タイトルでオチてる短編集

@GleanGreens

アイドルはロボットだからウンコしないと食い下がらないオタク

「ふー、やっと飯だ。おーい高橋、今日こそ昼一緒にどうだ…高橋ー?」


「あ、ああ先輩。お疲れ様です」


「おっす、お疲れー…あ、なんか見てるところだった? ごめんごめん」


「いえ…ところでどうしたんですか?」


「いやなに、たまには一緒に飯でもどうかなってさ。ほら、お前いつも昼食ってないだろ」


「まあ僕、お腹減らないんで」


「あー、なんかそういう体質の人最近多いよな」


「Y世代ですからね」


「あんまし、ゆとり世代かどうかは関係ないんじゃないかな…世代関係なく食わないと出るもんも出ないぞ」


「うーん、でも取り込んだものをいちいち排出するの面倒くさくて」


「なんだよそのウンコのミニマリストは。人として生きていけないだろ。え、最近の若者ってそこまで達してるの?」


「達するというか、生まれつきですけど…」


「そうなんだ…悟ってんな…ていうか、出る出ないは下の方じゃなくて元気の話ね」


「あぁ、なんだ…それなら大丈夫です。エネルギーはこの子の歌から送って貰ってるので」


「なに…この動画の子?」


「はい。Z世代型美少女アイドル、ミライたんのファーストライブです」


「おー、推し活ってやつか」


「まあ、ミライたんの歌が僕の動力ですから」


「ふーん。でもそれだけじゃ生きていけないだろ。まあ俺も気持ちは分かるけどさ」


「え、先輩もそうだったんですか!?」


「なつかしいなあ。学生時代は揃いのハッピにハチマキ巻いて仲間と騒いでたわ」


「随分、旧式だったんですね…」


「旧式ってより世代と言ってほしいけど…今じゃそういうオタクもすっかり減ったな。まあ俺も、大人になって彼女らを追うのもやめた身だよ」


「それは…なぜ?」


「ほら…大人になると内部事情が色々見えるだろ。清純キャラが裏で男と付き合ってたり、集金的な商法してたり…俺の元推しなんて番組Pと寝てたんだぞ。そういう汚い部分がアイドルにもあるんだと知って、心が離れたんだよ」


「そんな…ミライたんは汚い部分なんて一切ありませんよ!」


「そりゃ全員とは言わないけどさ」


「少なくともミライたんは、人間のオスとなんか付き合いません!」


「オスって…なに、その言いぶりだとお前、アイドルはウンコしないって考えるタイプ?」


「そりゃそうでしょう?」


「うわ、そっち系かー…今も変わらず居るんだな。いいか、よく考えろって高橋。口から入ったものは消化されてケツの穴から出るんだから、アイドルだって人間な以上ウンコはするわけ」


「いや先輩…ミライたんにお尻の穴があるわけないじゃないですか」


「あるに決まってんだろ!」


「ありませんよ!」


「はあ…じゃあなんだ? ミライたんが食べたものは不思議な力で消えてるのか?」


「さっきから何言ってるんですか先輩」


「ええ~…俺が変なやつみたいになるのこれ?」


「ミライたんはロボットなんだから、お腹を開けて排出してるに決まってるじゃないですか」


「あ、良かったー。こいつが変なだけだわ」


「何がおかしいんですか! よく考えてみてください。消化する必要がないから穴もないということは、ウンコも性行為もしない究極で完璧なアイドルなんですよ」


「推しの子みたいなこと言うなよ!」


「僕にとっては推しロボですね」


「やかましいわ!」


「とにかく僕は事実を申しただけです。ミライたんは僕の推しロボなんです」


「じゃあ何? 仮にこの子がロボットだとしたら、ホームページにある特技の素潜りはどうなんだ。ロボットなら海水で錆びるだろ」


「ミライたんはチタン製なので錆びません」


「チタン!? インプラントとかの!?」


「そうです。ファンとの握手会もありますし、金属アレルギーはNGですから」


「そんな理由でチタンなことある? ていうか特技が素潜りのアイドルってなんだよ…」


「素潜りが特技なのも呼吸がいらないからですね」


「無駄に隙がねえ…じゃあ、この出身地はどうなるんだ。この前、この子が地上波でしっかり地元を紹介してたぞ。ロボットが田舎で生まれたとでも?」


「ああ、それは工場が山梨県にあるからです」


「山梨県で生産されてんの!?」


「ロボット製造業の集積地ですから、Z世代は全てここで生産されています」


「いやZ世代ってロボットの型番を言ってる訳じゃねえから!」


「いえ、ここから多くのZ世代型ロボットが出荷されて、人間として社会に浸透していくんです」


「あぁ、辻褄合わせでスケールがデカくなった…もう設定の収集がつかん…」


「先輩…旧式とはいえ最近の内部事情を知らな過ぎじゃないですか?」


「お前の意地と頭がどうにかしてんだよ…無駄に博識でいやがって…ていうか旧式って言うのやめろ。おっさんより傷つくから」


「はあ」


「まあ、なんだ…お前の言い分はよーくわかったから、俺もこれ以上はツッコまない。でもそうやって妄信するのは良いけど、飯だけはしっかり食えよ。後の仕事に影響が出たら俺も困るんだからな」


「何言ってるんですか先輩」


「あ?」


「僕たちY世代型に食事なんて必要ありませんよ?」

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