第61話その3

【フェア・リアルの配信終了後】


 配信が終わったのは午後5時辺り、配信自体は1時間辺りだろうか。


 祈羽おりはね一族の先代ともある程度の時間制限があることは伝えており、その中で何とか時間内に配信出来たというべきかもしれない。



「あれで大体の謎は解けたというべきか。欠けたピースを集める手段が……予想外だったかもしれない」


 配信をすべて確かめた新宿支部長の男性、彼は何となくだが全容の一部が見えてきた、と考える。


 ガーディアンとしては、祈羽一族に挑んで勝てる保証は1%もないだろう。0%ではないのだが……無謀と他の支部からも指摘されるのは確実だ。


 まさか、ネットガーディアンからデータ提供を受けただけでなく、ブラックバッカラのデータまで入手していたとは。


 それを踏まえると、蒼影そうえいの自動操縦とも判断できるAIサポートなどもブラックバッカラがベースになっているとすれば、納得する。


 しかし、それでも回収されていない伏線などは存在するが……それを考察している場合ではないだろう。


『忍者構文の完全解読、それを阻止するものはいるだろうな。解読されれば、価値はなくなる……と考える炎上勢力が』


 ここに呼ばれていたブラックバッカラは、自分の考えを新宿支部長に打ち明ける。


 不完全なままの忍者構文であれば、様々な考察などでアフィリエイトブログやまとめサイトを運営でき、そこで利益を稼ぐことは可能だ。


 ある意味でも新作映画が公開された直後に流れるネタバレなども……これに該当するだろうか?


「そういった連中はいるだろう。すでにガーディアン側でブラックリストに入っている炎上系配信者は五万といる」


「それだけではない。FXや株式投資などの詐欺や転売ヤーなどの育成……そういった勢力に該当する配信者の情報も警察に提供している」


「コンテンツ炎上とSNS炎上は、もはや対岸の火事ではない。両方とも同じものなのだ……」


 新宿支部長は、別の意味でも支部長室の外に映る新宿の光景を見て、ふと思った。


『復活した私に、何をさせるつもりだ?』


 確かに、これは新宿支部長も想定外ともいえる質問だった。


「君は、ガーディアンの目的がコンテンツ流通の炎上阻止だという事に対し、ばかげていると言った。確かに興味のない人物にとって、そういう反応になるのは否定しない』


「しかし、その炎上がきっかけで事件が起きてからでは遅いのだ……」


 新宿支部長は、何か言葉を濁すように発言をするのだが……それに対してブラックバッカラは反論を止める。


 いわゆる『行間を読め』という部分に当たるのかは分からないが、これが何となくその場面なのでは、と思ったからだ。 



『まさか、ここまでの流れになっていくとは……』


 ヒャクニチソウは、自らがまいた種が予想外の展開になっていたことに対し、驚きを隠せないでいる。


 あの配信で先代が話した内容にも衝撃だが、更に言えば……と言うのはあるだろう。


 この段階で、すでにエンディングテーマが流れており、更に言えば、今回はスタッフ及びキャストクレジットも一緒である。


 彼女はARメットを外していないので……素顔は不明のままだが、屋敷には戻っていない。


『だが、これ以上は……』


 忍者構文の全貌が明らかになるというのは、ヒャクニチソウとしても想定外の出来事である。


 何故かと言うと、彼女は先代のある発言を耳にしていたからだ。



「我々は争いの道具に忍者構文が使われることは望んでいない。だからこその……」


 ここで先代が言う争いの道具とは、軍事転用だとヒャクニチソウは認識していた。


 しかし、実際の所は違っていたのである。


 それは、あの時に目撃した偽のヒャクニチソウアバターを使用した炎上系配信者を見れば……火を見るよりも明らかだった。


『先代の言う争いの道具の指すもの……』


 ここで偽アバターを使用した炎上配信者とヒャクニチソウのバトルが回想シーンとして挿入される。


 バトルとしては、そこまでの長さではないものの、ヒャクニチソウの強さは感じ取れるものだった。


 実際、かませ犬かの如く倒されたから、と言うのもあるが……。


『まさか、忍者構文の正体って……?』


 シェアリング炎上、コンテンツマッチポンプ……それ以上にパワーワードを生み出すような展開になることを、ヒャクニチソウは望んでいない。


 そうしたパワーワードを生み出して拡散し、作品を続けるために様々な新展開を生み出してコンテンツを永続させる……そんなループを、知らぬ間に思いついていたのだ。


 もしかすると、それが忍者構文の正体なのでは、と。



「これが、忍者構文の正体……」


 フェア・リアルの配信を見ていたのは、ガーディアンの関係者だけではない。


 自宅のパソコン経由で配信をチェックしていたのは雪華ゆきはなツバキだった。


 彼としても、忍者構文の正体がこの展開で……と言うのも驚くしかないのだが。


(もしかして、ダンジョンしんのダンジョンの事件も……)


 様々なダンジョン配信者を巡る事件もあるかもしれないが、それ以上にダンジョン神の事件も同じようにマッチポンプだったのでは……と。


 SNS炎上の案件は減りつつあるとはいっても、それは大規模炎上と言うレベルのものに限られており、小規模炎上はまだ続いている。


 小規模も含めて完全に根絶しなければ、それをアフィリエイト収益を得るために悪用するインプレスパムなどの勢力が減ることはないだろう。


 それこそ、SNS炎上は犯罪であると明言し、それをガーディアンが発生から数秒で解決、特撮作品でも戦闘員を撃破するシーンレベルで減ることを、彼は願っていた。


 そうでなければ、メインとなるシーンも追加できないというような事情もあるからだ。


 若干の本心も混ざってしまったが、忍者VTuberとしての活動よりもダンジョン配信がメインになりつつあった彼にとっては、別の意味でも天気と言える可能性はゼロではない。


「このままでは、コンテンツ流通も……」


 配信終了後、SNS上ではとあるニュースがトレンドになっていたのである。


 特定のコンテンツで炎上案件が発生したというものではなく、とある人物に関しての記事だった。


 更に言えば、その人物とはガーディアン関係ではない。


(この人物は、まさか……!?)


 ツバキの発見した人物、それはビスマルクだった。



『次回、アバターシノビブレイカー、対電忍。最終決戦の序曲』


 今回も、やはりというか次回予告はテレビアニメ仕様になっていた。


 黒バックにサブタイのみではなく、今回はオケアノスがバックにあるのだが……建物のみで人物がいない。


 予告コールのBGMもテレビアニメ版の方が使われているのが拍車をかけており、ここからテレビアニメ版の登場人物が客演するのではないか、と言う声もあった。


 サブタイコールの担当は、ヒャクニチソウなのだが……。



 今回も引き続き、テレビアニメ版の次回予告形式が採用されているため、エンドカードがある。


 そこに描かれていたのは、ビスマルクである。今回、彼の出番があったかと言われると……。


 バックの背景は何と西新井駅近辺。ARパルクールと関係があるというのかか?


 フードを深くかぶり、その正体は謎に包まれている……と言うビスマルクではあるのだが、別の作品では人物名として散見される名前だ。


 スターシステムと言うわけではないが、目撃事例も多いのでどれがどのビスマルクなのか、と錯覚する可能性はゼロではない。



 ビスマルクの正体に関しては、様々な場所で考察なども拡散しており、中には彼を題材とした二次創作小説もある位だ。


 何故、ここまで突出してビスマルクに人気が集中しているのか?


 特定の客層にうけているだけ……となるかは、まだ分からない。



【次回もお楽しみに】

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