スケアクロウ

里市

序幕

◆◇◆◇




『それが、お嬢さんの願いなら』


『あっしも腹ぁ括りやす』


『この居合を、お教え致しましょう』


『その上で……お嬢さん』


『一つだけ、聞かせて頂きやす』


『“何を”、斬るつもりですかい』







 荒れ果てた草木の茂みに。

 老いた非人が横たわっていた。

 通りがかりの“剣客”が、ふいに気付く。

 既に事切れていることを、一目で悟った。

 その亡骸には、蝿が集り始めている。


 老人の背には、鷹が留まっていた。

 周囲に纏わりつく蝿の群れも厭わず。

 鋭い嘴で、背肉をつついていた。

 骨の髄まで貪るように、何度も、何度も。


 死して尚、老人は簒われる。

 腐肉を漁られ、喰らわれる。

 野垂れ死んだ果てにも、踏み躙られる。

 惨めな末路に、“剣客”は怜れみを抱く。


 沈黙の中で、屍を静かに見据える。

 死肉を貪る鷹を追い払うか。“剣客”の脳裏に、そんな考えが浮かんだが。


 ああ、意味などない。

 “剣客”は、そう思った。


 結局、“彼女”は。

 “剣客”はただ、通り過ぎていく。

 何も捉えることのない、盲人のように。

 己の手にある仕込刀など、初めから持ち合わせていないかのように。

 老人の無念から、目を逸らしていく。


 鷹は、老いた死肉を啄む。

 誰にも妨げられることもなく。

 過ぎ去る“剣客”に、目を向けることもなく。




◆◇◆◇

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