第55話その2

「ここにきて、そういった手段を使うのか」


 ARパルクールのトップを独走し、最終エリアに向かう寸前の祈羽おりはねフウマ。


 しかし、その後ろ簿法では大きな爆発音にも似たような音も聞こえる。他のARゲームのSEなどもあり得るが、それがここまで聞こえるのか……?


 フィールドの場所にもよるが、この場所まで聞こえるとしたら相当の音量と言えるだろう。


 しかし、ここはARパルクールだ。仮にコースの後ろを振り返っても、戻ったとしてもペナルティはないと思う。


 最終エリアを残してデンドロビウムの救援に向かうのは……リスクが伴うだろうか。


(しかし、ここでリタイヤをすれば……それはそれで危険か)


 ARパルクールでも他のプレイヤーを妨害する行為は失格扱いになる。それを踏まえると、引き返すにしてもリスクは生じる。


 その中でフウマは、そのまま直進していくことにした。つまり、足を止めずに最終コースへ向かう選択をすることに。


 一方で、現在までの順位表を確認すると、リタイヤしたプレイヤーはいない。ただし、全員が完走できるかと言われると……。


「今は、信じて走るしかない」


 そして、フウマは振り向くことなく最終エリアへと向かう。


 すでに2番手を走っているプレイヤーも、姿が見えてきたのも理由のひとつだが……。



 次のシーンは、西新井とは若干離れた場所が映し出される。場所は五反野。ここに姿を見せたのは、予想外の人物だった。


 場所的には商店街に近いだろうか? 駅の近くと言うわけではなく、ギャラリーもARゲームのフィールドよりは若干遠いこともあり、少なめである。


 それでも近辺にはフィールドと思わしきバリアが展開されており、ギャラリー対策は万全になっていた。一体、どういうことなのか?


「このタイミングで、まさか蒼影そうえいと遭遇するなんて、な」


 蒼影と遭遇したのは、とある男性配信者。いわゆる炎上系配信者とは違うのだが、彼は悪に該当する行為を断罪する……いわゆる自称正義の配信者だった。


 どう考えても、対電忍の世界では雑魚キャラの設定なのが明らかなのだが……。


 装備に関しては忍者スーツを着用しているが、いわゆるアバター忍者の物とは若干異なる意匠もあった。


 すでに数十人ほどのギャラリーが集まっており、道路の一部が封鎖されているような状態でもある。


 フィールドが展開されていたのは、そういう事だったのかもしれない。


「しかし、だからと言ってこちらも『はい、そうですか!』と引き返すわけにはいかないのだ!」


 彼の持っている武器はさすまたである。それを配信者が振り回すが、蒼影は刀で弾き飛ばす。


 動きを踏まえると、明らかに蒼影の方が実力は上だろう。


 的確にさすまたを回避していき、やがて相手にも疲労の影が見える。


 それでも向こうは手を止めることはない。明らかに……。


「そんなことが……」 


 フィニッシュは蒼影の忍者刀による一撃である。その斬撃は血しぶきでも……と思われるような一撃ではあるものの、そういった描写がない。


 ARガジェットには殺傷能力が一切ないため、一撃で決着はしたとしても、腕が切断されたり、それこそ出血で倒されるような描写は一切ないのだ。


 繰り返すが、ARガジェットには殺傷能力は一切ない。アニメ版でもアバターを倒した際には、ポリゴンの塊となって消滅する描写があったが……そういう事である。


 しかし、やはりというか今週の怪人枠に近いモブキャラなので、わずか数分の出番で終了することになった。



 蒼影の方は、別の場所へと姿を消す。文字通りに姿を消したので……そういう事なのだろう。


 極めつけて言えば、蒼影の方は無人であって誰かが乗り込んでいるわけではなかった。


 アニメ版でも途中までは無人制御方式で動いていたが、こちらでも無人という事なのだろうか?


 もしくは、本来は誰かが動かすはずが無人で……と言うパターンだってあるかもしれない。


 その後、気絶した男性配信者はガーディアンが拘束することになり……以下略。



【『新たなるパルクールフィールド』】


 このシーンの後にサブタイトルが右下に出現し、場所は再び西新井に移る。


 だが、その場所はARパルクールフィールドではない。別の場所だった。


「なるほど。全ては……そういう事か」


 ガーディアン渋谷支部の支部長であるリーガルリリーは、ARメットを装着し、周囲の索敵を行う。


 このARメットはアニメ版だとCG的な事情で常にかぶっている場面ば多かったが、実写版では索敵シーンや一部を除いては素顔で撮影されている。


 この辺りもCG予算的な事情だろうか? 真相は実写版スタッフのみぞ知る。


 索敵メットの性能に関して言えば、アニメ版も実写版も同じだ。それを踏まえると……次のシーンで起きることは容易に想像できるだろう。


(このレースを妨害しようとする連中は、大抵が炎上系配信者……この場合は正義を騙るだけの薄っぺらい連中か)


 索敵レーダーに映る影は、まさかの自称正義の配信者だった。五反野で蒼影が迎撃したのとは別の配信者……である。


 彼らも配信で利益を得るためには手段を択ばない、と言う具合だろうか?


 まるで、フェイクニュースをでっちあげて、その後でインプレスパムを利用して稼ぐような連中と同じだ。


(それをニューダンジョンしんが一掃しようと考えていたとしたら……皮肉な話ではあるが)


 今となっては、ニューダンジョン神が何をやろうとしていたのかは分からない。


 それを踏まえてたとしたら、あの舞台を用意したのは……。



「あなたたちに正義はない。正義を騙るだけの悪、そのもの! ガーディアンは、必要悪でさえも許さない……悪と言う存在をフィクションのみにするために、我々は戦わなくてはならない!」


 迫る正義の配信者をリーガルリリーは、手持ちのスナイパーライフル型ARガジェットで一掃する。引き金と言うものはなく、ARメットとガジェット経由で指示1つだけでの発射だった。


 他のガーディアンの支部長が持つARウェポンのほとんどはリミッターが設定されているが、その解除は任意。リーガルリリーの物も任意だろう。


 その火力は……最初に撃った一発だけで迫っていた数百の勢力を、文字通り一掃した。ある意味でもレーザー砲の一射と言うべきかもしれない。


 池袋支部の支部長であるデンドロビウムが使用したアガートラームもだが、リーガルリリーの使用したガジェットも、オーバーキルと言っていいような火力を持っていたのである。


 そのオーバーキルと言えるような火力が恐ろしいのは、周囲の建造物がノーダメージであることだ。ピンポイントで自称正義の配信者だけを無力化したことにあるだろう。



「ガーディアンが持つARガジェットは、それこそ瞬時で悪の勢力を一掃できる火力を持つ。それこそ、ご都合主義や大人の事情と言ったような物とは違う……」


 勝ち誇るリーガルリリーだが、本当に炎上勢力を一掃できたのかは定かではない。その半数近くはポリゴンの塊になって消滅したので、遠隔操作のアバターによるものだ。


 本隊は別にいるかもしれないし、ARアバターをSNSアカウントと紐づけて捜査している可能性だって否定はできない。


「このライフルの一射だけで、瞬時に池袋支部のクーデターを制圧できたのを踏まえると……」


 ライフルを展開し、撃つまでに2分ほどの時間は使用したので、ライフル展開シーンは別の意味でもバンクシーンなのかもしれないだろう。


 池袋支部のクーデターとは、おそらくアニメ版における前支部長とデンドロビウムの争いを指すと思われる。


 一方で、実写版とアニメ版では描写各種が異なると思われるため、本当に同じものを指すかは定かではない。


「このガジェットに選ばれたという意味、それは……」


 アニメ版でも言及されていないようなリーガルリリーの発言、それにはどういう裏があるというのだろうか?


 その真意を知る者は、現段階ではいない。おそらく、考察サイトなどではいくつか存在するかもしれないが……と言うレベルなのだろう。

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