第1話その2

『エントリー番号10番……』


 自宅の居間でテレビを見ていたゆきツバキと姉だったが、肝心の姉の知人はまだ出てこない。


 選考会があり、そこで合計70人までふるいにかけられるとのことで、選考会落ちの可能性も否定できないだろう。


 後半の30人は、いわゆるレジェンド……常連プレイヤー枠となる。


 前半といっても最初の20人位は別番組の宣伝枠だったり、アイドル枠だったりするので、そこまで重視するような個所ではないのだろう。


 しれっと初登場の一般人も混ざっているが、第1エリアでいきなり脱落することもまれにある。いわゆる出オチといえるかもしれない。



 最初に出てきたエントリー番号1番の選手は、職業としてはガソリンスタンドのアルバイトという事だったが、彼の運動能力は相当なものだった。


 第1エリアはハードルを飛び越える、それを5回。ハードルの高さとしては30センチだが、その配置された間隔が鬼ともいえる。


 一般的なハードル競争では間隔が一定なのだが、この障害物競走では1メートル間隔が2エリア、それを越えると50センチ間隔が3エリアである。


 距離感覚がないと、途中のエリアで飛び越えられずにハードルを倒してしまう恐れだってあるだろう。当然だが、ハードルを倒すと失格である。


 ハードルを倒さなければよいので、余裕があれば2個飛ばしみたいな事もできなくはないが、1個づつ飛ばなければ失格。まぁ、当たり前な話ではあるが。



 彼に関しては第2エリアまで突破し、最後の壁で時間切れの失格になっていた。壁の高さは2メートル位あり、その壁を命綱ともいえるロープを取り付け、登るというもの。


 ロープを取り付けないと登れないような仕組みにはなっているのだが、この辺りは安全性の都合だろう。


「この人もそこそこかなぁ」


 姉は1本目のコーラをすでに飲み干しており、2本目に手を出そうとしている。確か、このペットボトルは600ミリリットルなので、2本飲んだら……。


「これって、誰でも参加できる?」


 ツバキの素朴な疑問に対して、姉は「どうなんだろうねぇ」とごまかす。


 姉も参加できていたので、性別は問わないのだろう。選考会があるので、そこで弾かれなければ本戦に出られる、という具合か。


 エントリー番号10番の選手は第2エリアで失格に。分岐をミスって第3エリアへ進めなかったようだ。



『エントリー番号30番……初出場の選手が、ここで姿を見せることになりました』


 30分以上は経過しただろうか。いくつかの選手はカットされており、番組宣伝枠の男性アイドルなどが登場するも第1エリアで出オチになったり……という展開になっていた。


 その中で登場したのは、30番という番号を右肩に電子プリントした拡張現実ゲーム用のスーツを着た青年だった。スーツの形状は、それこそSFチックな忍者といえるようなものに見える。


 年齢的には20代だろうか? 体格はそこまで筋肉質ではなく、先ほどの男性アイドルと変わりない。スーツに関しては自前、の可能性もゼロではないが。


 ゲーム中だと、スーツの着用であまりにもチート過ぎる性能が発揮されるが、拡張現実フィールドが展開されていない場所では普通のスーツと変わりはない。そのため、番組側も許可したのだろう。


 事故防止という面では、拡張現実用スーツはあまりにもロストテクノロジー過ぎる。さすがに着用義務にできないのは、スーツを準備するのに手間がかかる、という事かもしれないのと、スポンサー的な意味もあるのかもしれない。


 さすがに同様の事例はゼロなのか、と言われると過去の大会でも数例あった。しかも、そのうちの一人は姉の知人である。


「知り合いはカットされたとか?」


「エントリー番号までは聞いていなかったけど、レジェンド枠より少し前にはなるって話かな」


 ここまでくると前半の段階でカットされたことを疑うツバキだったが、姉の発言の弱さを踏まえると……カットも疑われる。


 その中で登場したエントリー番号30番の選手、それは予想外の経歴を持つ選手だった。


『リアル忍者、祈羽おりはね一族の末裔、祈羽フウマ……』


 テレビでは、先ほどの実況とは違う解説のようなトーンのナレーションが流れ始める。しれっとだが、女性声のナレーションに聞こえた。


 そして、姉もコーラのペットボトルを置き、若干驚いた様子を見せる。


(母さんだ……)


 ここで、まさかの衝撃事実が判明する。ナレーションの声の正体、それは声優をやっている母の声だった。


 普段は一般向けソーシャルゲームなどで活動しているのだが、稀にスポーツ系番組のナレーションをやっていたりする。


 まさか、この番組で聞くことになるとは……ツバキもカレーパンを食べる手が止まった。



 祈羽おりはねフウマ、彼はリアル忍者でもある祈羽一族の名前を受け継ぐもの、ある意味でも忍者の子孫、もしくは末裔辺りといえるだろう。


 祈羽一族という名前自体、SNS上で話題の『忍者構文』には祈羽の祈の字すら出てこないが、マイナーなのか?


 ナレーションを聞く限りでは両親も忍者であり、今は忍者の体験会などを行い、忍者の活動をアピールしているようであった。


 さすがに、現在進行形で忍者が日本に実在するといわれて、信じる人がいるかどうか、と言われると疑問しかない。


 それこそ歴史の教科書で有名どころの名前は目にするし、忍者を題材とした漫画やアニメ、小説はかなり有名といえるだろう。


 海外でも忍者を題材とした小説やゲームなどは見かけるので、忍者というワード自体は認識されているとみて間違いはない。



 それが、リアル忍者の祈羽一族を隠すためのカバーストーリーなのか、と言われると、それも不明ではあるのだが……。


 実際の彼の実力も未知数と言える。何故かというと、彼は初出場の選手だからだ。



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