第7話 ようこそ
城を出た
特に矩が興奮した子どものように露草の腕を引っ張ってあちこち先導してくれたので、引きずられるままに足を動かした。
一つ分かったのは、この雲世界の文化は露草が元いた世界とさほどかけ離れてはいないということだった。店や人々の印象としては、少し田舎に行ったような感じ、といえば伝わるだろうか。
ただし、元いた世界では当たり前のように見ていた車は見かけなかった。
夕凪の買い物に付き添って、ようやく帰途についた。
城下町を案内しながらずっと喋っていた矩が疲れたのか黙っているのでとても静かだった。
夕凪も特に話そうとはしないので、露草も黙ったままぼんやりと城で聞いた刃璃の話を思い返していた。正直、統治者の彼女が何を話して自分が今どういう状況にあるのか、未だに理解が追い付いていない。
ただ分かることは、露草自身も知らない何かの役目を終えるまでは元の世界に帰ることができないだろうということだ。
(そういえば
露草に身体の元を提供している樹氷が死なずにどこかに存在していることははっきりしたが、果たして彼は今どこにいるのだろう。
やっと彼らの家が目の前に見えて来た。
(本当だったら、今もこいつらと家に帰るのは樹氷のはずなのにな)
漠然とそんなことを思って、気付くと足が止まっていた。
「どうした? 露草」
先に立って鍵を開けた矩が不思議そうにこちらを覗き込む。
思わず彼女の顔を見つめて、露草は微かに胸に痛みを覚えた。
(……オレはここで世話になって良いんだろうか)
今更になってそんな考えが頭を過ぎる。
矩も夕凪も樹氷の大事な家族だ。彼女たちは樹氷が帰って来ることを望んでいた。露草が意図したことではないにしろ、結果として露草が呼ばれたことで樹氷は姿を消したのだ。
「早く入れ」
「!」
矩が業を煮やしたように露草の腕を引っ張った。ぐいぐいと家の中に引き込まれた先で、振り返った彼女は笑顔を浮かべていた。
「この世界にいる間は、あたしたちがお前の家族だ」
まるで、露草の心中などお見通しと言わんばかりだった。
「……オレは樹氷じゃないぞ? それでも良いのか?」
言葉が震えて掠れる。
「良いに決まってるだろ。さっき言ったじゃねーか、あたしたちは『露草』を連れて帰って来たんだ」
体の芯が熱をもつ。矩の言葉が痛い程に胸に刺さる。
心の底から安堵を覚えた。
「露草、さっそくお料理のお手伝いお願いしますね」
夕凪が露草の背中をポンと叩いて、自然な動作で台所へと促した。
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