第4話 大姦は中に似たり。

 ここで逃すのか?

 あの得体の知れないモノをこのまま祖国の大地に?

 一度、仲間に制された彼女の言葉は。

 無邪気な様子を見せた不気味な少年に再び危機感を煽らせる。


「……止まれっ!!ガキっ!!」


 そうして、ディアーナは少年へと再び制止を求める。


「——はぁ……まだなんか用ですか?」


 その言葉に振り向いた少年は、呆れた様な表情で返事を返す。

 一見はただの少年…意味不明なことをうそぶくただの少年……その少年にディアーナは汗を握っている。


「ディ、ディアーナさん……」


 勇者キオナはこれまでに見たことのない仲間の様子に心配の声を漏らす。


「キオナ、お前は黙ってろ——おいガキ、テメェは一体何者だ?」

「…………」


 勇者パーティの誰一人として反応できなかった少年の動き……それを脅威とみなさずしては王国騎士としての名が折れる。

 しかし、ディアーナの質問に答えは返ってこない……


「答えろ!!貴様は何者だとっ聞いて——」

「——あのっ!」


 ——少年はディアーナの問いを遮る様にして、これまでに聞かせなかった高圧的な声色を発声する。

 その声に勇者一行はビクりと身体を跳ねさせる。


「一応ルディって名前があるんですけど……その『ガキ』とか『テメェ』とか『何者だ』とかやめてくれません?すごく不快なので——」


「「「「…………」」」」


 今日までの数ヶ月間、彼女らの精神はあまりにも擦れていた……

 自身や仲間の生死、ひいては人類の命運というあまりにも大きな責任を背負わされた彼女らの心には尋常じゃない緊張と不安が存在し。


 それを彼女らは無理やり心にしまい込み。

 魔王討伐、最終拠点テニオスに向かった……


 そんな彼女らが敵戦地で出会ったのは閑散とした街並みに明らかに異質な少年。


 そして、その少年が言い放ったのは魔王の死と撤退の願い。


 彼女らにとって異常な状況、想定外の事態。


 混乱。


 そんな中で謎の少年は『ガキ』や『テメェ』と呼ばれた不快感を素直に口にしたり。

 ましてや自分は『ルディ』と呼ばれたいと意思表示までしてくれる。


 そのような空気の温度差に笑いを堪えれなかった人物がいた……


「ぐふっぶっぷぷ……くっくっくっく」


 森の賢者"ムー・ペオル"。

 一日の大半を寝床で過ごすという何とも堕落した生活を送る者。見た目は神秘的な美しさを纏う幼女にしか見えないがエルフ族ゆえに歳は結構いっている……


 そして彼女の笑いのツボは少々バグっております。


「少年……いや、ルディおもしろい……」


 そう言った彼女は眠たそうな目を見開き、歩いてルディの元へ。


「お、おいムーが自分から人に近づいてるぞ……?」

「ムーさんのあの様な生態は初めて見ますね……」

「ムーちゃんが歩いてるの初めて見たかも……」


 と散々な言われ様であるが、普段の彼女見るにこれは当然の反応であって然るべき。


 各国より要請され勇者パーティに選出された時も寝衣で各国王に謁見。

 会話など常に上の空でパーティ内で打ち解けるにも長い時間を要した。


 そんな彼女が初対面の他人に興味を持ち、浮遊魔法を使わずに移動し食い入る様に相手を観察する。


 紛れもなく誰も想像し得なかった事である。


「な、何ですか。匂いますか?」


 ムーはルディの瞳を観察したり髪の毛に触れてみたり体臭を嗅いでみたり、肉付きはどのくらいか身長は自分より少し低いくらいか……などなど無言で一通りを舐め回す。


 そして、一連の観察が終わり口を開いた。


「ん……特に変わったところはない」


 そして続く。


「ルディは何処から来た……歳はいくつ……それとさっき言っていたことは本当か……?」


 何だこの子、唐突に笑い出して近づてきたか思えば、身体を隅々まで触って、やっと終わったと息をつけば淡々と質問が飛んでくる。


 というか。

 さっきから他の三人はこっちをチラチラ見て、ぶつぶつと話し合っているが本来はあのディアーナという"男騎士"が俺に話があったんじゃ?


 まぁ細かい事は……いい。

 早いとこ切り上げて俺は——


「僕は、このテニオスを北西に行ったところにあるオル村って所から来ました。歳は多分君と変わらないくらい——」

「——私と変わらないなら160歳超えるけど……」

「えっ!?160って、どう見ても俺と同じくらいじゃ……?」

「ふっ…それがルディの素……ふふふ」


 どういう事だ?

 見た目は幼女にしか見えないのに160歳を超えている……

 一見して恐ろしいまでに整った顔立ちと耳が少し尖ってる以外は普通の人間にしか見えないぞ?


 この子はそういう種族ってことか?


 なんか……強烈に興味湧いてきたんですけど。


 どうせ話なんて聞いてくれないだろうしトラブルになって時間喰われたくないから勇者パーティなんてスルーしてやろうと思ってたのに……


 よく考えたら世界に選ばれた勇者に160歳を超える幼女。

 という事は残りの二人にも何かしらの興味深い特性を持っているのでは?


「どう……私達と少しお喋りしない?」


 愚問。


「是非に」


 少年の目とはこういうものを言うのだろう。


 ■■■


 それからは160歳の幼女、ムー・ペオルとの会話が盛り上がり。

 次第に勇者キオナ、聖女キリアも会話に参加。

 4人で広場のベンチに座り。

 俺の知らない様々な事を聞かせてもらった。


 まず、ムーさんはエルフ族という種族で。

 彼らは特定の国家に属さずエルフ族のみが入る事を許される神聖樹林と呼ばれる場所でひっそりと暮らしているらしい。

 長寿で知識欲が非常に強く、魔術や精霊術に精通しているらしい。つまるところ長生きで暇だから知識を欲するらしい。


 次にキリアさんはフーリッシュ王国の隣国、レディコロ連合国の聖女様を担っており。

 本人曰く勇者キオナさんに口説き落とされ勇者パーティに加入、治療を担当しているらしい。

 聖女は世界に数人、常にいるらしく主に治療魔法の研究をしている為、『私一人くらい居なくなっても大丈夫ですよ〜ウフフ』と不敵に笑っていた。


 そして本命、勇者キオナ……彼女は……


 ——あまり自分の事を知らないらしい。


 フーリッシュ王国、王都にて記憶が喪失している状態で発見されたらしく。

 残っている記憶は遠い東の国の出身くらいらしい。

 そして、気付いたら"ステータス"が勇者になっていたと……


「キオナさん。さっきから思っていたんですけど……」

「どうしたの?」

「"ステータス"って何ですか?」


 俺は素朴な疑問を投げかけた——


 え、何その顔……

 三者の豊かだった表情筋はなくなり信じられないものを見た様な顔立ちになっている。


「ルディ……アホ?」

「ルディさんがド田舎の村出身だとは思っておりましたが、ステータスまで認知されていないとは……」


 え、ものごと一つ知らないだけで言われ過ぎじゃじゃありません?


「もー二人とも何でそんな言い方するの?ルディくん可哀想じゃん」


 そうだ。そうだ。

 学ぼうとする心を馬鹿にするでない!!


「ルディくんはなだけだよ」


 『ハコイリ?』どういう意味かはいまいち分からんがあまりいい意味ではない気が……


「ルディくん。ステータスってのはね、この世界を生きる生物、魔族や人類種はもちろん高度生命体の竜族や精霊たちも持つ、その者の能力を数値化したモノだよ」


 ほう。


「じゃあ、低級の魔物やただの家畜もそのステータスを持っている?」

「それだけじゃない……植物もステータスを持っている」

「え、植物にもステータスが……ってさっきキオナさん、気づいたらステータスが勇者になっていたって言ってたけど。それはいつでも確認できるモノなの?」

「ステータスって心の底から絶叫することで自身のモノが確認できる様になってますよ〜。フフッ」


 なんと!

 そんな簡単なことでステータスとやらを確認できるとは……即実践である!


 少年は大きく息を吸い込み腹に力を入れる。


 その瞬間。

 彼女ら四人の背中は冷たい何かを感じ取る。


「ちょっ——」

「——ステェエエタスっ!!!!!」


 キオナさんが何か言いかけたがそれをかき消す様に叫んだ俺の声。


 すると、目の前に浮かび上がった半透明な枠と文字の羅列。


 お、コレがステータスか…………って。


 なんか、周りが静かになったような——



 ——ムーさんは何か透明な球体が全身を覆ってて。


 ——キオナさんは驚愕の表情を浮かべて放心。


 ——キリアさんは目を回しクラクラと身体を揺らして……あ、倒れた。


 ん〜あれだな……凄く後ろを振り向きたくないな……でも、振り向かざるおえない力が働いている気がしてる——


 そう思いながら俺は恐る恐る背後を振り向く。


 ——すると俺の視界には大きな剣を振り抜いたディアーナの大迫力な姿があった。


「あ、ちょちょ……」


 どうしよう。

 あ、謝ろう。


 ディアーナ距離にしてあと四歩。


 俺は自身の容姿とあどけなさを全力で活用し、対抗する所存でございます。


 三……二……一……


「ごめんなさいっ……」


 潤んだ瞳に端麗な顔立ちを活かした身構え。

 哀愁漂う、捨てられた子犬の様な少年は、彼女の心の奥底の情を乞う……


 彼女の目と少年の目が出逢った


 ——その瞬間。


 ディアーナの脳内には電撃が衝突する。

 彼女の思考が停止した。


 そして、心の奥底より掻き立てられるは……圧倒的な庇護欲。


「い、いいよ……」


 頬を赤らめた彼女は武器を手から滑らせ全身で少年の身体を抱く。


「あ、え……」


 こんなに上手くいくと思ってなかった。


 というかこの人こんなキャラでしたっけ?

 俺は何となく彼のあたまをポンポンと叩き背中をさする。

『キュ〜』

 という謎の音が度々聞こえるがコレはディアーナ…さんから聞こえても良い音なのだろうか。


「ルディ……やっぱ…おもしろい……ふふ」


 そんな声が少し後ろで聞こえてくる。



 ——ルディ・ド・オル——


 Lv. ----

 種族 人間

 クラス 管理者

 ——

 HP ----/----

 MP ----/----

 ——

 筋力 2123 精神 ----- 魅力 5520

 敏捷 ----- 要領 2635 幸運 -----

 ——

 スキルポイント ----

 ユニークスキル 管理する者 創る者 操る者 ----

 スキル 剣術Lv.-- 武術Lv.-- 体術LV.-- ----

 ——

 称号 勇者の案内人 魔王を屠し者 理から外れた者 ---- 

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