事だ」


 しかし、それはそれであって、今回の行動を止めるつもりはない様子。


 更に言えば、デンドロビウムが戦っている炎上勢力は、フェア・リアルの配信で戦意を失った勢力等とは違い、結束力は高いようだ。


「それを聞いて安心した。説得工作などが効かないであろう人物もいるのではないか、そう考えていたのはガーディアン内でも一部いる」


 インフルエンサーの発言に反論すると思われたが、そういった発言を彼女は行わない。


 それは何故なのかと言うと、別の理由があったのだろう。


「私こそ、不正破壊者チートブレイカー……その本人だ」


 デンドロビウムから、まさかの発言が出た。何と、自分がSNS上で噂になっていた不正破壊者チートブレイカーである、と。


 これには、インフルエンサーも無言だった。やはり、と言うのがあるのだろうか?


 そして、インフルエンサー勢力とデンドロビウムのバトルは3分ほど展開されるのだが……あえてこちらでは割愛する。


 バトル的には、デンドロビウムが圧倒的に勝利したわけではない一方で、インフルエンサー勢力にも全く見せ場がなかったのかと言われると、そうではない。


 渋谷支部長のリーガルリリーやガンライコウ、草加支部長のアルストロメリアのような一撃で決着するような技を、あまり所持していないというのもあるだろうが。


 ガーディアンは圧倒的火力で炎上勢力を一掃する……それがガーディアンのガジェットなのだが、デンドロビウムに関して言えば、別のリミッターが付いているような気配を感じるものがあった。


 ……いわゆる、演出的都合での省略ともいえる。メディアミックスなどで再現されるのを待とう。


「やはり、デンドロビウムの正体は……そういう事か」


 レンタルサーバーのチェックを行っている最中の新宿支部長も、一連のバトルをチェックしていた。


 しかし、その顔には驚きと言う反応ではない。明らかに何かを知っていそうな顔だった。


 むしろ、案の定か……というような反応をしていたのである。



【9月27日午前9時】


 再び、時間は27日に戻る。そこでは、忍者勢力を一掃するガーディアンの姿があった。


 それも、草加支部のメンバーである。


 メンバー的には一部不在の気配もするが、支部長であるアルストロメリアは確認できた。


(どう考えても、何かが……?)


 アルストロメリアは忍者軍団の夫人に関して、何らかの違和感を持っていた。


 炎上勢力のような気配も感じられる一方で、何かの対策をしているのではないか、と。


『どうやら、はめられた可能性がある。ブービートラップが仕掛けられていたのだ』


 アルストロメリアの回線に割り込んできた男性の声、それは春日野かすがのタロウだった。


 何故に、彼がガーディアンの回線に割り込めるような物を持っているのか?


 それは、この際どうでもよかった。ある意味でもご都合主義の一言で片づけられそうな気配はしていたからである。



「ブービートラップ? それはどういうことなの?」


『おそらく、ガーディアンを炎上させて自分たちの有利に事を進めていこうという連中がいる』


「まとめサイトや炎上勢力ではなく?」


『そういう事だ。ネットミームを拡散し、それで利益を得ようとする勢力はいくらでもいる、という事だろう』


「そこまで言うからには、目星はついている、と?」


『まさか? 散見されるインプレスパム連中やお金配りアカウントの類は一掃している最中だが、それらとも違うだろうな』


 タロウの方でも、その勢力に関しての見当はついていないのだという。


 いわゆる死の商人ポジションであるのは明らかなのに……容易に尻尾がつかめるようでは、ここまで暗躍しても正体が見破れないのは余程だろう。


 制作委員会やまとめサイト、炎上商法コンサルタント、特殊詐欺グループでさえ、あっさりとガーディアンに包囲され、消滅したというのに。


 更に言えば、いわゆるジャパニーズマフィアもガーディアンの出現で完全壊滅にまで追い詰められ、残党が警察に任せられている位には……そうした勢力は絶滅危惧種と言っても過言ではない。


 しかし、この勢力だけは最終回直前になっても暗躍を続け、ガーディアンからも隠れていたのだ。


「ラスボスは、実はガーディアンの支部長だったというオチでは……ないよね?」


 恐る恐るだが、アルストロメリアがタロウに尋ねるが、ため息と思われるものを吐き、その後に話を続ける。


 タロウの推論では、その回答は否定されたようだが……。


『ミリタリー物のゲームやアニメでもよくある手法だが、そこまで分かりやすく尻尾がつかめていれば、今頃は他の支部長も同じことをしているよ』


 タロウの方も、他のガーディアンの支部長がどのような行動を行うかは、おおよその見当がついていた。


 それでも発見できていない以上は……そういう事かもしれない。


『これだけは、伝えておこうか。ガーディアンがどのような手を使うかの把握は出来ている以上、そのセキュリティを突破している存在が、犯人のはずだ。決して、ガーディアンのセキュリティはざる警備ではない』


 タロウは、そう言い残して通信を切る。一体、彼は何を伝えようとしていたのか。



「まさか? そういう展開が……」


 草加駅に姿を見せた人物、それは祈羽おりはねフウマである。


 彼の装備はARガジェットにスーツ、メットを装着しているのだが……特に駅周辺にいるギャラリーが不審に思うことはない。


 オケアノスもある草加市周辺では、特定エリアでのコスプレが認められているのも事情のひとつだろう。


 何故、フウマがここにやってきたのか? 謎は残るが。


(まずは、この炎上勢力の忍者を一掃するのが……)


 フウマとしても、炎上勢力の忍者、それも自分に襲い掛かってくる分に関しては対応しようと考える。


 しかし、次の瞬間……。


『今こそ、決着をつけるべきか……祈羽フウマ!』


 同じく、草加駅に姿を見せた忍者スーツの人物、それはヒャクニチソウだった。


 気が付くと、フウマの周囲にいた忍者軍団はヒャクニチソウが一掃していたという展開になっている。


 何故に彼女がフウマを狙っているのかは分からない。


(ヒャクニチソウ……)


 フウマとしては、祈羽一族のヒャクニチソウとは、何らかの形で決着をつけるべき、と思っていた。


 それには、祈羽一族としての決着を……と言う意味もある。


 一族が何を考えているのは、蒼影そうえいの段階で色々と分からなくなっているのだが。


『今こそ、決着をつける時、そう思わないか?』


 ヒャクニチソウは女性声のボイチェンを使っているわけではなく、本物という事だろう。


 その一方で、何故にこのタイミングで、しかも運命の時に迫っているであろう27日に。



『デンドロビウム、まずい流れになっているみたい』


 同タイミングに近い秋葉原駅、電機店やゲームセンターなどの店舗もまだオープン前なので、そこまでギャラリーがいるわけではない。


 しかし、深刻な状況なのは連絡をしているリーガルリリーにも分かっている。


「フェア・リアルの配信、それに全く動じない炎上勢力が動いているのだろう?」


 昨日の件もあるので、デンドロビウムにはどういう状況なのかは分かっている。


 企業勢VTuberであるフェア・リアルでも対応できない炎上勢力、おおよそが企業勢VTuberのアンチ勢力なのは目に見えていた。


 おおよそはデンドロビウムが片づけた後だったようで、悪質な数名は警察によって逮捕されている。


 彼らは一般市民を人質にとって、事務所の解散を要求してきたのだ。


 暴力こそ、全てを解決する……と勘違いしている勢力は、ガーディアンに一掃されるのが宿命だろう。


 わずか数行程度の行動しか起こせず、ガーディアンが速攻で片づけていく、それはデンドロビウムも例外ではない。


 あらゆるチートを無効化する彼女のARガジェット、その名はアガートラーム。別作品のデンドロビウムが使用している武器の名称が使われていたのだ。


 更に言えば、アガートラームの名前自体は北欧神話経由で、様々なゲームやアニメなどでも使われている。


 その力がどのようなものなのかは、想像に難くない。実際に『不正破壊者チートブレイカー我侭姫デンドロビウム』でも……。



「あれは、まさか?」


 暴走したアンチ勢力の次は、まさかの蒼影そうえいを相手にすることになろうとは。一部の意匠は異なるようだが……。


(アガートラームが……?)


 しかし、蒼影にアガートラームが反応したのと同時に、何かのノイズのようなものが目の前の蒼影に発生しているように見えた。


 更に言えば、その蒼影は……。


「まさか、反AI勢力がわざわざ蒼影をAI出力し、それを炎上に利用してAIを歴史上から消滅させようと……。それでは、まとめサイトなどとやっていることが同じではないか」


 目の前の蒼影の正体、それはAIによって出力された……いわゆるAIアバター的なもので、アガートラームに反応したと同時に瞬間的に消滅した。


 しかし、用意された偽の蒼影は、この1体だけではない。


 そう、AIを利用して生成している以上、ほぼ無尽蔵に出現させることは容易なのだ。

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