第61話『復活のブラックバッカラ』

第61話その1

『おそらく、これは鑑定番組などでもお見せしたこともなく、取材もお断りしている……ある意味で初公開の代物です』


 これは、フェア・リアルの配信における公式切り抜きともいえる映像だ。


 ここで祈羽おりはね一族の先代が見せたものこと、それが……。


祈羽おりはね一族に伝わる忍者構文を守る忍者、蒼影そうえいです』


 配信画面に映し出されたもの、それはSNS上で忍者の話題を追う人物であればだれもが知るであろう存在、蒼影だった。


 何故に、あの屋敷に蒼影が置かれていたのか……謎は多い。


『もしかすると、似たような外見の忍者を視聴者の皆様もご覧になっていると思いますが……』


 ここで、マウスを手に持っていたであろう人物が、動画に表示されている停止ボタンを押す。


 公式切り取りなので、任意で停止することは可能である。つまり、そういう事だ。



「この切り取りでも言及されているが、蒼影は間違いなく実在していた。それを裏付ける発言だったといえるだろうか」


 声の主、それはまさかともいえる春日野かすがのタロウだった。


 動画を見ていた場所は、いつものゲーミングパソコンショップである。


 客足は、そこそこなのかもしれない一方で……タロウの出番はなく、ある意味でも休憩中と言うべきか。


「対電忍自体、テレビアニメ版と言うフィルター経由、特撮版と言うフィルター経由で様々な炎上案件が語られている」


「それを踏まえれば、何となくでも分かっていただけると思う」


「皆がテレビで見ている番組、それもコンテンツのひとつと言えるだろうか。ドラマはフィクションであるのは当然だが、再現系のようなものもあるかもしれない」


「……それぞれの番組について語っていると時間が無くなるだろうから、率直に結論だけを語ろうか」


 この語りをしている最中、過去回想映像が流れているのだが……もはや仕様と言うべきか。


 そして、タロウは再び公式切り取りを再生する。



『300年前にAIと言ったようなもの、ドローン技術などは存在しないものです。しかし、蒼影の無人での起動に関しては、300年前にも存在した事例でした』


『魔法的な要素があったかと言われれば、そういった記述もなく……他にも再現を行おうと考えましたが、起動せず。このままではこの技術を他国に転用され、それこそ軍事兵器に利用されるのは目に見えていたのです』


『そこで我々は、ネットガーディアンと名乗る勢力と接触をしました。彼らの技術は、蒼影の完全覚醒にも必要だったことです』


 我々の知る蒼影は獅子、竜、鳳凰のサポートメカに黄龍のサポートメカの合計4体を使用し、それと合体することも可能だった。


 つまり、それらのサポートメカも実在するという事にはなるのだろう。合体と言うギミックがあるかどうかは、まだ全容が判明していないので不明な箇所はある。


 そして、蒼影が操縦者を求めている挙動を見せたのも意図的といえるかもしれない。


 AIによる完全制御型ロボット自体、実現しているような話も……現実ではあり得いないだろう。


 ネットガーディアンの技術を使っても、まだ300年前の再現には一歩遠い。


「祈羽一族の先代がやろうとしているのは、300年前の再現なのだろう。しかし、彼は完コピとしての300年前の再現は望んでいない」


「それは、ヒャクニチソウとの対立する場面などを見れば、明らかか」


「先代が望むのは、300年前に現在のARガジェットやアバター技術、それらよりも自分たちが生み出したからくり忍者が優秀であることを証明する……なのだろう」


「どのタイミングで祈羽一族の話とネットミームやネットスラングとしての忍者構文が混ざったのか……それは平成の終わり、もしくは令和初期ともいわれている」


「しかし、それらが事実なのかは分からないだろうな」


「もしかすると、ブラックバッカラ事件も……ダンジョンしんの事件も……使われていた技術を踏まえれば同じだったのでは、と思う訳だ」


「これを、いわゆる妄想の類と片づけるか、それとも新発見だ、と思うかどうかは読者に任せるとしよう」


 そして、対電忍の本編は始まろうとしていた。


 ここまでタロウが喋ることもないので、別の意味でも急に喋り出したことにはフラグを感じる視聴者や読者もいるかもしれない。



『待っていたぞ! アルストロメリア……!』


 まさかの前回の続きをあらすじなしで、そのまま流すとは……と言う展開である。


 突如として襲撃をしてきたのはARメットを装着し、素顔を隠したヒャクニチソウ……と装備が似たような人物。


 ご丁寧に分かりやすいような台詞まで叫び、自分を襲ってほしいと言わんばかりの勢い。まさに炎上させるためだけにマッチポンプを仕掛けようとしているような展開だ。


 しかし、この行動はある人物には予測されていた。ある人物でなくても、完のいい読者や視聴者には容易に見破られるだろう。



『なるほど……そういう事か』


 ヒャクニチソウの忍者刀を弾き飛ばしたのは、何とARメットを装着したヒャクニチソウだったのである。


 更に言えば、このヒャクニチソウは本物だった。


「制作委員会やガーディアンの支部の仕業、脚本的にそうしたかった、と思っているようだけど」


 武器を弾き飛ばされた人物に対し、ガーディアン草加支部長のアルストロメリアは何かを確信したかのような発言をした。


 彼女は何かを察しているのだろうか?


「まさか、AIアバターがこういう使い方をされているとは……」


 その後、アルストロメリアがポケットから取り出したのは、100円ライターほどの大きさの……ARチャフグレネードだった。


 それにスイッチを入れ、投げつけた瞬間……チャフの拡散と共にヒャクニチソウの偽物が消滅する。


 そこから姿を見せた人物……やはりというか、炎上系男性配信者だった。


 何故、彼がヒャクニチソウのアバターを利用してまでアルストロメリアを襲撃しようとしていたのか?


『こちらも想定外だ。こういう炎上行為に利用されているとは……』


 ヒャクニチソウも、その後に炎上系配信者を一撃で討伐し……倒された配信者はそのまま警察に逮捕された。


 彼が転売ヤーの指南をしていたというのが判明するのは、翌日のニュース経由にはなるのだが。



 そして、ふと思えば……まさかの今回はオープニングなしと言う展開になった。


 これが何を意味しているのかは定かではない。


 この後には対電忍のタイトルロゴが表示されるのだが、特撮版もアニメ版も同じものを使用している。



【ブラックバッカラ、遂に復活か?】


【歴史は今、繰り返されようとしている】


 提供の上下にあるスペースでは、上に最初のテロップ、下には……と言う具合だ。


 特撮の場合、オープニングテーマなしでも本編が流れているタイミングでキャストテロップが出るケースはあるだろう。 


 しかし、今回はそれがなかったのである。ある意味でもエンディングに集約させるというのか?


 エンディングで集約と言うと、それはテレビアニメ版の仕様なのではないか、と思われるが……特撮でも事例がないわけではなかった。


 つまり……。

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